No.03 Connect人とつながる

ペーシングとは?相手に合わせて心を通わせる

ペーシングとは、相手の話す速さや声の調子、気持ちの温度に合わせること。体・声・言葉の3つの層での合わせ方、研究でわかっていること、合わせてから導くリーディング、あえて外すミスマッチングまで、操作ではなく配慮として使う方法を紹介します。

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この記事の結論

ペーシングとは、相手の話す速さや声の調子、気持ちの温度などに合わせることです。NLPでは信頼関係づくりの基本とされます。合わせてから少しずつ導く「リーディング」、あえて合わせない「ミスマッチング」とあわせて、相手のペースを尊重するための配慮として使います。

  • ペーシングは体・声・言葉の3つの層で、相手の「今」に寄り添うこと
  • 合わせすぎると見下しや巻きこまれにつながる。強さは一段控えめに
  • 導く(リーディング)、外す(ミスマッチング)も、相手を尊重して使う
目次 Contents
  1. ペーシングとは? 一言でいうと
  2. 何に合わせる? ペーシングの3つの層
  3. 研究ではどう言われている?
  4. 合わせてから導く:リーディング
  5. あえて外す:ミスマッチング
  6. ペーシングを練習してみる
  7. 合わせるのは、相手の世界に一度お邪魔すること

話していると、なぜか急かされている気がする人がいます。反対に、たいした話をしていないのに、ほっとする人もいます。その違いは、話の中身よりも、二人の「ペース」が合っているかどうかにあるのかもしれません。

ペーシング(相手の話し方や調子に合わせること)を調べているあなたは、相手ともっと通じ合いたいと願う人なのだと思います。一方で、「合わせるって、自分を殺すこと?」「テクニックっぽくて抵抗がある」という気持ちもあるかもしれません。その違和感は、とてもまっとうなものです。

ペーシングは、相手を思いどおりに動かす技術ではありません。相手の「今」に、いったん寄り添うための配慮です。ラポール(安心して話せる信頼関係)全体の育て方はラポールとは?信頼関係を築く5つのコツで扱いました。この記事では、ペーシングそのものをもう一段深く掘り下げます。

何に、どう合わせるのか。合わせたあとに導く「リーディング」と、あえて外す「ミスマッチング」まで、ひとつの流れで見ていきます。

ペーシングとは? 一言でいうと

ペーシングとは、相手の話す速さや声の調子、気持ちの温度などに合わせ、相手の「今」に寄り添うことです。英語の pace(歩調)から来ていて、一緒に歩く人と歩幅をそろえるイメージに近い言葉です。

この言葉は、NLP(神経言語プログラミング。優れた心理療法家の観察から生まれたコミュニケーションと自己変容の手法)で広まりました。創始者のバンドラーとグリンダーは、精神科医ミルトン・エリクソンの面接を詳しく分析しました。そして、エリクソンが相手の今の体験をていねいに言葉にし、そこから少しずつ導いていくことに注目したのです。

マッチングとの違い

似た言葉に「マッチング」があります。ほぼ同じ意味で使われることも多いのですが、区別するなら次のようになります。

言葉意味たとえ
マッチング話す速さや姿勢など、特定の要素を相手とそろえる行為歩幅をそろえる
ペーシングそれらを通して、相手の今の状態に寄り添い続けること一緒に歩き続ける
ミラーリング相手のしぐさや姿勢を、鏡のように映すこと足の運びまでそろえる

マッチングは「点」、ペーシングは「線」と考えるとわかりやすいかもしれません。相手のペースは、会話の途中で変わります。それに気づいて合わせ直し続けるのが、ペーシングです。

しぐさを映すミラーリングについては、ミラーリングとは?効果とやりすぎない使い方で詳しく扱っています。

何に合わせる? ペーシングの3つの層

ペーシングで合わせるものは、大きく3つの層に分けられます。全部を一度にやる必要はありません。合わせやすいものをひとつ選ぶだけで十分です。

層合わせるものたとえば
体姿勢、動きの速さ、呼吸のリズムゆったり座る人の前では、こちらも動きをゆるめる
声話す速さ、声の大きさ、高さ、間の取り方考えながら話す人には、返事の前に少し間をおく
言葉と気持ち相手の使う言葉、話題、感情の温度、置かれた状況相手の言葉をそのまま使い、感じていることを言葉にする

体と声:いちばん伝わりやすい層

体と声のペースは、意識しなくても相手に伝わります。早口でまくしたてる人に、のんびりした口調で返すと、相手はじれったく感じるかもしれません。逆に、言葉を探しながらゆっくり話す人に、てきぱきと返すと、急かされているように感じます。

ポイントは、まねることではなく、テンポをそろえることです。相手の呼吸が浅く速いときは、こちらも話のテンポを少し上げる。相手が黙って考えはじめたら、こちらも黙って待つ。それだけで、会話のリズムがそろいはじめます。

言葉と気持ち:相手の「今」を言葉にする

もうひとつの層は、言葉です。相手が「しんどい」と言ったら、「大変だったね」と言い換えずに「しんどかったね」と返す。相手の使った言葉には、相手なりの手触りがあるからです。このように相手の言葉を返す方法は、バックトラッキングとは?おうむ返しの上手な使い方で詳しく紹介しています。

エリクソンの話し方の特徴は、相手が今まさに体験していることを、そのまま言葉にすることでした。「今日は朝から会議が続いていましたね」「この件、ずっと気にかかっていたんですね」。相手が「そうそう」とうなずける事実を言葉にすると、相手は「わかってもらえている」と感じやすくなります。エリクソンの言葉の使い方は、ミルトンモデルとは?心に届くあいまいな言葉でも扱っています。

気持ちの温度は「一段控えめ」に合わせる

感情に合わせるときは、注意が必要です。怒っている人に同じ勢いで怒り返すと、火に油を注ぐことになります。落ちこんでいる人の前で一緒に沈みこむと、二人とも抜け出せなくなります。

目安は、相手の真剣さには寄り添い、強さは一段控えめにすることです。怒っている人には、早めのテンポと真剣な表情で応じながら、声は相手より少し落ち着かせる。そうすると、相手は「受け止めてもらえた」と感じつつ、少しずつ熱を下げていけます。

研究ではどう言われている?

ペーシングという言葉はNLPのものですが、「相手に合わせる」ことは、言語学や心理学でも研究されてきました。

言語学者のジャイルズらが発展させた理論に、「コミュニケーション調整理論」があります。この理論では、話す速さや言葉づかいを相手に近づけることを「収束」と呼びます。収束は、多くの場合、相手からの好意的な評価につながるとされます(Giles ら, 1991)。

ただし、この理論は合わせすぎの害も指摘しています。たとえば、高齢者に対して必要以上にゆっくり、子どもに話すように話しかける。こうした過剰な調整は、相手に「見下されている」と感じさせることがあるのです。合わせるべきは「相手について自分が思いこんでいるペース」ではなく、目の前の相手の実際のペースです。

合わせてから導く:リーディング

ペーシングで相手と歩調がそろったら、こちらが少しペースを変えてみます。相手がそれについてくることを、NLPでは「リーディング」と呼びます。

たとえば、焦って早口になっている同僚がいるとします。最初はこちらも少し速めのテンポで「それは焦るね、締め切りが明日なんだね」と応じます。何度かやりとりして歩調がそろったら、こちらの話す速さを少しずつ落とします。相手の口調も落ち着いてきたら、リーディングが起きています。

ついてこないときは、ペーシングに戻る

こちらがペースを変えても、相手がついてこないことがあります。それは失敗ではなく、まだ相手の気持ちが追いついていないというサインです。そんなときは、もう一度相手のペースに戻って、寄り添う時間を長くします。

リーディングを焦ると、相手は「わかってもらえないまま、話を変えられた」と感じます。合わせる時間は、導く時間より長くてかまいません。相手がついてきているかどうかは、表情や声の変化から読みとります。その観察の方法は、キャリブレーションとは?相手の変化に気づく力で紹介しています。

導く方向を、自分に問う

リーディングには、相手に影響を与える力があります。だからこそ、使う前に自分に問いかけてください。「この方向は、相手が望んでいる方向だろうか」。

焦っている人が落ち着く、落ちこんでいる人が少し前を向く。相手自身が望んでいる変化を手伝うのが、リーディングの本来の使い方です。商品を買わせる、反論させないといった、自分の都合のために使えば、それは操作です。

「ペーシングやNLPは、相手の心理を操って思いどおりに動かすテクニックだ」。そんな誤解もよく耳にします。『思ったことがうまく話せない人のNLP会話術』PRによれば、相手の心理を思いどおりに操ることは、そもそもできません。操ろうという意図をもって近づけば、相手は警戒して心を閉ざしてしまうからです。操作のための使い方は、誠実さの面だけでなく、関係づくりの面でも逆効果になるということです。

同書では、ペーシングは、お互いが心を開き、よりよい結論にたどりつくための信頼関係づくりに使うものとされています。合わせる目的が「動かすこと」から「わかり合うこと」に変わると、同じ技術でも相手に伝わるものが変わってきます。

あえて外す:ミスマッチング

ペーシングの反対に、あえて相手と違うペースをとることを「ミスマッチング」と呼びます。関係を壊すためではありません。会話の流れを切り替えたいときに、穏やかに使う方法です。

話を切り上げたいとき

長電話や立ち話を終えたいとき、言葉で「そろそろ」と言う前に、ペースを少し変えてみます。視線を手元の資料に移す、体の向きを少し出口に向ける、声のトーンを締めくくりの調子に変える。多くの場合、相手も自然に「じゃあ、また」と話をまとめてくれます。

同じ話がぐるぐる回るとき

同じ愚痴が何度もくり返されるとき、ずっと同じ調子で相づちを打っていると、ループは続きます。ひと呼吸おいて姿勢を変え、「ところで、あなたはどうしたいと思ってる?」と声の調子を変えて聞く。ペースを外すことが、話の向きを変えるきっかけになります。

自分が巻きこまれそうなとき

人の感情は、表情や声を通して周りに伝わりやすいことが知られています。心理学では「情動伝染」と呼ばれます(Hatfield ら, 1994)。不安の強い人の話を長く聞いていると、こちらまで落ち着かなくなるのはそのためです。

相手に合わせすぎて自分がつらくなってきたら、意識してゆっくり呼吸し、自分のペースに戻ってください。それは冷たさではなく、相手を支え続けるための自己防衛です。合わせすぎて疲れやすい人は、人の目が気になる理由と、気にしすぎない方法も参考になるかもしれません。

ペーシングを練習してみる

ペーシングは、知識より体で覚えるものです。ふだんの会話の中で、少しずつ試してみてください。

最初は、合わせることに気をとられて、話の中身が頭に入らないかもしれません。それで大丈夫です。慣れてくると、意識しなくても相手のテンポを感じとれるようになります。

合わせるのは、相手の世界に一度お邪魔すること

ペーシングは、自分を消して相手に従うことではありません。相手が今いる場所に、いったん足を運んでみることです。そこから景色を眺めてはじめて、「では、一緒にどこへ向かおうか」と話せるようになります。

合わせても、あなたの考えまで相手と同じにする必要はありません。ペースは寄り添い、意見は自分のままでいい。その両方があるとき、ペーシングは操作ではなく、思いやりの形になります。

次に誰かと話すとき、相手の話す速さに、ほんの少しだけ耳を澄ませてみてください。それが、相手の世界にお邪魔する最初の一歩です。

A question for you

あなたへの問い

あなたが「この人とは話しやすい」と感じる人は、どんなペースで話しますか?

このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。

よくある質問

ペーシングとマッチングは、何が違いますか?

ほぼ同じ意味で使われることが多い言葉です。区別する場合は、話す速さや姿勢など、特定の要素を相手とそろえる行為をマッチングと呼びます。ペーシングは、それらを通して相手の今の状態に寄り添い続ける、より広い関わりを指します。

ペーシングは、相手をだますテクニックではありませんか?

使い方しだいです。相手のペースを尊重して話しやすくするために使えば、ふだん人が自然にしている配慮と変わりません。一方、自分の都合のいい結論へ誘導するために使えば、操作になります。「この方向は、相手が望んでいるか」を自分に問うのが目安です。

怒っている人にも、ペーシングするべきですか?

怒りそのものをまねる必要はありません。相手の話す速さや真剣さには少し寄り添いつつ、声の大きさや強さは一段控えめにします。そのうえで、相手が困っている事実を言葉にして受け止めると、落ち着きを取り戻しやすくなります。

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References

  • Bandler, R., & Grinder, J. (1975). Patterns of the Hypnotic Techniques of Milton H. Erickson, M.D., Vol. 1. Meta Publications.
  • Giles, H., Coupland, J., & Coupland, N. (Eds.). (1991). Contexts of Accommodation: Developments in Applied Sociolinguistics. Cambridge University Press.
  • Hove, M. J., & Risen, J. L. (2009). It's all in the timing: Interpersonal synchrony increases affiliation. Social Cognition, 27(6), 949–961.
  • Hatfield, E., Cacioppo, J. T., & Rapson, R. L. (1994). Emotional Contagion. Cambridge University Press.
  • Tickle-Degnen, L., & Rosenthal, R. (1990). The nature of rapport and its nonverbal correlates. Psychological Inquiry, 1(4), 285–293.
  • Sharpley, C. F. (1987). Research findings on neurolinguistic programming: Nonsupportive data or an untestable theory? Journal of Counseling Psychology, 34(1), 103–107.
  • 『思ったことがうまく話せない人のNLP会話術』第4章 p.74

本当の人生を生きる 編集部

コーチング・NLP・心理学の書籍や研究をもとに、自分を知るための知恵を、やさしい言葉でお届けしています。記事は編集方針に沿って作成し、定期的に見直しています。