No.05 On Coachingコーチングを知る

インナーゲームとは?コーチングの原点を知る

インナーゲームとは、テニスコーチのガルウェイが示した「頭の中のもう一つの試合」のこと。セルフ1とセルフ2の考え方、考えすぎで本番に弱くなるしくみ、コーチングの原点とされる理由、批判の声を静めて本来の力を出す方法を紹介します。

公開 更新 読了 約7分 PR:書籍の紹介に Amazon アソシエイトのリンクを含みます

この記事の結論

インナーゲームとは、ティモシー・ガルウェイが1974年の著書で示した、自分の頭の中で起きている「もう一つの試合」のことです。指示や評価をくり返す「セルフ1」が、体の自然な力である「セルフ2」の邪魔をすると考えます。評価をやめて観察に集中すると、本来の力が出やすくなります。

  • 試合には、相手との外のゲームと、頭の中で自分と戦う内なるゲームがある
  • 指示し評価するセルフ1が静まると、体の自然な力であるセルフ2が働く
  • 教えるより気づかせるという発想が、のちのコーチングの土台になった
目次 Contents
  1. インナーゲームとは? 一言でいうと
  2. セルフ1とセルフ2:頭の中の2人
  3. なぜ「考えすぎ」でうまくいかなくなるのか
  4. インナーゲームが「コーチングの原点」と言われる理由
  5. 日常でセルフ1を静める4つのコツ
  6. 頭の中の実況を、少しだけ小さくする

練習ではできるのに、本番になると体が固まる。人前で話そうとすると、「失敗したらどうしよう」という声で頭がいっぱいになる。そんな経験はありませんか。

うまくいかないとき、私たちはつい「もっと努力しなければ」と考えます。でも、ときには努力が足りないのではなく、頭の中の声がうるさすぎることが原因になっていることもあります。

この記事では、その「頭の中の声」に注目したインナーゲームという考え方を紹介します。コーチングの原点とも言われる発想で、スポーツだけでなく、仕事や日常の挑戦にも応用できます。

インナーゲームとは? 一言でいうと

インナーゲームとは、アメリカのテニスコーチ、ティモシー・ガルウェイが示した考え方です。1974年の著書『The Inner Game of Tennis』で広く知られるようになりました。

ガルウェイによれば、どんな試合にも2つのゲームがあります。一つは、相手と点を取り合う「アウターゲーム(外のゲーム)」。もう一つは、**頭の中で不安や迷いや自己批判と戦う「インナーゲーム(内なるゲーム)」**です。

外のゲームでいくら技術を磨いても、内なるゲームで負けていると、力は発揮できません。逆に、内なるゲームが静かに整っていると、体は驚くほど自然に動きます。ガルウェイは、レッスンの経験からこのことに気づいたといいます。

セルフ1とセルフ2:頭の中の2人

ガルウェイは、頭の中に2つの「自分」がいると考えました。

セルフ1セルフ2
役割指示する・評価する実際に動く・感じとる
たとえると口うるさい監督体に宿る、自然に学ぶ力
よく聞こえる声「ひじを伸ばせ」「また失敗した」声はなく、感覚として働く
強み計画を立てる、目標を決める観察から、自然に動きを調整する

テニスなら、ボールを打つ直前に「ひじを伸ばして、腰を回して、ラケットを立てて」とセルフ1が指示を出します。打ったあとには「なんでできないんだ」と評価します。その間、実際に打っているセルフ2は、指示と批判にさらされて固くなっていきます。

ガルウェイが気づいたのは、細かく教えるほど生徒の動きがぎこちなくなる、という事実でした。そこで、指示を減らし、ボールの動きをよく見ることだけに集中してもらったところ、生徒たちは自然に上達していったといいます。

パフォーマンス=潜在能力-妨害

ガルウェイは後の著作で、この考えを一つの式にまとめています(Gallwey, 2000)。

パフォーマンス = 潜在能力 - 妨害

結果を上げるには、能力を伸ばす道だけでなく、妨害を減らす道もある、という発想です。妨害の多くは、セルフ1の不安、自己批判、考えすぎです。能力を伸ばすのに時間がかかっても、妨害を減らすことなら今日から始められます。

なぜ「考えすぎ」でうまくいかなくなるのか

ガルウェイの本は、指導の経験から書かれたもので、実験から生まれた理論ではありません。ただ、その後の運動学習や心理学の研究には、同じ方向を指す結果がいくつもあります。

日常でも、思い当たることがあるはずです。歩き方を意識したとたんに、歩き方がぎこちなくなる。スピーチで「噛まないように」と思うほど噛む。慣れた動作に、頭が割りこむと、自然な流れが崩れてしまうのです。

仕事や人間関係にも、インナーゲームはある

内なるゲームは、スポーツの場面だけで起きるわけではありません。

会議で発言しようとすると、「的外れだと思われたら」「もっとうまく言わないと」とセルフ1が騒ぎだす。結局タイミングを逃して、あとで「なぜ言わなかったんだ」と、また評価が始まる。外から見れば何も起きていないのに、頭の中では一試合分の消耗をしています。

人の話を聴くときも同じです。相手の話を聞きながら、「次に何を言おう」「この人は間違っている」と頭の中でつぶやいていると、相手の言葉はほとんど入ってきません。外のゲームの相手は目の前の人でも、内なるゲームの相手は、いつも自分の頭の中の声なのです。

インナーゲームが「コーチングの原点」と言われる理由

インナーゲームの考え方は、スポーツの指導を超えて、ビジネスのコーチングに大きな影響を与えました。

イギリスでインナーゲームを広めたジョン・ウィットモアは、のちにビジネスの世界でコーチングを体系化しました。目標・現状・選択肢・意志の順に考えるGROWモデルを広めたことでも知られています(Whitmore, 2017)。その土台にあるのが、「教えるより、本人の気づきを引き出す」というガルウェイの発想です。

ガルウェイは、学びを支える要素として「気づき」「選択」「信頼」を挙げています。今何が起きているかに気づき、自分で向かう方向を選び、自分の中の学ぶ力を信頼する。これは、答えを渡すのではなく、相手が自分で見つけるのを支えるコーチングの姿勢そのものです。コーチングの考え方はコーチングとは?意味・効果・受けて変わることで、GROWモデルの使い方はGROWモデルとは?自分でできる目標達成の型で紹介しています。

日常でセルフ1を静める4つのコツ

セルフ1を黙らせようとすると、それ自体がまた新しい指示になってしまいます。コツは、戦うのではなく、注意の向け先を変えることです。

1. 評価をやめて、観察する

「良い・悪い」と判定する代わりに、「何が起きているか」をただ見ます。「声が震えてだめだ」ではなく、「声が少し高くなっている」。評価をはずすと、セルフ2は情報を受けとって、自然に調整を始めます。

2. 具体的な対象に注意を向ける

ガルウェイは、たとえばボールの縫い目の回転をよく見る練習を使いました。ボールが弾んだ瞬間に「バウンド」、打つ瞬間に「ヒット」と声に出す練習もあります。注意が具体的なものに向いている間は、セルフ1が口をはさむ余地が小さくなります。

人前で話すときなら、聞き手の一人の表情をよく見る。料理なら、玉ねぎの色の変化を見る。注意を、自分の評価ではなく、目の前の対象に置くのです。

3. 指示を「問い」に変える

「肩の力を抜け」と命令する代わりに、「今、どこに力が入っている?」と自分に聞いてみます。命令は抵抗を生みますが、問いは観察を促します。頭の中の口ぐせを味方にする方法は、セルフトークとは?心の口ぐせを味方にするで詳しく紹介しています。

4. 結果ではなく、感覚に集中する

「成功させなければ」と結果に意識が向くと、セルフ1の不安が大きくなります。その瞬間の感覚、たとえば足の裏の重さや呼吸の深さに注意を戻すと、頭の中の声は少しずつ静まっていきます。この「今ここ」への注意は、マインドフルネスとは?初心者のための始め方とも通じる考え方です。

慣れてきたら、少し緊張する場面でも試してみてください。たとえば会議で発言する前に、自分の呼吸の深さを1〜10で数える。評価する声の代わりに、観察する声を持つ練習です。

頭の中の実況を、少しだけ小さくする

インナーゲームは、「もっとがんばれ」とは別の方向から、力を出す道を示してくれます。足りないものを足すのではなく、邪魔しているものを減らす道です。

セルフ1は、あなたを守ろうとして口うるさくなっているだけかもしれません。だから、追い出す必要はありません。「ありがとう、ここからは任せて」と、少し後ろに下がってもらえばいいのです。

失敗が怖くて頭の中の声が大きくなるときは、失敗が怖いあなたへ|失敗をフィードバックに変えるもあわせて読んでみてください。次に何かに挑むとき、評価するのをやめて、目の前のものをただよく見てみる。それだけで、あなたの中の自然な力が、静かに動き出すかもしれません。

A question for you

あなたへの問い

うまくいったとき、あなたの頭の中はどれくらい静かでしたか?

このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。

よくある質問

インナーゲームは、スポーツ以外にも使えますか?

使えます。ガルウェイ自身も、仕事や音楽、ゴルフなどに考え方を広げた本を書いています。人前で話す、楽器を弾く、新しい仕事を覚えるなど、「頭で考えすぎるとうまくいかない」場面に応用しやすい考え方です。

セルフ1は、なくしたほうがいいのですか?

なくす必要はありません。計画を立てる、目標を決めるといった場面では、セルフ1の働きが役に立ちます。問題になるのは、体が動いている最中に、細かい指示や評価で割りこむときです。出番を分けて、静かにしていてほしい場面で少し引いてもらうイメージです。

インナーゲームは、科学的に裏づけられていますか?

ガルウェイの本は、指導の経験から書かれたもので、実験にもとづく理論ではありません。ただ、プレッシャーの中で動作を意識しすぎると成績が落ちることや、体の外側に注意を向けると上達しやすいことは、その後の研究でも報告されています。考え方の方向性は、研究と重なる部分があります。

もう一歩深めたい人へ

PR・Amazonへのリンクを含みます
  • インナーゲーム

    W・ティモシー・ガルウェイ(著)/後藤新弥(訳)/パンローリング(2026年)

    テニスの指導から生まれた、コーチングの源流とされる一冊です。「頭の中の批判的な声」とどう付き合うかという視点は、スポーツ以外の場面にも通じます。

    Amazonで見る
  • コーチング・バイブル 人の潜在力を引き出す協働的コミュニケーション

    ヘンリー・キムジーハウス、キャレン・キムジーハウスほか(著)/東洋経済新報社(2020年)

    コーチングを本格的に学びたい人へ。コーアクティブ・コーチングの考え方と、傾聴・質問・承認などのスキルが体系的にまとめられた定番の教科書です。

    Amazonで見る

References

  • Gallwey, W. T. (1974). The Inner Game of Tennis. Random House.
  • Gallwey, W. T. (2000). The Inner Game of Work. Random House.
  • Whitmore, J. (2017). Coaching for Performance (5th ed.). Nicholas Brealey Publishing.
  • Beilock, S. L., & Carr, T. H. (2001). On the fragility of skilled performance: What governs choking under pressure? Journal of Experimental Psychology: General, 130(4), 701–725.
  • Masters, R. S. W. (1992). Knowledge, knerves and know-how: The role of explicit versus implicit knowledge in the breakdown of a complex motor skill under pressure. British Journal of Psychology, 83(3), 343–358.
  • Wulf, G. (2013). Attentional focus and motor learning: A review of 15 years. International Review of Sport and Exercise Psychology, 6(1), 77–104.

本当の人生を生きる 編集部

コーチング・NLP・心理学の書籍や研究をもとに、自分を知るための知恵を、やさしい言葉でお届けしています。記事は編集方針に沿って作成し、定期的に見直しています。