No.03 Connect人とつながる
承認とは?人を勇気づける認め方と伝え方
コーチングの承認(アクノレッジメント)とは、相手の存在や行動を、評価せずにそのまま認めて言葉にすること。褒めることとの違い、存在・行動・成果の3つの承認、相手に届く伝え方、自分自身を承認する練習まで紹介します。
この記事の結論
コーチングでいう承認とは、相手の存在や行動、変化に気づき、評価を加えずにそのまま言葉にして伝えることです。上から下への評価になりやすい「褒める」と違い、対等なまま相手を勇気づけられます。存在・行動・成果の3つを意識すると、相手にも自分にも向けやすくなります。
- 承認は、良し悪しの評価ではなく「気づいたこと」をそのまま伝えること
- 成果だけでなく、行動や存在そのものにも目を向けると、言葉が届きやすい
- 他人に向ける前に、自分の小さな行動を認める練習から始められる
目次 Contents
がんばっている部下や家族に、何か声をかけたい。でも「すごいね」と言っても、どこか響いていない気がする。かといって、ほかの言葉が見つからない。人を認めることについて調べているあなたは、身近な誰かを、ちゃんと支えたいと思っている人なのでしょう。
もしかすると、認められたいのは、あなた自身かもしれません。毎日それなりにがんばっているのに、誰も気づいてくれない。そんな気持ちを抱えながら、人を認める方法を探している人もいると思います。
この記事では、コーチングでいう「承認」とは何かを、褒めることとの違いから整理します。そのうえで、存在・行動・成果の3つの承認と、相手に届く伝え方を紹介します。最後に、同じ承認を自分自身に向ける練習も用意しました。
承認とは? 一言でいうと
コーチングでいう承認とは、相手の存在や行動、変化に気づき、評価を加えずにそのまま言葉にして伝えることです。英語のアクノレッジメント(acknowledgment)の訳語です。「認めること」「気づいていると伝えること」を意味します。
コーチング(対話を通じて、相手が自分で答えを見つけ、行動するのを支える関わり方)で、承認は基本のスキルです。傾聴や質問と並んで扱われます。コーアクティブ・コーチングの承認は、さらに一歩踏みこみます。相手が何をしたかだけでなく、そうするためにどんな自分でいたのか。その内面の資質にまで光を当てるのです。
たとえば、苦手な上司に意見を伝えた同僚に、「言えたんだね」と返す。これが行動の承認です。さらに、「怖くても、チームのために言わなきゃって思ったんだね」と返す。これは、その行動を支えた誠実さや勇気を認める言葉です。
なぜ承認は、人を勇気づけるのか
人のやる気を研究してきた自己決定理論では、人が意欲的に動くための土台として、3つの心理的な欲求を挙げています。自分で選んでいる感覚、できるようになっている感覚、人とつながっている感覚です。
承認は、このうち2つに直接かかわります。「先週よりできるようになったね」は、できるようになっている感覚を支えます。「見ていたよ」は、つながっている感覚を支えます。そして、評価や命令ではないので、自分で選んでいる感覚をじゃましません。承認が、押しつけにならずに人を勇気づけるのは、このためだと考えられます。
褒めることと承認は、どう違う?
承認と褒めることは、似ているようで、立ち位置が違います。
| 褒める | 承認する | |
|---|---|---|
| 言葉の例 | 「えらいね」「さすが」「すごい」 | 「最後までやりきったね」「先週より早く終わったね」 |
| 中心にあるもの | 話し手の評価 | 相手に起きた事実 |
| 関係 | 評価する人とされる人(上下) | 気づいた人と気づかれた人(対等) |
| 起こりやすいこと | 次も褒められたくて、評価を気にする | 自分の行動を、自分で確かめられる |
アドラー心理学では、褒めることは、能力のある人がない人に下す評価であり、上下の関係を前提にしていると考えます。代わりに大切にするのが、相手を対等な存在として支える「勇気づけ」です。承認は、この勇気づけと近い考え方です。
よくある誤解:成果を評価して褒めれば、自信が育つ
部下や子どもの自己肯定感を育てたい。そう思うと、成果を見つけて褒めることに力が入りがちです。けれど、これには落とし穴があります。
NLPの入門書『ほんとうに役立つNLP』PRは、「評価」と「承認」をはっきり分けています。評価は「できたから、よし」という条件つきの判断です。条件を満たせない日が続くと、評価はかえって相手を追い詰めることがあります。
同書によると、信頼と自己肯定感の土台になるのは、存在そのものを受けとめる承認のほうです。成果を認めることが悪いのではありません。成果がない日にも届く言葉を持っているかどうかが、関係の安心感を左右する、という見方です。
研究でわかっている「褒め方」の落とし穴
心理学者のミューラーとドウェックは、子どもたちに課題を解いてもらい、褒め方を変えて比べました。「頭がいいね」と能力を褒められた子どもと、「よくがんばったね」と努力を褒められた子ども。前者のほうが、次の課題で失敗したあとに意欲が下がりやすかったのです。さらに、次の課題として、やさしいものを選びやすくなりました(Mueller & Dweck, 1998)。
能力や人柄そのものへの評価は、「次も頭がいいと思われなければ」というプレッシャーになりやすい、ということです。一方で、褒めることの効果は、何を、どんな形で、誰が褒めるかによって変わる、という整理もあります(Henderlong & Lepper, 2002)。大切なのは、評価の言葉を減らし、相手がしたことに目を向けることです。
承認の3つの種類:存在・行動・成果
日本のコーチングでは、承認を3つに分けて考えることがよくあります。研究にもとづく分類というより、承認の幅を広げるための目安です。
| 種類 | 何を認めるか | 言葉の例 |
|---|---|---|
| 存在承認 | その人がいること、変化していること | 「おはよう」「髪、切った?」「来てくれてうれしい」 |
| 行動承認 | 取り組んだこと、そのプロセス | 「毎朝、早めに来て準備してるよね」 |
| 成果承認 | 出した結果 | 「目標の数字、達成したね」 |
存在承認:いちばん小さく、いちばん土台になる
名前を呼ぶ、あいさつをする、変化に気づく。存在承認は、言葉にすると当たり前すぎて、見落とされがちです。でも、「ここにいていい」という感覚は、ほかのすべての承認の土台になります。成果を認められても、存在を無視されている職場では、人は安心できません。
行動承認:結果が出ていないときにこそ届く
成果承認は、結果が出たときにしか使えません。行動承認なら、うまくいかなかったときにも使えます。「結果は残念だったけど、準備にはすごく時間をかけていたね」。失敗した直後の人にとって、この一言は大きな支えになります。
成果承認:数字や結果を、具体的に言葉にする
成果を認めるときも、「すごいね」で終わらせず、何を達成したかを具体的に言葉にします。「3か月かけて、問い合わせへの返信を半日以内にそろえたんだね」。具体的に言われると、相手は「ちゃんと見てくれていた」と感じます。
相手に届く承認の伝え方
承認は、言い方ひとつで、届き方が大きく変わります。
事実を具体的に言う
「いつもありがとう」より、「昨日、会議の資料を先にそろえておいてくれて助かった」。具体的な言葉は、相手の行動をきちんと見ていた証拠になります。
「私」を主語にして、影響を伝える
「えらいね」は相手を評価する言葉ですが、「私は助かった」「私はうれしかった」は、自分に起きたことを伝える言葉です。評価ではないので、相手は素直に受け取りやすくなります。この伝え方はアイメッセージとは?ユーメッセージとの違いと例文で詳しく紹介しています。
気づいたら、時間をおかずに伝える
承認は、気づいたその日に伝えるのがいちばん届きます。1か月後の面談でまとめて言うより、その場の一言のほうが、相手の記憶と結びつきやすいからです。
改善点と混ぜない
「資料、よくできてたよ。でも、ここは直して」。この形だと、相手の耳には「でも」のあとしか残りません。承認と改善の話は、できれば分けて伝えます。改善点の伝え方は、フィードバックとは?成長につながる伝え方で扱っています。
受け取ってもらえなくても、引き下がらなくていい
「そんなことないです」「たまたまです」。承認を伝えても、打ち消されることはよくあります。照れくささや、認められ慣れていないことが理由のことが多いものです。
そんなとき、「いや、本当にすごいって」と説得する必要はありません。「私にはそう見えたよ」と一言添えて、話を終えてかまいません。打ち消した人の中にも、言葉はちゃんと残っています。何度か同じように伝えるうちに、「ありがとうございます」と受け取ってくれる日が来ることもあります。
承認欲求とどう付き合うか
承認について考えていると、「自分は承認欲求が強すぎるのでは」と不安になる人もいるかもしれません。
心理学者マズローは、人の基本的な欲求のひとつに「承認の欲求」を挙げました。他者から認められたい、自分を価値ある存在と感じたい、という欲求です。認められたい気持ちは、人として自然なものです。恥ずかしいものではありません。
苦しくなるのは、その欲求を満たす手段が、他人の評価だけになっているときです。他人の反応は、自分ではコントロールできません。いいねの数や上司の一言に、一日の気分が左右されてしまいます。他人の評価に左右されにくい土台をつくりたい人は、自己肯定感を高める方法|根っこから育てる考え方も参考にしてみてください。
認めてほしいときは、自分から言ってもいい
認めてほしい気持ちを、相手が察してくれるのを待ち続けると、疲れてしまいます。身近な人には、言葉で頼んでもいいのです。「今回の資料、けっこう時間をかけたんだ。見てもらえたらうれしい」。
頼んで得た承認には価値がない、と感じるかもしれません。でも、相手は気づいていなかっただけ、ということもよくあります。伝えてもらえたことで、相手もあなたの努力に目を向けられるようになります。
自分を承認する練習
承認は、他人だけに向けるものではありません。自分の行動に気づき、言葉にして認める。これを続けると、他人からの評価がなくても、自分の歩みを確かめられるようになります。
自分にやさしく接する姿勢は、心理学では「セルフ・コンパッション」と呼ばれ、研究が進んでいます(Neff, 2003)。自分を甘やかすことではなく、つらいときに、親しい友人に向けるような言葉を自分にもかけることです。
最初は、書くことが思いつかないかもしれません。それは、ふだん自分の行動に気づく習慣がないだけです。「朝起きた」「ご飯を食べた」から始めてかまいません。
ありのままの自分を認めることについては、自己受容とは?ありのままの自分を認める練習でさらに深めています。
見ていてくれる人がいる、という力
承認は、特別な言葉を必要としません。気づいたことを、そのまま伝える。それだけで、相手の中に「見ていてくれる人がいる」という感覚が残ります。その感覚は、褒め言葉よりも長く、人を支えます。
そして、同じ目を、自分にも向けてあげてください。誰にも気づかれなかった今日の小さな行動も、あなたが気づけば、ちゃんと認められたことになります。
明日、誰かにひとつだけ、評価ではない言葉をかけてみてください。「〜してくれたんだね」。その一言から、相手との関係の空気が、少しずつ変わっていきます。信頼関係を育てる全体像は、ラポールとは?信頼関係を築く5つのコツで紹介しています。
A question for you
あなたへの問い
今日のあなたが、誰にも気づかれずにやり終えたことは何ですか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
承認とアクノレッジメントは同じ意味ですか?
はい、コーチングではほぼ同じ意味で使われます。アクノレッジメント(acknowledgment)は「認めること」を意味する英語で、日本語では「承認」と訳されることが多い言葉です。
褒めるのは、よくないことなのですか?
褒めること自体が悪いわけではありません。ただ、「えらいね」「すごいね」のような評価の言葉ばかりだと、相手は評価される側に置かれ続けます。事実を認める承認を土台にして、褒め言葉はときどき添える、くらいのバランスがおすすめです。
承認しても、相手が受け取ってくれません。
照れくささや、「そんなことない」と打ち消すクセから、受け取れない人は少なくありません。打ち消されても、言い直したり説得したりせず、「私はそう感じたよ」と一言添えて終えれば十分です。言葉は、あとから相手の中で効いてくることがあります。
承認欲求が強い自分が嫌です。
認められたい気持ちは、人として自然なものです。苦しくなるのは、それを満たす方法が他人の評価だけになっているときです。自分で自分の行動を認める習慣をつくると、他人の反応に振り回されにくくなります。
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References
- Kimsey-House, H., Kimsey-House, K., Sandahl, P., & Whitworth, L. (2018). Co-Active Coaching (4th ed.). Nicholas Brealey.
- Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33–52.
- Henderlong, J., & Lepper, M. R. (2002). The effects of praise on children's intrinsic motivation: A review and synthesis. Psychological Bulletin, 128(5), 774–795.
- Maslow, A. H. (1943). A theory of human motivation. Psychological Review, 50(4), 370–396.
- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78.
- Neff, K. D. (2003). Self-compassion: An alternative conceptualization of a healthy attitude toward oneself. Self and Identity, 2(2), 85–101.
- 岸見一郎・古賀史健(2013)『嫌われる勇気』ダイヤモンド社
- 『ほんとうに役立つNLP』第5章 p.171-177
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」