No.05 On Coachingコーチングを知る
コーチングとカウンセリングの違いどちらを選ぶ?
コーチングとカウンセリングの違いを、目的・対象となる心の状態・担い手の資格・守秘義務の面から比較。今の自分にはどちらが合うかを状態別の目安で示し、心身の不調があるときに医療やカウンセリングを優先すべきサインも伝えます。
この記事の結論
カウンセリングは、心の苦しさを和らげ、回復を支える関わりです。コーチングは、ある程度元気な状態から、望む方向へ進むのを支える関わりです。眠れない、何をしても楽しめないといった状態が2週間以上続くなら、コーチングより先に医療やカウンセリングを選んでください。
- カウンセリングは回復を支え、コーチングは前に進むのを支える関わり
- 眠れない・楽しめない状態が2週間以上続くなら、医療やカウンセリングが先
- 順番に使っても、並行して使ってもいい。今の自分に優しいほうを選ぶ
目次 Contents
誰かに話を聞いてほしい。でも、相談するならコーチがいいのか、カウンセラーがいいのか、わからない。最近ずっと気持ちが沈んでいるけれど、こんな状態でコーチングを受けていいのだろうか。
そんなふうに迷っているなら、あなたは自分の状態を、ちゃんと見ようとしています。相談先を選ぶ前に立ち止まれるのは、自分を大切にしようとしている証拠です。
コーチングとカウンセリングは、どちらも対話を通じて人を支えます。ただ、得意なこと、向いている心の状態は違います。この記事では、2つの違いを整理し、今のあなたにはどちらが合うのかを、心の状態別の目安で示します。医療を優先したほうがいいサインも、はっきりお伝えします。
コーチングとカウンセリングの違いを一言でいうと
いちばん大きな違いは、目的です。カウンセリングは心の苦しさを和らげ、回復を支える関わり。コーチングは、ある程度元気な状態から、望む方向へ進むのを支える関わりです。
たとえるなら、カウンセリングは、けがをしたときに傷を手当てし、歩ける状態に戻るのを支えるもの。コーチングは、歩ける人が、どこへ向かうかを決めて進むのを支えるものです。どちらが上ということはありません。今の状態に合っているかどうかが大切です。
| カウンセリング | コーチング | |
|---|---|---|
| 主な目的 | 苦しさを和らげる、回復を支える | 目標や望む状態に向けて進むのを支える |
| 向いている状態 | 気持ちが沈む、不安が強い、つらい体験を抱えている | 生活は回っていて、迷いや次の一歩を考えたい |
| 主な担い手 | 公認心理師(国家資格)、臨床心理士など | コーチ(国家資格はなく、民間の認定資格がある) |
| 守秘義務の根拠 | 公認心理師には法律上の秘密保持義務がある | 契約と、所属団体の倫理規定 |
| 医療との関係 | 医療機関と連携して行われることも多い | 医療の代わりにはならない |
「過去を扱う」「未来を扱う」は半分だけ正しい
よく、「カウンセリングは過去、コーチングは未来を扱う」と説明されます。わかりやすい整理ですが、実際にはもう少し重なっています。
カウンセリングでも、これからどう生きたいかを話します。コーチングでも、過去の体験から自分の価値観を探ることがあります。違いは時間の向きより、「回復」と「前進」のどちらを中心に置くかにあります。
精神科・心療内科、セラピーとの違い
似た相談先も整理しておきます。精神科や心療内科は医療機関で、医師が診断し、必要に応じて薬などで治療します。診察には健康保険が使えます。
セラピー(心理療法)は、認知行動療法のように、特定の理論にもとづいて行う治療的な関わりを指すことが多い言葉です。日本では、カウンセリングとほぼ同じ意味で使われることもあります。医療機関の外で受けるカウンセリングは、自費のことが多いので、料金は事前に確かめてください。
実際のセッションでは、何をする?
違いは、実際の時間の過ごし方にも表れます。担当者や手法によって幅はありますが、典型的な姿を描いてみます。
カウンセリングの時間
カウンセリングでは、まず今つらいと感じていることを、あなたのペースで話します。カウンセラーは、評価や助言を急がずに耳を傾け、気持ちを言葉にするのを手伝います。
話すうちに、「なぜこんなに苦しいのか」が少しずつ見えてくることがあります。手法によっては、考え方のくせを一緒に見直したり、次回までに気持ちを記録する課題が出たりすることもあります。ゴールは、何かを達成することより、心が少し軽くなり、日常を取り戻すことです。
コーチングの時間
コーチングでは、最初に「今日の時間で何を得たいか」を決めます。そこから、コーチの問いに答えながら、望む状態と今の状態、取れる選択肢を整理していきます。
最後には、次のセッションまでに試す行動を自分で決めます。気持ちを扱わないわけではありませんが、焦点は「ここから、どう進むか」に置かれます。1回の流れはコーチングセッションの流れ|初回から振り返りまでで詳しく紹介しています。
どちらとも言えない悩みのとき
「やりたいことがわからない」「人間関係に疲れた」といった悩みは、どちらでも扱えます。迷ったら、悩みの中で何がいちばん大きいかを見てください。
苦しさやつらさが大きいなら、カウンセリング。苦しさはそれほどでもなく、もやもやを整理して動きたいなら、コーチング。そう考えると選びやすくなります。
今の自分はどちら? 心の状態別の目安
迷ったときは、「何をしたいか」より先に、「今どんな状態か」を見てください。次の表は、相談先を考えるための目安です。診断の基準ではありません。
| 今の状態 | 考えたい相談先 |
|---|---|
| 消えてしまいたい、死にたいという気持ちがある | すぐに相談窓口か医療機関へ |
| 眠れない、食欲がない、何をしても楽しめない状態が2週間以上続く | まず医療機関(精神科・心療内科)へ |
| 過去のつらい出来事が、今も何度もよみがえって苦しい | 医療機関や心理の専門職へ |
| 生活は回っているが、気持ちが重く、整理したいことがある | カウンセリング |
| 元気はあるが、進路や人間関係、やりたいことに迷っている | コーチング、またはカウンセリング |
| 目標があり、行動を後押ししてほしい | コーチング |
「2週間」という期間は、うつ病の診断基準でも一つの目安とされています。もちろん、2週間たっていなくても、つらければ相談してかまいません。
コーチングが向いていないとき
コーチングは、気持ちを前に向ける力がある程度あることを前提にした関わりです。その力が落ちているときに、目標や行動の話をくり返すと、かえって負担が増えることがあります。
精神科医のスティーブン・バーグラスは、ある危険を指摘しました(Berglas, 2002)。心理の専門的な訓練を受けていないコーチが、深い心の問題を見落としてしまう危険です。行動の問題に見えるものの奥に、治療が必要な不調が隠れていることがある、というのです。
国際コーチング連盟(ICF)も、コーチの中核能力の一つとして、必要に応じてほかの専門家を紹介することを挙げています。信頼できるコーチほど、「これはコーチングで扱う範囲ではない」と判断したときに、率直に伝えてくれるはずです。コーチングがどんな関わりかは、コーチングとは?意味・効果・受けて変わることで紹介しています。
逆に、「コーチングでうつも治せます」といった言い方をするコーチがいたら、注意が必要です。コーチングは治療ではありません。
カウンセリングの先に、コーチングがあってもいい
カウンセリングで心が落ち着いてくると、「これからどうしたいか」を考えたくなる時期が来ます。そこで、コーチングに切り替えたり、両方を並行したりする人もいます。
カウンセリングの土台には、カール・ロジャーズが重視した「相手をありのまま受け止める」姿勢があります(Rogers, 1957)。この姿勢は、多くのコーチングにも受け継がれています。2つは、まったく別物というより、同じ根から伸びた枝のような関係です。
順番に使うなら、次の流れが一つの目安になります。
- 心と体の不調があるときは、医療やカウンセリングで回復を優先する
- 日常が戻ってきたら、カウンセリングで気持ちを整理する
- 進みたい方向が見えてきたら、コーチングで行動を後押ししてもらう
通院中にコーチングを考えるときは、まず主治医に相談してください。コーチにも、伝えられる範囲で状況を話しておくと、無理のない進め方を一緒に考えられます。
相談先を選ぶときのチェックポイント
どちらを選ぶにしても、相手選びは大切です。初回の前後で、次の点を確かめておくと安心です。
- 資格と所属:カウンセラーなら公認心理師や臨床心理士か。コーチなら、どの団体の認定や倫理規定に従っているか
- 守秘義務の範囲:話した内容は誰に伝わる可能性があるか。例外は何か
- 料金と回数:1回の料金、目安の回数、キャンセルの扱い
- 合わないとき:担当を変えられるか、途中でやめられるか
- 医療との連携:必要なときに医療機関を紹介してもらえるか
コーチを選ぶときの考え方は、コーチの選び方|後悔しないための7つのポイントで詳しく紹介しています。
どこに相談すればいいかわからないとき
最初の一歩をどこに踏み出せばいいか、迷うこともあると思います。そんなときは、身近な窓口から当たってみてください。
- かかりつけ医:体の不調とあわせて相談でき、必要なら専門の医療機関を紹介してもらえる
- 職場の産業医や相談窓口:会社によっては、外部のカウンセリングを無料で使える制度がある
- 学校の学生相談室:学生なら、学内で無料のカウンセリングを受けられることが多い
- 自治体の窓口:各都道府県などにある精神保健福祉センターや保健所で、心の健康の相談ができる
どこに行けばいいかを相談すること自体も、立派な相談です。「何科に行けばいいかわからない」と、そのまま伝えてかまいません。
進む前に休むことも、立派な選択
コーチングとカウンセリング、どちらを選ぶかに正解はありません。あるのは、今のあなたの状態に合っているかどうかだけです。
前に進みたい気持ちがあっても、体が重いなら、まず休む。それは逃げではなく、次に進む力を取り戻すための選択です。元気が戻ってきたら、そのとき改めて「どこへ向かいたいか」を考えれば間に合います。
自分の状態をそのまま認めることは、どんな相談の出発点にもなります。今の自分を責めずに受け止める練習は、自己受容とは?ありのままの自分を認める練習で紹介しています。日々のストレスとの付き合い方は、ストレス対処法|心と体のしくみから整えるも参考にしてください。
A question for you
あなたへの問い
今のあなたに必要なのは、休むことですか、進むことですか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
落ちこんでいるときに、コーチングを受けてもいいですか?
一時的な落ちこみなら、コーチングで気持ちを整理できることもあります。ただ、眠れない、食欲がない、何をしても楽しめないといった状態が2週間以上続くなら、まずは医療機関やカウンセリングに相談してください。目標に向かう対話が、かえって負担になることがあるからです。
カウンセリングとセラピーは同じですか?
重なる部分が大きく、日本では区別せずに使われることも多い言葉です。一般に、カウンセリングは話を聴いて支える関わり全般を、セラピー(心理療法)は認知行動療法など特定の理論にもとづく治療的な関わりを指すことが多いです。
通院中でもコーチングを受けられますか?
受けられる場合もありますが、まず主治医に相談するのがおすすめです。コーチにも通院中であることを伝えておくと、無理のない進め方を一緒に考えやすくなります。体調によっては、治療を優先する時期と考えるほうがよいこともあります。
コーチングとカウンセリングの両方を受けてもいいですか?
かまいません。カウンセリングで気持ちを整えながら、仕事の目標についてはコーチと話す、という使い分けもあります。その場合は、それぞれの担当者に両方を利用していることを伝えておくと、話がかみ合いやすくなります。
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References
- 公認心理師法(平成27年法律第68号)
- International Coaching Federation (2019). ICF Core Competencies.
- Berglas, S. (2002). The very real dangers of executive coaching. Harvard Business Review, 80(6), 86–92.
- American Psychiatric Association (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed.). American Psychiatric Publishing.
- Rogers, C. R. (1957). The necessary and sufficient conditions of therapeutic personality change. Journal of Consulting Psychology, 21(2), 95–103.
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」
- 厚生労働省「こころの耳」