No.05 On Coachingコーチングを知る

ダブルループ学習とは?前提から問い直す学び方

ダブルループ学習とは、うまくいかないときにやり方だけでなく、その奥の前提や目標まで問い直す学び方のこと。シングルループ学習との違いを身近な例で示し、同じ失敗をくり返すときに自分の前提を見つける質問とワークを紹介します。

公開 更新 読了 約7分 PR:書籍の紹介に Amazon アソシエイトのリンクを含みます

この記事の結論

ダブルループ学習とは、結果が思いどおりにならないとき、やり方を修正するだけでなく、そのやり方を選ばせている前提や目標そのものを問い直す学び方です。組織学習の研究者アージリスらが提唱しました。同じ失敗をくり返すときほど、役に立つ考え方です。

  • シングルループはやり方を直し、ダブルループはやり方を決める前提を問い直す
  • 成功してきた人ほど、前提を疑うことが苦手になりやすい
  • 同じ失敗をくり返すときは「何を当然だと思っていたか」と自分に問う
目次 Contents
  1. ダブルループ学習とは? 一言でいうと
  2. シングルループ学習との違い
  3. なぜ前提を問い直すのは難しいのか
  4. 自分の前提を見つける5つの問い
  5. チームや組織でのダブルループ学習
  6. 関連する考え方
  7. やり方を変えても同じなら、問いを変えてみる

反省して、やり方を変えた。なのに、また同じところでつまずいている。締め切りに追われる、人間関係で同じ形でもめる、続けると決めたことが続かない。そんなくり返しに、うんざりしていませんか。

同じ失敗をくり返すのは、学ぶ力がないからではありません。もしかすると、変えるべきなのは「やり方」ではなく、その奥にある「前提」なのかもしれません。

この記事では、前提から問い直す学び方として知られる「ダブルループ学習」を紹介します。シングルループ学習との違いを身近な例で整理し、自分の前提を見つけるための問いとワークまでお伝えします。

ダブルループ学習とは? 一言でいうと

ダブルループ学習とは、結果がずれたとき、やり方を選ばせている前提や目標まで問い直す学び方です。やり方の修正だけで終わらせない点に、特徴があります。

提唱したのは、組織学習の研究で知られるクリス・アージリスと、ドナルド・ショーンです(Argyris & Schön, 1978)。2人は、人や組織が失敗から学ぶとき、2種類の学び方があることを示しました。やり方を修正する「シングルループ」と、前提まで戻って問い直す「ダブルループ」です。

もとは組織の研究から生まれた考え方ですが、個人の学びや生き方にも、そのまま当てはめることができます。

シングルループ学習との違い

アージリスは、この違いをエアコンの温度調節にたとえました。

部屋が20度に設定されているとします。暑くなれば冷やし、寒くなれば温める。設定された目標に合わせて、動きを修正する。これがシングルループ学習です。

一方、「そもそも20度が、この部屋にとってちょうどいい温度なのか」と問い直す。これがダブルループ学習です。修正の対象が、行動ではなく、行動を決めている設定そのものに移ります。

シングルループ学習ダブルループ学習
自分への問いどうすればうまくいくかそもそも、何を前提にしていたか
修正するものやり方・行動前提・目標・価値の置き方
例(締め切りに遅れる)早めに始める、タスク管理アプリを使うなぜいつも抱えきれない量を引き受けるのか
向いている場面日々の改善、手順の見直し同じ問題がくり返されるとき

シングルループ学習が悪いわけではありません。日々の多くのことは、やり方を少しずつ直すだけでうまく回ります。ただ、修正しても同じ結果がくり返されるなら、ループを一段深くするサインです。

人間関係や習慣にも、2つのループがある

仕事以外の場面でも、同じ構造は見つかります。

たとえば、ダイエットが続かないとき。食事の方法を変え、運動の種類を変えるのはシングルループです。一歩深めると、「我慢しないと痩せない」という前提が見えてくるかもしれません。さらに、「そもそも何のために痩せたいのか」と目標そのものに問いを向けてみる。すると、「人からどう見られるか」を気にしていた自分に気づくこともあります。

人間関係でも、相手を変えても同じ形でもめるなら、自分の側の前提を見るチャンスです。「本音を言えば嫌われる」という前提があると、我慢を重ねた末に爆発する、という同じ流れがくり返されやすくなります。

なぜ前提を問い直すのは難しいのか

前提を見直すことは、言葉で言うほど簡単ではありません。アージリスは、その理由を2つの面から説明しています。

「言っていること」と「していること」のずれ

アージリスは、人には2種類の行動理論があると考えました。自分で「こうしている」と思っている「信奉理論」と、実際の行動を動かしている「使用理論」です。

「私は部下の意見を大切にしている」と言いながら、会議では自分がいちばん長く話している。こうしたずれは、本人には見えにくいものです。前提は、自分で語る言葉ではなく、くり返される行動の中に隠れています。

成功してきた人ほど、失敗から学びにくい

アージリスは「賢い人に学び方を教える」という論文で、意外な指摘をしました(Argyris, 1991)。失敗の経験が少ない優秀な人ほど、うまくいかないときに原因を外に求め、自分の前提を守ろうとしやすいというのです。

前提を疑うことは、ときに「これまでの自分」を否定されるように感じられます。だから、守りに入るのは自然な反応です。アージリスは、多くの人が無意識のうちに「負けない」「気まずさを避ける」「感情を表に出さない」といった価値を優先していると考えました。こうした価値は、自分の前提が問われそうな場面で、話題をそらしたり相手を説得したりする行動につながります。問い直しが難しいと感じても、それはあなたが頑固だからではありません。

自分の前提を見つける5つの問い

個人でダブルループ学習をするときは、次のような問いが手がかりになります。

  1. この状況で、私は何を「当然」だと思っていたか
  2. その前提は、いつ、どこで身につけたものか
  3. もしその前提が正しくないとしたら、何が変わるか
  4. 私が本当に守りたかったもの、得たかったものは何か
  5. 別の前提を置いたら、次にどんな行動を選ぶか

ポイントは、前提を「間違い」と決めつけないことです。「頼まれたら断ってはいけない」という前提は、過去のあなたを守ってくれたのかもしれません。役目を認めたうえで、「今の自分にも必要か」を確かめる。自分を縛る思い込みとの付き合い方は、ビリーフとは?自分を縛る思い込みの外し方でも詳しく紹介しています。

自分の考え方を一段上から眺める力は「メタ認知」とも呼ばれます。鍛え方はメタ認知とは?自分を客観視する力の鍛え方をどうぞ。

チームや組織でのダブルループ学習

ダブルループ学習は、もともと組織の学び方を研究する中で生まれた考え方です。のちにピーター・センゲは、メンバーが前提を問い直しながら学び続ける組織を「学習する組織」と呼びました(Senge, 1990)。この言葉は、ビジネスの世界で広く知られるようになりました。

チームで前提を問い直すには、安心して本音を言える雰囲気が欠かせません。チームの学習行動を調べた研究があります(Edmondson, 1999)。そこでは、発言しても大丈夫だと共有されている「心理的安全性」が、ふり返りや問い直しを支えていることが示されました。

ふり返りの会議で、「何が悪かったか」「次はどうするか」のあとに、問いを一つ足してみる。「私たちは何を当然だと思っていたか」。それだけでも、ループは一段深くなります。

関連する考え方

ダブルループ学習と近い考え方は、ほかにもあります。

家族療法の研究者ワツラウィックらは、仕組みの中での変化を「一次変化」、仕組みそのものの変化を「二次変化」と呼びました(Watzlawick ら, 1974)。詳しくは用語辞典で紹介しています。

また、古い考え方ややり方を意識的に手放す「アンラーニング」は、ダブルループ学習の実践と深く重なります。アンラーニングとは?古い自分を手放す学び直しもあわせて読んでみてください。目標と結果を比べて行動を調整するTOTEモデルは、シングルループの流れをよく表しています。詳しくはTOTEモデルとは?目標達成のフィードバックループをどうぞ。経験から学ぶ全体の流れは、経験学習モデルとは?経験を成長に変える4ステップで紹介しています。

やり方を変えても同じなら、問いを変えてみる

同じ失敗をくり返すと、自分を責めたくなります。でも、くり返しは「ここに、まだ見ていない前提があるよ」という合図でもあります。

前提は、ずっと昔にあなたが身につけた、生きるための知恵だったのかもしれません。だから、無理に壊す必要はありません。今の自分に合うかどうかを確かめ、合わなくなっていたら、そっと置き換えればいいのです。

次にまた同じところでつまずいたら、「どうすればいい?」の前に、「私は何を当然だと思っていた?」と自分に聞いてみてください。その問いが、ループを一段深くしてくれます。

A question for you

あなたへの問い

くり返している失敗の奥で、あなたは何を「当然」だと思っていますか?

このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。

よくある質問

シングルループ学習は、悪い学び方なのですか?

悪い学び方ではありません。日々の仕事や生活の多くは、やり方を少しずつ直すシングルループ学習で十分に回ります。問題になるのは、やり方を変えても同じ結果がくり返されるときに、前提を見直さないまま修正だけを続けることです。

トリプルループ学習とは何ですか?

ダブルループ学習のさらに奥にある、「自分たちはどのように学んでいるのか」「何のためにそれをしているのか」といった問いまで扱う考え方として語られることがあります。ただし、提唱者や定義は論者によって異なり、ダブルループ学習ほど定まった概念ではありません。

ダブルループ学習を、職場のふり返りで使うにはどうすればいいですか?

「何がうまくいかなかったか」「次はどうするか」に加えて、「私たちは何を当然だと思っていたか」という問いを一つ加えてみてください。前提を口にしても責められない雰囲気があることが、問い直しの条件になります。

もう一歩深めたい人へ

PR・Amazonへのリンクを含みます
  • 問いかける技術 確かな人間関係と優れた組織をつくる

    エドガー・H・シャイン(著)/金井壽宏(監訳)/原賀真紀子(訳)/英治出版(2014年)

    組織心理学の大家シャインが、教えるより「謙虚に問いかける」ことの大切さを説いた本です。立場が上になるほど話を聴くのが難しいと感じる人に向いています。

    Amazonで見る
  • マインドセット 「やればできる!」の研究

    キャロル・S・ドゥエック(著)/今西康子(訳)/草思社(2016年)

    失敗を恐れて挑戦できない人へ。能力は伸ばせると考える「しなやかマインドセット」の研究を紹介していて、自分や周りの人への声かけを見直すヒントになります。

    Amazonで見る

References

  • Argyris, C., & Schön, D. A. (1978). Organizational Learning: A Theory of Action Perspective. Addison-Wesley.
  • Argyris, C. (1977). Double loop learning in organizations. Harvard Business Review, 55(5), 115–125.
  • Argyris, C. (1991). Teaching smart people how to learn. Harvard Business Review, 69(3), 99–109.
  • Senge, P. M. (1990). The Fifth Discipline: The Art and Practice of the Learning Organization. Doubleday.
  • Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
  • Watzlawick, P., Weakland, J. H., & Fisch, R. (1974). Change: Principles of Problem Formation and Problem Resolution. W. W. Norton.

本当の人生を生きる 編集部

コーチング・NLP・心理学の書籍や研究をもとに、自分を知るための知恵を、やさしい言葉でお届けしています。記事は編集方針に沿って作成し、定期的に見直しています。