No.03 Connect人とつながる
アイアクセシングキューとは?目の動きと思考
アイアクセシングキューとは、目の動きから思考の種類がわかるとするNLPの仮説です。言われている6つのパターン、科学的な検証の結果、「目の動きで嘘がわかる」が誤りである理由、相手を観察する入口としての健全な使い方を紹介します。
この記事の結論
アイアクセシングキューとは、人が考えるときの目の動きから、映像・音・体の感覚のどれを使っているかがわかる、とするNLPの仮説です。ただし研究では裏づけが得られておらず、嘘の見抜き方としても否定されています。相手を決めつける道具ではなく、観察と問いのきっかけとして使うのが健全です。
- 目の動きで思考の種類がわかるという仮説は、研究では支持されていない
- 「左上を見たら嘘」も誤り。人の嘘を見抜く力は、もともと偶然に近い
- 目の動きは「読む」より、相手が考えている合図として待つのに使える
目次 Contents
話している相手の目が、ふっと斜め上に動く。そのとき、相手は何を考えているのだろう。そんな素朴な疑問から、このページにたどり着いたのかもしれません。あるいは「目の動きで嘘がわかる」という話を聞いて、気になったのかもしれません。
人の心の中が見えたら、どんなに楽だろう。そう思うのは自然なことです。相手を理解したいという気持ちがあるからこそ、目の動きのような小さな手がかりに惹かれるのだと思います。
この記事では、NLPで言われているアイアクセシングキューの考え方を紹介します。そのうえで、科学的な検証で何がわかったのかを正直にお伝えします。最後に、「読む」のではなく、相手をよく観察する入口として使う方法を考えます。
アイアクセシングキューとは? 一言でいうと
アイアクセシングキューとは、人が考えるときの目の動きから、頭の中でどの感覚を使っているかがわかる、とする仮説です。NLP(神経言語プログラミング。優れた心理療法家の観察から生まれたコミュニケーションと自己変容の手法)の初期に紹介されました。紹介したのは、創始者のリチャード・バンドラーとジョン・グリンダーです。
「アクセシング」は、記憶や感覚に「アクセスする」こと、「キュー」は手がかりのことです。何かを思い出したり、想像したりするとき、人は映像・音・体の感覚・心の中の独り言のどれかを使っている。その違いが目の動きに表れる、というのがNLPの主張です。
この考え方は、「優位感覚(VAK)」とセットで紹介されることがよくあります。人には、情報を受け取るときに好む感覚がある、という考え方です。優位感覚については、優位感覚(VAK)とは?見る・聴く・感じるタイプで扱っています。
NLPで言われている6つのパターン
NLPでは、右利きの人の多くに、次のようなパターンが見られるとしてきました。向きは、本人から見た方向です。向かい合う相手から見ると、左右が逆になります。
| 目の動き(本人から見て) | NLPでの解釈 | 例として挙げられる問い |
|---|---|---|
| 左上 | 見たことのある映像を思い出している | 「子どものころの家の玄関は何色?」 |
| 右上 | 見たことのない映像を想像している | 「紫色のキリンを思い浮かべて」 |
| 左横 | 聞いたことのある音を思い出している | 「好きな曲のサビは?」 |
| 右横 | 聞いたことのない音を想像している | 「自分の声が高くなったらどう聞こえる?」 |
| 左下 | 心の中で独り言を言っている | 「自分に何と言い聞かせている?」 |
| 右下 | 体の感覚や感情を感じている | 「冷たい水に手を入れた感じは?」 |
科学的には、どう検証されてきた?
アイアクセシングキューは、NLPの主張の中でも、実験で確かめやすいものです。そのため、1980年代から多くの研究者が検証してきました。
結論からいうと、目の動きと思考の種類を結びつける主張は、研究では支持されていません。心理学者シャープリーは、1980年代の研究を見直しました。そして、目の動きや優位感覚にかかわるNLPの主張には、裏づけとなるデータが得られていないとまとめています(Sharpley, 1987)。その後のNLP研究の総説でも、評価は変わっていません(Witkowski, 2010)。
一方で、「考えるときに視線がそれる」こと自体は、実際によく起きる現象です。難しい問いに答えるとき、人は相手の顔から目をそらしやすく、そうすると思い出しやすくなる、という研究もあります(Glenberg ら, 1998)。目の前の情報を一時的に遮って、頭の中に集中しているのだと考えられています。
つまり、「考えるときに目が動く」はおおむね本当です。でも、「どの方向に動いたかで、何を考えているかがわかる」は確かめられていない、ということです。
それでも、この説が広まった理由
裏づけがないのに、アイアクセシングキューはなぜ広く知られているのでしょうか。いくつかの理由が考えられます。
まず、自分で試すと、ときどき表のとおりになることです。当たったときの印象は強く残り、外れたときのことは忘れやすい。心理学で「確証バイアス」と呼ばれる心の働きです。次に、図にするとわかりやすく、人に教えやすいこと。そして、「人の心が読める」という話そのものに、強い魅力があることです。
NLPには、このように研究の裏づけが弱い主張と、観察やふり返りの道具として役に立つ考え方が混ざっています。全体像と付き合い方は、NLPとは?神経言語プログラミングの基本と活かし方で整理しています。
「目の動きで嘘がわかる」は本当?
アイアクセシングキューは、嘘を見抜く方法として紹介されることがあります。「右上を見るのは、記憶ではなく想像しているから嘘だ」という説明です。
研究では、関連が見つからなかった
心理学者ワイズマンらは、2012年に3つの研究でこの説を検証しました。実験室で嘘をついてもらった場合も、目の動きと嘘の間に関連は見られませんでした。実際の記者会見で嘘をついていた人の映像を分析しても、結果は同じでした。さらに、目の動きで嘘を見抜く方法を教えたグループも、教えなかったグループと見抜く力は変わりませんでした。
なお、NLPの創始者たち自身は、もともとアイアクセシングキューを嘘の見抜き方として説明していたわけではありません。嘘との結びつきは、のちに広まった使い方です。
人は、そもそも嘘を見抜くのが苦手
嘘の見抜き方を調べた多くの研究をまとめた分析では、人が嘘と本当を見分けられた割合は、平均で54%ほどでした(Bond & DePaulo, 2006)。コインを投げて当てる確率とほとんど変わりません。目の動きのような一つのしぐさで嘘がわかる、という考えは、手放したほうが安全です。
相手を「嘘つき」と決めつけてしまうと、関係そのものが壊れることもあります。
健全な使い方:読むより、観察と問いの入口に
では、アイアクセシングキューは役に立たないのでしょうか。相手の心を読む道具としては、役に立ちません。でも、相手をよく見る練習の入口としては使えます。
目が動いたら、「考えている合図」として待つ
質問をしたあと、相手の目が宙を泳いだら、それは答えを探している合図かもしれません。そこで次の言葉をかぶせず、少し待つ。それだけで、相手は自分のペースで考えを言葉にできます。目の向きの意味を当てるより、ずっと役に立つ使い方です。考える時間を尊重してもらえると、人は「この人には安心して話せる」と感じやすくなります。そうした信頼関係については、ラポールとは?信頼関係を築く5つのコツもどうぞ。
決めつけずに、相手に聞く
相手の様子が気になったら、解釈を押しつけずに聞いてみます。「今、何か思い浮かんだ?」。目の動きは答えではなく、問いのきっかけです。相手のふだんの様子と比べて、変化に気づく力については、キャリブレーションとは?相手の変化に気づく力で詳しく紹介しています。
自分の目の動きを観察してみる
いちばん安全で、おもしろいのは、自分で試してみることです。人の目を読むのではなく、自分の考え方のクセに気づくための遊びとして使います。
表のとおりにならなくても、あなたがおかしいわけではありません。そもそも仮説に裏づけがないからです。このワークの価値は、「考えるとき、自分はこんなふうに目をそらすんだ」と気づくことにあります。
目は心の窓。でも、窓の向こうは本人にしか見えない
目の動きは、相手が何かを考えている、ということを教えてくれます。でも、何を考えているのかまでは教えてくれません。窓の向こうの景色を知っているのは、本人だけです。
相手を知りたいなら、目を読むより、話を聞くことです。表情やしぐさから伝わることの全体像は、非言語コミュニケーションとは?表情・声・しぐさで紹介しています。
次に誰かが考えこんで目をそらしたら、言葉をはさまずに、3秒だけ待ってみてください。その沈黙の先に出てくる言葉のほうが、目の向きよりずっと多くを教えてくれます。
A question for you
あなたへの問い
考えごとをするとき、あなたの目はどこを見ていますか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
アイアクセシングキューは嘘ですか?
「目の動きで思考の種類がわかる」という主張は、これまでの研究では支持されていません。ただ、考えるときに視線がそれるという現象自体は、日常でもよく見られます。目の向きの意味を決めつけず、相手が考えている合図として受け取るくらいが妥当です。
左上を見るのは、嘘をついているサインですか?
そうとは言えません。目の動きと嘘の関係を調べた研究では、関連は見つかりませんでした。目の動きで嘘を見抜くトレーニングをしても、見抜く力は上がらなかったと報告されています。
目の動きは、利き手で変わりますか?
NLPでは、左利きの人は左右が逆になることがある、と説明されます。ただ、もとの仮説そのものに十分な裏づけがないため、利き手による違いも確かな話とはいえません。
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References
- Bandler, R., & Grinder, J. (1979). Frogs into Princes: Neuro Linguistic Programming. Real People Press.
- Wiseman, R., Watt, C., ten Brinke, L., Porter, S., Couper, S.-L., & Rankin, C. (2012). The eyes don't have it: Lie detection and Neuro-Linguistic Programming. PLoS ONE, 7(7), e40259.
- Sharpley, C. F. (1987). Research findings on neurolinguistic programming: Nonsupportive data or an untestable theory? Journal of Counseling Psychology, 34(1), 103–107.
- Witkowski, T. (2010). Thirty-five years of research on Neuro-Linguistic Programming. NLP research data base. State of the art or pseudoscientific decoration? Polish Psychological Bulletin, 41(2), 58–66.
- Bond, C. F., Jr., & DePaulo, B. M. (2006). Accuracy of deception judgments. Personality and Social Psychology Review, 10(3), 214–234.
- Glenberg, A. M., Schroeder, J. L., & Robertson, D. A. (1998). Averting the gaze disengages the environment and facilitates remembering. Memory & Cognition, 26(4), 651–658.