No.03 Connect人とつながる
バックトラッキングとは?おうむ返しの上手な使い方
バックトラッキングとは、相手の言葉を返して「ちゃんと届いた」と伝える聴き方。事実・感情・要約の3種類の返し方を例文で紹介し、そのまま返すか言い換えるかの判断、機械的なおうむ返しにならないコツ、話の区切りで使うバックトラック・フレームまで。
この記事の結論
バックトラッキングとは、相手が話した言葉や気持ちを、こちらの言葉で返す聴き方です。いわゆる「おうむ返し」ですが、全部を繰り返すのではなく、事実のキーワード、感情、話の要点のいずれかを選んで短く返します。相手は理解されたと感じ、自分の話を聞き直すこともできます。
- 返し方は3種類。事実のキーワード、感情、話の要約から選んで返す
- 相手が大切そうに使った言葉は、言い換えずにそのまま返す
- 全部を返さず、語尾を変え、返したあとは相手の言葉を待つ
目次 Contents
「おうむ返しをすると、話を聴いていると伝わる」。そう聞いて試してみたものの、なんだかわざとらしくなってしまった。
相手に「なんで同じことを言うの?」と怪訝な顔をされた。そんな経験から、このページにたどりついた人もいるかもしれません。
相手の言葉を返すことは、簡単そうに見えて、意外と奥が深いものです。どの言葉を、どれくらい、どんな調子で返すか。ちょっとした違いで、「わかってもらえた」にも「機械的だ」にもなります。
うまくいかなかったのは、センスがないからではありません。返し方には種類があり、使い分けのコツがあるからです。
この記事では、バックトラッキングの3種類の返し方を例文で紹介します。言葉をそのまま返すか言い換えるかの判断や、機械的にならないコツ、会議や話し合いで使える応用まで見ていきます。
バックトラッキングとは? 一言でいうと
バックトラッキングとは、相手が話した言葉や気持ちを、短く返して「ちゃんと届いた」と伝えることです。日本語では「おうむ返し」と呼ばれることが多く、NLP(神経言語プログラミング。優れた心理療法家の観察から生まれたコミュニケーションと自己変容の手法)やコーチングで基本の技術とされています。
カウンセリングの世界でも、相手の言葉を返すことは、聴き方の基本として大切にされてきました。カウンセラー教育で広く使われている方法に、「マイクロカウンセリング」があります。そこでは、言い換え、感情の反映、要約などが、基本の技法として整理されています(Ivey ら, 2018)。
言葉を返すと、何が起きる?
言葉を返すことには、少なくとも3つの働きがあります。
- 相手が「理解された」と感じる:自分の話が届いたことを、言葉で確かめられる
- 誤解に早く気づける:返した内容がずれていれば、相手がその場で訂正できる
- 相手が自分の話を聞き直せる:自分の言葉を外から聞くと、考えや気持ちが整理されやすい
3つ目の働きは、見落とされがちです。人は、自分が何を言ったかを、意外と覚えていません。返された言葉を聞いて、「そう、私はそれが言いたかった」「あれ、ちょっと違うな」と、自分の気持ちに気づくことがあるのです。
3種類の返し方と例文
バックトラッキングは、何を返すかによって3つに分けられます。
| 種類 | 返すもの | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 事実を返す | 相手が使ったキーワードや出来事 | 話のはじめ、相手が話を広げたいとき |
| 感情を返す | 相手が感じている気持ち | 悩みや不安を話しているとき |
| 要約して返す | 話の要点やつながり | 話が長くなったとき、区切りをつけたいとき |
1. 事実を返す:キーワードを拾う
相手の話の中から、大切そうなキーワードを拾って返します。もっとも基本の返し方です。
- 相手「昨日、急に部長から呼び出されてさ」
- 返し「部長から呼び出されたんだ」
ポイントは、全部ではなく一部を返すことです。相手がいちばん伝えたそうな部分、声に力が入った部分を選びます。
2. 感情を返す:気持ちに名前をつける
相手が言葉にしていない気持ちを、そっと言葉にして返します。
- 相手「せっかく準備したのに、会議が中止になったんだよね」
- 返し「せっかく準備したのに、拍子抜けしちゃったね」
感情を返すと、相手は「そこまでわかってくれた」と感じやすくなります。ただし、感情は推測です。「がっかりしたよね」と言い切るより、「がっかりした感じ?」と少し余白を残すほうが、外れたときに相手が訂正しやすくなります。
子どもとの関わりでも、気持ちを言葉にして返すことは大切にされてきました。「積み木が崩れて、悔しかったね」。気持ちに名前がつくと、子どもは自分の気持ちを少しずつ扱えるようになっていきます(Faber & Mazlish, 1980)。
3. 要約して返す:話をまとめる
話が長くなったときは、要点をまとめて返します。
- 返し「つまり、仕事は好きだけど、残業が続いて家族との時間がとれないのがつらい、ということかな」
要約は、相手が話を整理するのを助けます。最後に「ということかな」「合ってる?」と確かめると、相手が補足しやすくなります。
この「確かめる」には、もう一歩深い意味があります。『実務入門 NLPの基本がわかる本』PRでは、本当の確認とは、言葉をそのまま繰り返すことではないと説明されています。話し手が伝えたかった体験(A)と、聞き手が受けとった理解(B)を一致させること。「私はBのように受けとったけれど、伝えたかったAと合っていますか」と照らし合わせるのが、本当の確認だというのです。言葉を返すのは、AとBのずれを見つけるための手段なのです。
「そのまま返す」か「言い換える」か
相手の言葉をそのまま返すか、自分の言葉で言い換えるか。これは、バックトラッキングでよく迷うところです。
NLPでは、相手が使った言葉をできるだけそのまま使うことを重視します。言葉には、その人なりの手触りがあるからです。相手が「悔しい」と言ったのに、「残念だったね」と言い換えたとします。相手は「残念というより、悔しいんだけど」と感じるかもしれません。
レストランの店員が客の注文を言葉どおりに繰り返すと、チップが増えたという実験もあります(van Baaren ら, 2003)。言葉をそのまま返すことには、「あなたの言ったことを、そのまま受けとった」という合図の力があるのです。
一方、カウンセリングでは、言い換えも大切な技法とされています。言い換えると、相手は自分の話を別の角度から聞き直せるからです。使い分けの目安は、次のとおりです。
- そのまま返す:感情を表す言葉、相手の価値観がにじむ言葉、相手が何度も使う言葉
- 言い換える・要約する:長い話の筋道、事実の確認、話を整理したいとき
機械的なおうむ返しにならない5つのコツ
1. 全部を返さない
相手の発言をまるごと繰り返すと、ロボットのような印象になります。返すのは、キーワードひとつか、ひと言の要約で十分です。
2. 語尾を自分の言葉にする
「部長に呼び出された」に対して、「部長に呼び出された」と返すより、「部長に呼び出されたんだ」「部長に?」と語尾を変えるほうが自然です。語尾に、あなたの驚きや関心がにじみます。
3. 声の調子を、相手に合わせる
同じ言葉でも、声の調子で印象は大きく変わります。深刻な話には落ち着いた声で、うれしい話には少し明るい声で返します。声や話す速さを相手に合わせる方法は、ペーシングとは?相手に合わせて心を通わせるで紹介しています。
4. 返したら、待つ
言葉を返したあと、すぐに次の質問をしないことが大切です。返された言葉を聞いて、相手は自分の気持ちを確かめています。少し待つと、相手のほうから話を続けてくれます。
5. ずれても、気にしない
返した言葉が、相手の思いとずれることもあります。
「いや、そうじゃなくて」と言われたら、それは失敗ではありません。相手が本当に言いたかったことに、一歩近づいたのです。「そうか、どういう感じ?」と聴き直せば大丈夫です。
返したあとに、問いを添える
返した言葉に、短い問いを添えると、会話はもう一歩深まります。「部長に呼び出されたんだ。何の話だったの?」。返すことで「聴いている」を伝え、問いで「もっと聴かせて」を伝えるのです。問いの組み立て方は、オープンクエスチョンとクローズドの使い分けで紹介しています。
相手の言葉が「みんな」「いつも」のように大づかみなときは、そのまま返してから具体的に聞くのも一つの方法です。「いつも、なんだね。最近だと、どんなことがあった?」。言葉の奥にある具体的な体験を聴く質問は、メタモデルとは?言葉の奥にある本音を聴く質問で詳しく扱っています。
聴き方全体の土台については、傾聴のコツ|聴くことで人とつながる方法もあわせて読んでみてください。言葉だけでなく、しぐさを合わせる方法はミラーリングとは?効果とやりすぎない使い方で扱っています。
おうむ返しが合わない場面もある
バックトラッキングは万能ではありません。次のような場面では、返すより先にすることがあります。
- 相手が情報を求めているとき:「駅はどっち?」に「駅はどっちか、だね」と返されたら、誰でもいらっとします。答えを伝えるのが先です。
- 相手が強く怒っているとき:「怒ってるんだね」と感情を名指しすると、火に油を注ぐことがあります。まずは怒っている理由になった事実を返します。
- 急ぎの業務連絡のとき:返すなら、聞き違いを防ぐための確認として、要点だけを短く復唱します。
バックトラッキングは、相手が気持ちや考えを話したいときにこそ力を発揮します。相手が今、何を求めているのかを見てから使ってください。
話の区切りで使う「バックトラック・フレーム」
バックトラッキングを、会話全体の流れに広げた使い方もあります。NLPで「バックトラック・フレーム」と呼ばれるもので、話の区切りで、それまでの内容をまとめて確認する方法です。
バックトラック・フレームは、次のような場面で役に立ちます。
- 会議や打ち合わせを再開するとき:「前回は、〇〇まで決まりましたね」
- 意見が対立しているとき:両方の言い分を要約してから、提案に入る
- 1on1や面談の最後:「今日は、〇〇と〇〇の話をしましたね」と振り返る
意見が対立しているときは、相手の主張を、相手が納得する形で要約してみてください。相手は「この人は、少なくとも私の話を理解している」と感じます。反論や提案は、そのあとのほうがずっと届きやすくなります。
自分の言葉を、自分に返してみる
バックトラッキングは、人に使うだけのものではありません。自分の悩みや考えを書き出して、それを自分に返してみると、気持ちが整理されることがあります。
最後の「ちょっと違う」という感覚が、実は大切な手がかりです。違いを言葉にしようとすると、自分が本当に感じていることに近づいていきます。書くことで気持ちを整理する方法は、ジャーナリングとは?書く瞑想のやり方と効果でも紹介しています。
返された言葉の中で、人は自分に出会う
バックトラッキングは、相手の言葉を写しとるだけの技術に見えるかもしれません。けれども、言葉を返してもらった人は、その言葉の中で自分の気持ちに出会い直します。あなたが返す短いひと言が、相手にとっての鏡になるのです。
上手に返そうとしなくて大丈夫です。相手が大切そうに口にした言葉を、ひとつだけ、ていねいに拾う。それだけで、会話の手触りは変わります。
次に誰かの話を聴くときは、相手が何度か使った言葉に耳を澄ませてみてください。その言葉をそっと返したとき、相手の表情がどう動くかを見てみてください。
A question for you
あなたへの問い
最近、自分の言葉をそのまま返されて、はっとしたことはありますか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
おうむ返しをすると、バカにされていると思われませんか?
相手の言葉を全部そのまま繰り返すと、そう感じさせることがあります。キーワードだけを返す、語尾を「〜なんだね」と自分の言葉にする、といった工夫で自然になります。返す量は、相手の話の一部で十分です。
バックトラッキングと傾聴は、どう違いますか?
傾聴は、相手を理解しようとする聴き方の全体を指します。バックトラッキングは、その中で使う具体的な方法のひとつです。相づちや質問、沈黙を待つことなどと組み合わせて使います。
相手の言葉を返したら、「そういうことじゃない」と言われました。
それは失敗ではありません。相手が自分の言葉で訂正してくれたことで、本当に言いたかったことに近づけたからです。「そうか、じゃあどういう感じ?」と、もう一度聴けば大丈夫です。
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References
- Ivey, A. E., Ivey, M. B., & Zalaquett, C. P. (2018). Intentional Interviewing and Counseling: Facilitating Client Development in a Multicultural Society (9th ed.). Cengage Learning.
- Rogers, C. R. (1957). The necessary and sufficient conditions of therapeutic personality change. Journal of Consulting Psychology, 21(2), 95–103.
- van Baaren, R. B., Holland, R. W., Steenaert, B., & van Knippenberg, A. (2003). Mimicry for money: Behavioral consequences of imitation. Journal of Experimental Social Psychology, 39(4), 393–398.
- Faber, A., & Mazlish, E. (1980). How to Talk So Kids Will Listen & Listen So Kids Will Talk. Rawson, Wade.
- 『実務入門 NLPの基本がわかる本』第1章 p.62-63
- 『心時代の夜明け』第4章 p.119-120