No.03 Connect人とつながる

バックトラッキングとは?おうむ返しの上手な使い方

バックトラッキングとは、相手の言葉を返して「ちゃんと届いた」と伝える聴き方。事実・感情・要約の3種類の返し方を例文で紹介し、そのまま返すか言い換えるかの判断、機械的なおうむ返しにならないコツ、話の区切りで使うバックトラック・フレームまで。

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この記事の結論

バックトラッキングとは、相手が話した言葉や気持ちを、こちらの言葉で返す聴き方です。いわゆる「おうむ返し」ですが、全部を繰り返すのではなく、事実のキーワード、感情、話の要点のいずれかを選んで短く返します。相手は理解されたと感じ、自分の話を聞き直すこともできます。

  • 返し方は3種類。事実のキーワード、感情、話の要約から選んで返す
  • 相手が大切そうに使った言葉は、言い換えずにそのまま返す
  • 全部を返さず、語尾を変え、返したあとは相手の言葉を待つ
目次 Contents
  1. バックトラッキングとは? 一言でいうと
  2. 3種類の返し方と例文
  3. 「そのまま返す」か「言い換える」か
  4. 機械的なおうむ返しにならない5つのコツ
  5. おうむ返しが合わない場面もある
  6. 話の区切りで使う「バックトラック・フレーム」
  7. 自分の言葉を、自分に返してみる
  8. 返された言葉の中で、人は自分に出会う

「おうむ返しをすると、話を聴いていると伝わる」。そう聞いて試してみたものの、なんだかわざとらしくなってしまった。

相手に「なんで同じことを言うの?」と怪訝な顔をされた。そんな経験から、このページにたどりついた人もいるかもしれません。

相手の言葉を返すことは、簡単そうに見えて、意外と奥が深いものです。どの言葉を、どれくらい、どんな調子で返すか。ちょっとした違いで、「わかってもらえた」にも「機械的だ」にもなります。

うまくいかなかったのは、センスがないからではありません。返し方には種類があり、使い分けのコツがあるからです。

この記事では、バックトラッキングの3種類の返し方を例文で紹介します。言葉をそのまま返すか言い換えるかの判断や、機械的にならないコツ、会議や話し合いで使える応用まで見ていきます。

バックトラッキングとは? 一言でいうと

バックトラッキングとは、相手が話した言葉や気持ちを、短く返して「ちゃんと届いた」と伝えることです。日本語では「おうむ返し」と呼ばれることが多く、NLP(神経言語プログラミング。優れた心理療法家の観察から生まれたコミュニケーションと自己変容の手法)やコーチングで基本の技術とされています。

カウンセリングの世界でも、相手の言葉を返すことは、聴き方の基本として大切にされてきました。カウンセラー教育で広く使われている方法に、「マイクロカウンセリング」があります。そこでは、言い換え、感情の反映、要約などが、基本の技法として整理されています(Ivey ら, 2018)。

言葉を返すと、何が起きる?

言葉を返すことには、少なくとも3つの働きがあります。

  • 相手が「理解された」と感じる:自分の話が届いたことを、言葉で確かめられる
  • 誤解に早く気づける:返した内容がずれていれば、相手がその場で訂正できる
  • 相手が自分の話を聞き直せる:自分の言葉を外から聞くと、考えや気持ちが整理されやすい

3つ目の働きは、見落とされがちです。人は、自分が何を言ったかを、意外と覚えていません。返された言葉を聞いて、「そう、私はそれが言いたかった」「あれ、ちょっと違うな」と、自分の気持ちに気づくことがあるのです。

3種類の返し方と例文

バックトラッキングは、何を返すかによって3つに分けられます。

種類返すもの向いている場面
事実を返す相手が使ったキーワードや出来事話のはじめ、相手が話を広げたいとき
感情を返す相手が感じている気持ち悩みや不安を話しているとき
要約して返す話の要点やつながり話が長くなったとき、区切りをつけたいとき

1. 事実を返す:キーワードを拾う

相手の話の中から、大切そうなキーワードを拾って返します。もっとも基本の返し方です。

  • 相手「昨日、急に部長から呼び出されてさ」
  • 返し「部長から呼び出されたんだ」

ポイントは、全部ではなく一部を返すことです。相手がいちばん伝えたそうな部分、声に力が入った部分を選びます。

2. 感情を返す:気持ちに名前をつける

相手が言葉にしていない気持ちを、そっと言葉にして返します。

  • 相手「せっかく準備したのに、会議が中止になったんだよね」
  • 返し「せっかく準備したのに、拍子抜けしちゃったね」

感情を返すと、相手は「そこまでわかってくれた」と感じやすくなります。ただし、感情は推測です。「がっかりしたよね」と言い切るより、「がっかりした感じ?」と少し余白を残すほうが、外れたときに相手が訂正しやすくなります。

子どもとの関わりでも、気持ちを言葉にして返すことは大切にされてきました。「積み木が崩れて、悔しかったね」。気持ちに名前がつくと、子どもは自分の気持ちを少しずつ扱えるようになっていきます(Faber & Mazlish, 1980)。

3. 要約して返す:話をまとめる

話が長くなったときは、要点をまとめて返します。

  • 返し「つまり、仕事は好きだけど、残業が続いて家族との時間がとれないのがつらい、ということかな」

要約は、相手が話を整理するのを助けます。最後に「ということかな」「合ってる?」と確かめると、相手が補足しやすくなります。

この「確かめる」には、もう一歩深い意味があります。『実務入門 NLPの基本がわかる本』PRでは、本当の確認とは、言葉をそのまま繰り返すことではないと説明されています。話し手が伝えたかった体験(A)と、聞き手が受けとった理解(B)を一致させること。「私はBのように受けとったけれど、伝えたかったAと合っていますか」と照らし合わせるのが、本当の確認だというのです。言葉を返すのは、AとBのずれを見つけるための手段なのです。

「そのまま返す」か「言い換える」か

相手の言葉をそのまま返すか、自分の言葉で言い換えるか。これは、バックトラッキングでよく迷うところです。

NLPでは、相手が使った言葉をできるだけそのまま使うことを重視します。言葉には、その人なりの手触りがあるからです。相手が「悔しい」と言ったのに、「残念だったね」と言い換えたとします。相手は「残念というより、悔しいんだけど」と感じるかもしれません。

レストランの店員が客の注文を言葉どおりに繰り返すと、チップが増えたという実験もあります(van Baaren ら, 2003)。言葉をそのまま返すことには、「あなたの言ったことを、そのまま受けとった」という合図の力があるのです。

一方、カウンセリングでは、言い換えも大切な技法とされています。言い換えると、相手は自分の話を別の角度から聞き直せるからです。使い分けの目安は、次のとおりです。

  • そのまま返す:感情を表す言葉、相手の価値観がにじむ言葉、相手が何度も使う言葉
  • 言い換える・要約する:長い話の筋道、事実の確認、話を整理したいとき

機械的なおうむ返しにならない5つのコツ

1. 全部を返さない

相手の発言をまるごと繰り返すと、ロボットのような印象になります。返すのは、キーワードひとつか、ひと言の要約で十分です。

2. 語尾を自分の言葉にする

「部長に呼び出された」に対して、「部長に呼び出された」と返すより、「部長に呼び出されたんだ」「部長に?」と語尾を変えるほうが自然です。語尾に、あなたの驚きや関心がにじみます。

3. 声の調子を、相手に合わせる

同じ言葉でも、声の調子で印象は大きく変わります。深刻な話には落ち着いた声で、うれしい話には少し明るい声で返します。声や話す速さを相手に合わせる方法は、ペーシングとは?相手に合わせて心を通わせるで紹介しています。

4. 返したら、待つ

言葉を返したあと、すぐに次の質問をしないことが大切です。返された言葉を聞いて、相手は自分の気持ちを確かめています。少し待つと、相手のほうから話を続けてくれます。

5. ずれても、気にしない

返した言葉が、相手の思いとずれることもあります。

「いや、そうじゃなくて」と言われたら、それは失敗ではありません。相手が本当に言いたかったことに、一歩近づいたのです。「そうか、どういう感じ?」と聴き直せば大丈夫です。

返したあとに、問いを添える

返した言葉に、短い問いを添えると、会話はもう一歩深まります。「部長に呼び出されたんだ。何の話だったの?」。返すことで「聴いている」を伝え、問いで「もっと聴かせて」を伝えるのです。問いの組み立て方は、オープンクエスチョンとクローズドの使い分けで紹介しています。

相手の言葉が「みんな」「いつも」のように大づかみなときは、そのまま返してから具体的に聞くのも一つの方法です。「いつも、なんだね。最近だと、どんなことがあった?」。言葉の奥にある具体的な体験を聴く質問は、メタモデルとは?言葉の奥にある本音を聴く質問で詳しく扱っています。

聴き方全体の土台については、傾聴のコツ|聴くことで人とつながる方法もあわせて読んでみてください。言葉だけでなく、しぐさを合わせる方法はミラーリングとは?効果とやりすぎない使い方で扱っています。

おうむ返しが合わない場面もある

バックトラッキングは万能ではありません。次のような場面では、返すより先にすることがあります。

  • 相手が情報を求めているとき:「駅はどっち?」に「駅はどっちか、だね」と返されたら、誰でもいらっとします。答えを伝えるのが先です。
  • 相手が強く怒っているとき:「怒ってるんだね」と感情を名指しすると、火に油を注ぐことがあります。まずは怒っている理由になった事実を返します。
  • 急ぎの業務連絡のとき:返すなら、聞き違いを防ぐための確認として、要点だけを短く復唱します。

バックトラッキングは、相手が気持ちや考えを話したいときにこそ力を発揮します。相手が今、何を求めているのかを見てから使ってください。

話の区切りで使う「バックトラック・フレーム」

バックトラッキングを、会話全体の流れに広げた使い方もあります。NLPで「バックトラック・フレーム」と呼ばれるもので、話の区切りで、それまでの内容をまとめて確認する方法です。

バックトラック・フレームは、次のような場面で役に立ちます。

  • 会議や打ち合わせを再開するとき:「前回は、〇〇まで決まりましたね」
  • 意見が対立しているとき:両方の言い分を要約してから、提案に入る
  • 1on1や面談の最後:「今日は、〇〇と〇〇の話をしましたね」と振り返る

意見が対立しているときは、相手の主張を、相手が納得する形で要約してみてください。相手は「この人は、少なくとも私の話を理解している」と感じます。反論や提案は、そのあとのほうがずっと届きやすくなります。

自分の言葉を、自分に返してみる

バックトラッキングは、人に使うだけのものではありません。自分の悩みや考えを書き出して、それを自分に返してみると、気持ちが整理されることがあります。

最後の「ちょっと違う」という感覚が、実は大切な手がかりです。違いを言葉にしようとすると、自分が本当に感じていることに近づいていきます。書くことで気持ちを整理する方法は、ジャーナリングとは?書く瞑想のやり方と効果でも紹介しています。

返された言葉の中で、人は自分に出会う

バックトラッキングは、相手の言葉を写しとるだけの技術に見えるかもしれません。けれども、言葉を返してもらった人は、その言葉の中で自分の気持ちに出会い直します。あなたが返す短いひと言が、相手にとっての鏡になるのです。

上手に返そうとしなくて大丈夫です。相手が大切そうに口にした言葉を、ひとつだけ、ていねいに拾う。それだけで、会話の手触りは変わります。

次に誰かの話を聴くときは、相手が何度か使った言葉に耳を澄ませてみてください。その言葉をそっと返したとき、相手の表情がどう動くかを見てみてください。

A question for you

あなたへの問い

最近、自分の言葉をそのまま返されて、はっとしたことはありますか?

このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。

よくある質問

おうむ返しをすると、バカにされていると思われませんか?

相手の言葉を全部そのまま繰り返すと、そう感じさせることがあります。キーワードだけを返す、語尾を「〜なんだね」と自分の言葉にする、といった工夫で自然になります。返す量は、相手の話の一部で十分です。

バックトラッキングと傾聴は、どう違いますか?

傾聴は、相手を理解しようとする聴き方の全体を指します。バックトラッキングは、その中で使う具体的な方法のひとつです。相づちや質問、沈黙を待つことなどと組み合わせて使います。

相手の言葉を返したら、「そういうことじゃない」と言われました。

それは失敗ではありません。相手が自分の言葉で訂正してくれたことで、本当に言いたかったことに近づけたからです。「そうか、じゃあどういう感じ?」と、もう一度聴けば大丈夫です。

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References

  • Ivey, A. E., Ivey, M. B., & Zalaquett, C. P. (2018). Intentional Interviewing and Counseling: Facilitating Client Development in a Multicultural Society (9th ed.). Cengage Learning.
  • Rogers, C. R. (1957). The necessary and sufficient conditions of therapeutic personality change. Journal of Consulting Psychology, 21(2), 95–103.
  • van Baaren, R. B., Holland, R. W., Steenaert, B., & van Knippenberg, A. (2003). Mimicry for money: Behavioral consequences of imitation. Journal of Experimental Social Psychology, 39(4), 393–398.
  • Faber, A., & Mazlish, E. (1980). How to Talk So Kids Will Listen & Listen So Kids Will Talk. Rawson, Wade.
  • 『実務入門 NLPの基本がわかる本』第1章 p.62-63
  • 『心時代の夜明け』第4章 p.119-120

本当の人生を生きる 編集部

コーチング・NLP・心理学の書籍や研究をもとに、自分を知るための知恵を、やさしい言葉でお届けしています。記事は編集方針に沿って作成し、定期的に見直しています。