No.05 On Coachingコーチングを知る
ビジネスコーチングとは?個人と組織での活用
ビジネスコーチングとは、仕事の場面で、考えを深め行動を後押しするコーチングです。エグゼクティブ・コーポレート・1on1の違い、組織で導入するときの三者の合意と守秘、研究でわかっている効果、働く個人がキャリアに活かす方法を紹介します。
この記事の結論
ビジネスコーチングとは、仕事の成果やリーダーシップ、キャリアなど、働く場面をテーマにしたコーチングです。経営者向けのエグゼクティブコーチング、会社が導入するコーポレートコーチング、上司と部下の1on1などがあります。働く個人が、自分らしいキャリアを考える手段にもなります。
- 経営者向け、組織への導入、上司との1on1など、形はさまざま
- 会社が費用を出すときは、目標と報告の範囲を三者で合意しておく
- 組織のためだけでなく、自分らしい働き方を考える手段にもなる
目次 Contents
会社でコーチング研修を受けることになった。上司との1on1が始まったけれど、何を話せばいいのかわからない。あるいは、管理職になって、部下との関わり方に悩んでいる。ビジネスコーチングという言葉に出会うきっかけは、人によってさまざまです。
一方で、こんな疑問もあるかもしれません。会社が用意するコーチングは、結局は会社のためのものではないか。自分の本音を話しても大丈夫なのか。
その疑問は、もっともです。ビジネスコーチングには、組織の成果と、働く一人ひとりの成長という、二つの目的が重なっています。この記事では、ビジネスコーチングの種類と効果、組織で使うときの注意点を整理します。そのうえで、働く個人が、自分らしいキャリアを考えるためにどう使えるかも紹介します。
ビジネスコーチングとは? 一言でいうと
ビジネスコーチングとは、仕事の成果やリーダーシップ、キャリアなど、働く場面をテーマにしたコーチングです。コーチは答えを教えるのではなく、問いと対話を通じて、本人が考えを深め、行動に移すのを支えます。
扱うテーマは、たとえば次のようなものです。部下の育て方、チームのまとめ方、難しい意思決定、仕事の優先順位、職場の人間関係、これからのキャリアの方向。仕事の場面の悩みであれば、立場を問わず扱えます。
人生全体を扱うライフコーチングとは、重心の置き方が違います。ただ、仕事の話をしているうちに、価値観や暮らし方の話に広がっていくことも珍しくありません。人生全体を扱うコーチングについては、ライフコーチングとは?人生全体を整える対話をどうぞ。
ビジネスコーチングの主な種類
ビジネスコーチングは、誰を対象に、誰が費用を出すかによって、いくつかの形に分かれます。
| 種類 | 主な対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| エグゼクティブコーチング | 経営者、役員、上級管理職 | 意思決定やリーダーシップ、組織の方向づけを扱う。社外のコーチが多い |
| コーポレートコーチング | 組織の中の管理職や社員 | 会社が導入し、人材育成の一環として行う。研修と組み合わせることもある |
| 1on1(上司と部下) | 部下 | 上司がコーチングの考え方を使い、定期的に部下と対話する |
| 個人で受けるビジネスコーチング | 働く個人、起業家 | 自分で費用を出し、自分のテーマで受ける |
エグゼクティブコーチングでは、経営者の「相談相手のいなさ」がよく話題になります。立場が上がるほど、率直な意見を言ってくれる人が減り、迷いを打ち明けにくくなるからです。利害関係のない社外のコーチは、そうした孤独な判断の壁打ち相手になります。
コーチングのほかの種類も知りたい人は、コーチングの種類|目的別にわかる主な手法で一覧にしています。
組織で導入するときの、三者の合意と守秘
会社が費用を出すコーチングには、本人、会社、コーチという三者が関わります。ここに、個人で受けるコーチングにはない難しさがあります。
大切なのは、始める前に、三者で「何のためのコーチングか」と「何を誰に伝えるか」を合意しておくことです。たとえば、次のような点です。
- コーチングの目標:会社が期待することと、本人が望むことをすり合わせる
- 報告の範囲:会社に伝えるのは、目標と進み具合の概要だけか、それ以上か
- 評価との関係:コーチングの内容を、人事評価に使うのかどうか
この合意があいまいだと、本人は「話したことが評価に使われるのでは」と身構えます。そうなると、コーチングは表面的な会話で終わってしまいます。国際コーチング連盟(ICF)などの団体も、倫理規定の中で守秘や関係者との合意を大切なものとして扱っています。
社内コーチと社外コーチ
組織で行うコーチングには、社内の人がコーチを務める場合と、社外のコーチに頼む場合があります。社内コーチは、会社の事情や文化をよく知っているので、話が早く進みます。一方で、同じ組織の人には言いにくいこともあります。
社外コーチは、利害関係がないぶん、本音を話しやすいのが強みです。ただ、会社の事情を理解してもらうまでに時間がかかることもあります。どちらにも良さがあるので、テーマや立場に合わせて選ぶとよいでしょう。
研究でわかっている効果
職場でのコーチングは、研究が比較的多い分野です。職場でのコーチングの研究をまとめた分析があります(Theeboom ら, 2014)。仕事の成果やスキル、心の健康、ストレスへの対処、目標に向けた自己管理などで、良い効果が見られました。別の分析でも、学びや仕事の成果に対して、良い効果が報告されています(Jones ら, 2016)。
エグゼクティブや職場のコーチングを受けた千人以上を調べた研究もあります。成果と強く結びついていたのは、クライアントが感じるコーチとの関係の良さでした(de Haan ら, 2016)。
上司と部下の1on1:コーチングの考え方を職場に
日本では、上司と部下が定期的に一対一で話す「1on1」を取り入れる会社が増えています。ヤフーでの実践をまとめた本(本間, 2017)などをきっかけに、広く知られるようになりました。1on1は、部下の成長のための時間として、コーチングの考え方が多く取り入れられています。上司が話すより、部下が話す時間を大切にするのが基本です。
上司がコーチになるときの難しさ
ただし、上司によるコーチングには、構造的な難しさがあります。上司は、部下を評価する立場でもあるからです。評価する人の前で、迷いや弱さを率直に話すのは、簡単ではありません。
だからこそ、1on1では工夫が助けになります。話した内容は評価に使わないと最初に約束する。上司が自分の迷いも少し開く。そうした小さな約束と姿勢が、本音を話せる土台になります。
1on1で話すテーマに決まりはありません。仕事の進み具合だけでなく、最近うまくいったことや困っていることも扱えます。これから挑戦したいこと、体調や働き方の悩みも話題にできます。何を話すかを部下が決められると、1on1は「報告の場」から「自分のための時間」に変わります。
上司の立場で使える問いの立て方は、オープンクエスチョンとクローズドの使い分けが参考になります。
部下の立場で、1on1を自分の時間にするコツ
部下の立場からも、1on1を活かす工夫ができます。
- 前日に、話したいことを一つだけメモしておく
- 「相談」と「報告」を分けて、相談から先に話す
- 答えが出なかった問いは、「次回までに考えてきます」と持ち帰る
上司に聞かれるのを待つより、自分から話題を持ちこむほうが、自分に必要な時間になりやすくなります。
働く個人が、自分のために使う
ビジネスコーチングは、組織の成果のためだけのものではありません。働く一人ひとりが、自分らしいキャリアを考える手段にもなります。
「今の仕事を、このまま続けていいのか」「昇進の話が来たけれど、本当に望んでいるのか」。こうした問いは、会社の目標とは別の、あなた自身のテーマです。会社の制度でコーチングを受けられるなら、その時間を、自分の働き方を見つめ直すために使ってもかまいません。
会社の制度がなくても、個人でコーチと契約して受けることもできます。その場合は、コーチの経験や守秘、料金の条件を確かめて選んでください。選び方は、コーチの選び方|後悔しないための7つのポイントで紹介しています。
仕事を通じて、自分の生き方を考えたい人は、天職の見つけ方|好き・得意・価値観から探すもあわせて読んでみてください。
会社のための時間を、自分のための時間にも
ビジネスコーチングは、成果を上げるための道具として語られがちです。でも、その中心にあるのは、ほかのコーチングと同じく、「答えはその人の中にある」という信頼です。
組織から与えられた機会でも、そこで何を考え、何を選ぶかは、あなたが決められます。上司との1on1も、研修のコーチングも、自分の働き方に耳を澄ます時間として使えます。
まずは、さっきの棚卸しで見つけた「力を発揮しやすい動詞」を、次の1on1で話してみてください。そこから、会社の目標とあなたの望みが重なる場所が、少しずつ見えてくるはずです。
A question for you
あなたへの問い
あなたが仕事で「自分らしい」と感じるのは、どんな瞬間ですか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
ビジネスコーチングとコンサルティングは、何が違いますか?
コンサルティングは、専門家が課題を分析し、解決策を提案します。ビジネスコーチングは、答えを出すのは本人で、コーチは問いと対話で考えを深める役割です。実際には、両方の要素を組み合わせて支援する人もいるので、どちらの関わり方を求めているかを事前に伝えておくと安心です。
会社で受けるコーチングの内容は、上司や人事に伝わりますか?
契約によって違います。多くの場合、話した内容そのものは守秘とし、会社には目標や進み具合の概要だけを共有する、といった取り決めをします。不安なときは、最初のセッションで、何が誰に伝わるのかをコーチに確認してください。
管理職でなくても、ビジネスコーチングを受ける意味はありますか?
あります。仕事の進め方を見直したい、キャリアの方向を考えたい、職場の人間関係を整えたいといったテーマは、立場に関係なく扱えます。会社の制度がなくても、個人で受けることもできます。
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References
- Theeboom, T., Beersma, B., & van Vianen, A. E. M. (2014). Does coaching work? A meta-analysis on the effects of coaching on individual level outcomes in an organizational context. The Journal of Positive Psychology, 9(1), 1–18.
- Jones, R. J., Woods, S. A., & Guillaume, Y. R. F. (2016). The effectiveness of workplace coaching: A meta-analysis of learning and performance outcomes from coaching. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 89(2), 249–277.
- de Haan, E., Grant, A. M., Burger, Y., & Eriksson, P.-O. (2016). A large-scale study of executive and workplace coaching: The relative contributions of relationship, personality match, and self-efficacy. Consulting Psychology Journal: Practice and Research, 68(3), 189–207.
- Whitmore, J. (2017). Coaching for Performance (5th ed.). Nicholas Brealey Publishing.
- 本間浩輔 (2017).『ヤフーの1on1:部下を成長させるコミュニケーションの技法』ダイヤモンド社.
- 国際コーチング連盟(ICF)公式サイト