No.05 On Coachingコーチングを知る
コーチングとは?意味・効果・受けて変わること
コーチングとは、対話を通じて、相手が自分で答えを見つけ、行動するのを支える関わり方です。意味と3原則、ティーチングやカウンセリングとの違い、研究でわかっている効果と限界、受けると何が変わるのか、自分でできるワークまで紹介します。
この記事の結論
コーチングとは、対話を通じて、相手が自分で答えを見つけ、行動するのを支える関わり方です。コーチは答えを教えるのではなく、問いと傾聴で考えを引き出します。研究では目標達成や仕事の成果に一定の効果が報告されていますが、心の不調の治療ではありません。
- コーチングは答えを教える場ではなく、自分の答えに気づき、動くための対話
- 研究では一定の効果が報告される一方、効果を左右するのは関係の質
- 心の不調の治療ではない。つらさが強いときは医療やカウンセリングを
目次 Contents
やりたいことがあるような、ないような。このままでいいのかと思いながら、毎日が過ぎていく。誰かに相談したくても、何を相談すればいいのかさえ、うまく言葉にならない。そんなとき、「コーチング」という言葉が目に入ったのかもしれません。
一方で、こんな疑問も浮かぶはずです。コーチングって、結局なにをするの? 自己啓発セミナーと何が違うの? お金を払って話をするだけで、本当に何か変わるの?
その慎重さは、とても大切です。コーチングは、人生を変える魔法ではありません。ただ、使い方を知っていれば、自分を知り、前に進むための心強い道具になります。
この記事では、コーチングの意味と考え方、ほかの支援との違いを整理します。研究でわかっている効果と限界も、できるだけ正直にまとめました。受けると何が変わるのか、そして自分一人でもできるワークも紹介します。
コーチングとは? 一言でいうと
コーチングとは、対話を通じて、相手が自分で答えを見つけ、行動するのを支える関わり方です。コーチは、答えを教える人ではありません。問いかけ、耳を傾け、相手の中にある考えや力が引き出されるのを手伝う人です。
コーチの資格認定を行う国際的な団体、国際コーチング連盟(ICF)は、コーチングを次のように説明しています。考えを刺激し、創造性を引き出すプロセスの中でクライアントと協働する。そして、個人としても仕事の面でも、その人の可能性を最大限に発揮できるよう後押しする。
英国でコーチングを広めたジョン・ウィットモアは、もっと簡潔に表しました。コーチングとは、その人の可能性を解き放ち、力を最大限に発揮できるよう助けること。教えるのではなく、本人が学ぶのを助けることだ、と。
「コーチ」の語源は、馬車
英語の coach は、もともと「馬車」を意味する言葉です。15世紀ごろ、ハンガリーのコチ(Kocs)という町でつくられた馬車が、その語源とされています。
馬車は、乗る人を、その人が行きたい場所まで運びます。行き先を決めるのは、御者ではなく乗客です。コーチングのたとえとして、今もよく使われる話です。
テニスのコートから始まった考え方
現代のコーチングに大きな影響を与えたのが、テニスのコーチだったティモシー・ガルウェイです。ガルウェイは、選手に細かい指示を出すより、選手が自分の体の動きに気づけるよう手伝うほうが、上達が早いことに気づきました。
人の成長を妨げているのは、能力不足より、「失敗したらどうしよう」といった自分の中の雑音だ。この考え方は『インナーゲーム』という本にまとめられ、ビジネスのコーチングにも受け継がれていきました。くわしくはインナーゲームとは?コーチングの原点を知るをどうぞ。
ティーチング・カウンセリングとの違い
コーチングは、似た支援と混同されやすいものです。違いを表にまとめました。
| 主な目的 | 答えを持っているのは | 向いている場面 | |
|---|---|---|---|
| コーチング | 目標に向けて考えを深め、行動を後押しする | 本人 | やりたいことを形にしたい、行動を続けたい |
| ティーチング | 知識や技術を伝える | 教える人 | 正解ややり方が決まっていることを学びたい |
| コンサルティング | 専門知識で課題を分析し、解決策を提案する | 専門家 | 専門的な答えがほしい |
| カウンセリング | 心の悩みに寄り添い、回復や安定を支える | 本人と専門家が一緒に探る | 心がつらい、過去の出来事が重い |
| メンタリング | 経験者が経験を分かち合い、成長を支える | 両方 | 同じ道を歩んだ先輩の知恵がほしい |
この表は、それぞれの大まかな重心を示したものです。実際の現場では、コーチが情報を提供したり、カウンセラーが目標を一緒に考えたりと、境界は重なり合います。
どれが優れているということはありません。いまの自分に必要なのはどれかで選ぶものです。違いをもっと知りたい人は、コーチングとカウンセリングの違い|どちらを選ぶ?と、コーチングとティーチング・コンサルの違いも参考にしてください。
コーチングの3原則:双方向・個別対応・継続
日本でコーチングが広まる中で、その特徴を表す考え方として、よく紹介されてきたのが「3原則」です。国際的に統一された定義ではありませんが、コーチングの性格をつかむのに役立ちます。
双方向(インタラクティブ)
コーチングは、講義のような一方通行ではなく、対話で進みます。話しているうちに、自分でも気づいていなかった考えが口から出てくる。そんな経験はありませんか。
人は、話すことで考えます。コーチの問いに答えようとして言葉を探すとき、頭の中のぼんやりした考えが、少しずつ形になっていきます。
個別対応(テーラーメイド)
同じ「転職したい」という悩みでも、その奥にある事情や望みは一人ひとり違います。コーチングでは、決まったプログラムに人を合わせるのではなく、その人に合わせて問いや進め方を変えます。
話すのが得意な人もいれば、考えてから話したい人もいます。ペースや言葉の選び方まで、その人に合わせるのがコーチングの特徴です。
継続(オンゴーイング)
コーチングは、一回で完結するより、一定の期間をかけて続けるのが一般的です。気づきを得ても、それを行動に移し、続けるのは簡単ではないからです。
決めたことを試し、次のセッションでふり返る。うまくいかなければ、やり方を変えてまた試す。このくり返しの中で、気づきが少しずつ行動と習慣に変わっていきます。
3つの原則の土台にある「人への信頼」
3つの原則の奥には、共通した人間観があります。それは、「人は、自分にとっての答えを見つける力をもっている」という信頼です。
この前提に立つと、コーチの役割は変わります。相手の足りないところを埋める人ではなく、相手がすでにもっている経験や知恵に光を当てる人になります。話すテーマを決めるのも、どこまで話すかを決めるのも、本人です。
ただし、これは「何でも一人で解決できるはずだ」という意味ではありません。答えを見つける力があることと、そのために支えや情報が必要なことは、矛盾しないのです。
コーチングでは、実際に何をする?
コーチングの時間は、多くの場合、30分から1時間ほどの対話です。対面のほか、オンラインや電話で行われることも増えています。その中で、コーチは主に次のような関わり方をします。
- 傾聴:評価や助言をはさまずに、話を最後まで聴く
- 質問:考えを広げたり深めたりする問いを投げかける
- 承認:相手の行動や変化を、事実として認めて言葉にする
- フィードバック:コーチが感じたことや気づいたことを伝える
- 行動の合意:次までに何をするかを、本人が決める
対話の流れには、いくつかの型があります。よく知られているのが、ウィットモアらが広めた「GROWモデル」です。目標(Goal)、現状(Reality)、選択肢(Options)、意志(Will)の順に考えを進めます。くわしくはGROWモデルとは?自分でできる目標達成の型をどうぞ。
どんなテーマを扱える?
コーチングで話すテーマに、決まりはありません。たとえば、次のようなテーマがよく扱われます。
- 生き方:やりたいことを見つけたい、自分らしい暮らし方を考えたい
- キャリア:転職や独立に迷っている、今の仕事の意味を考え直したい
- 人間関係:職場や家族との関わり方を変えたい
- 仕事の成果:リーダーとしての関わり方を磨きたい、チームをまとめたい
- 習慣:運動や勉強など、始めたことを続けたい
人生全体を扱うものはライフコーチング、仕事の場面を中心に扱うものはビジネスコーチングと呼ばれることがあります。
受け方は、大きく3つ
コーチングの受け方には、主に3つの形があります。一つ目は、個人がコーチと契約して受けるパーソナルコーチング。二つ目は、会社が社員のために用意するコーチングや、上司との1on1です。三つ目は、数人で受けるグループコーチングです。
自分のことをじっくり掘り下げたいならパーソナル、仲間の話からも学びたいならグループ、というように目的で選べます。
初回から振り返りまでの具体的な流れは、コーチングセッションの流れ|初回から振り返りまでで紹介しています。
コーチングの効果:研究でわかっていること
「話すだけで、本当に変わるの?」。この疑問には、研究からある程度答えられるようになってきました。
職場でのコーチングの研究をまとめた分析があります(Theeboom ら, 2014)。コーチングを受けた人には、仕事の成果やスキル、心の健康、ストレスへの対処などで良い効果が見られました。仕事への姿勢や、目標に向けた自己管理も同様です。別の分析でも、学びや仕事の成果に対して、良い効果が報告されています(Jones ら, 2016)。
仕事以外の人生全般を扱うライフコーチングでも、研究があります。グループでのコーチングを受けた人の、目標の達成度や心の健康が高まったという報告です(Grant, 2003)。比較のためのグループを設けた研究でも、目標に向かう力や幸福感、希望が高まったと報告されています(Green ら, 2006)。
つまり、効果を左右するのは、テクニックよりも、二人の間にある安心と信頼です。コーチを選ぶときには、資格や肩書きだけでなく、「この人となら本音で話せそうか」を大切にしてください。
コーチングを受けて変わること
研究の数字とは別に、コーチングを受けた人が感じやすい変化があります。大きく分けると、次の4つです。
1. もやもやが、言葉になる
ふだん、私たちは自分の考えを最後まで言葉にすることがほとんどありません。途中で否定されたり、助言されたりするからです。誰にも遮られずに話しきると、「自分は本当はこう思っていたのか」と気づくことがあります。
2. 選択肢が増える
悩んでいるときは、「AかBか」の二択に視野が狭まりがちです。「ほかには?」と問われるうちに、思ってもみなかった三つ目、四つ目の道が見えてきます。
3. 小さな行動が、続くようになる
一人で決めたことは、つい後回しにしてしまいます。次のセッションで話す場があると、小さな行動を続けやすくなります。監視されるからではなく、ふり返る機会があることが支えになるのです。
4. 自分への見方がやわらぐ
自分を責めるくせのある人は、うまくいかなかったことばかりに目を向けがちです。コーチが、できたことや変化を言葉にして返すことで、自分の歩みを違う角度から見られるようになることがあります。
変わらないこと、期待しすぎないほうがいいこと
コーチは、あなたの代わりに答えを出してくれません。行動するのも、あなた自身です。また、収入や人間関係のような結果を、コーチングが保証することもできません。「受ければ人生が好転する」と約束するような宣伝には、慎重になってください。
コーチングが向いていないとき
コーチングは万能ではありません。次のようなときは、ほかの支援を先に考えたほうがよいことがあります。
- 気分の落ちこみや不安が強く、眠る・食べるといった日常生活に支障が出ている
- 過去のつらい出来事を思い出すと、強く苦しくなる
- 法律やお金、医療など、専門的な判断が必要な問題を抱えている
コーチングは、心の不調を治療するものではありません。誠実なコーチほど、テーマによっては医療やカウンセリングを勧めます。そう言われたら、見放されたのではなく、あなたを大切に扱っている証拠です。
受ける前に、自分に聞いておきたい3つのこと
コーチングが合うかどうかを考えるとき、次の3つを自分に聞いてみてください。
- 答えを教えてほしいのか、一緒に考えてほしいのか。前者なら、専門家への相談や講座のほうが早いことがあります。
- 変化のために、時間と気力を少し使える時期か。心身が疲れきっているときは、まず休むことが先です。
- 話したいテーマはあるか。はっきりしていなくてもかまいません。「何を話したいかわからない」も、立派な出発点です。
3つ目に迷う人は多いのですが、テーマを一緒に探すところから始めるのも、コーチングの大切な役割です。
また、日本ではコーチングに国家資格はありません。誰でも「コーチ」を名乗れるので、経験や考え方は人によって大きく違います。初めて受けるなら、選び方を知っておくと安心です。コーチの選び方|後悔しないための7つのポイントで、確認したい点をまとめています。どんな手法があるのかを知りたい人は、コーチングの種類|目的別にわかる主な手法もどうぞ。
自分でできる:はじめてのセルフコーチング
コーチングの考え方は、一人でも試せます。コーチの代わりに、紙とペンに問いかけ役をしてもらうイメージです。
一人でやると、同じところで考えが止まることがあります。それは失敗ではなく、自分では見えにくい部分があるというサインです。そんなときこそ、誰かとの対話が役に立ちます。
答えは、あなたの中ですでに育ちはじめている
コーチングの根っこにあるのは、「答えは、その人の中にある」という信頼です。それは、あなたがもう全部わかっている、という意味ではありません。答えの種は、あなたの経験や感情の中にすでにあり、対話の中で芽を出す、ということです。
コーチングを受けるかどうかは、急いで決めなくてかまいません。まずは今日、自分に一つだけ問いかけてみてください。「本当は、どうなったらいい?」。その答えがすぐに出なくても、問いを持ち歩くこと自体が、自分を知る一歩になります。
A question for you
あなたへの問い
誰かに、ただ最後まで話を聴いてもらえたら、何を話したいですか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
コーチングは、どんな人に向いていますか?
考えを整理したい、やりたいことを形にしたい、行動を続けたいといった、前に進むための支えがほしい人に向いています。答えを教えてほしい人や、心の不調で日常生活がつらい人には、ティーチングやカウンセリング、医療のほうが合うことがあります。
コーチングとカウンセリングは、何が違いますか?
大まかにいえば、カウンセリングは心の悩みや不調の回復を支えること、コーチングは日常生活を送れている人がこれからに向けて動くことを支えることに重きがあります。ただ境界ははっきりしたものではなく、扱うテーマが重なることもあります。
コーチングを受けると、何回くらいで変化を感じますか?
人やテーマによって違うため、決まった回数はありません。1回の対話で考えが整理されることもありますが、行動の変化は、数か月ほど継続する中で現れることが多いとされます。初めは期間を区切って試し、ふり返ってから続けるかを決めるのがおすすめです。
コーチングは自分一人でもできますか?
セルフコーチングとして、自分に問いを投げかけて書き出す方法はあります。ただ、人は自分の思いこみに自分では気づきにくいものです。一人で行き詰まったら、信頼できる人やコーチとの対話を試してみると、思わぬ視点が見つかることがあります。
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References
- 国際コーチング連盟(ICF)公式サイト
- Whitmore, J. (2017). Coaching for Performance (5th ed.). Nicholas Brealey Publishing.
- Gallwey, W. T. (1974). The Inner Game of Tennis. Random House.
- Theeboom, T., Beersma, B., & van Vianen, A. E. M. (2014). Does coaching work? A meta-analysis on the effects of coaching on individual level outcomes in an organizational context. The Journal of Positive Psychology, 9(1), 1–18.
- Jones, R. J., Woods, S. A., & Guillaume, Y. R. F. (2016). The effectiveness of workplace coaching: A meta-analysis of learning and performance outcomes from coaching. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 89(2), 249–277.
- Grant, A. M. (2003). The impact of life coaching on goal attainment, metacognition and mental health. Social Behavior and Personality, 31(3), 253–264.
- Green, L. S., Oades, L. G., & Grant, A. M. (2006). Cognitive-behavioral, solution-focused life coaching: Enhancing goal striving, well-being, and hope. The Journal of Positive Psychology, 1(3), 142–149.
- Graßmann, C., Schölmerich, F., & Schermuly, C. C. (2020). The relationship between working alliance and client outcomes in coaching: A meta-analysis. Human Relations, 73(1), 35–58.
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」