No.05 On Coachingコーチングを知る
メンタリングとは?メンターとの出会い方
メンタリングとは、経験のある人が自分の経験をもとに、相手の成長を長い目で支える関係のこと。メンターの2つの役割、コーチとの違い、メンターは一人でなくていい理由、良いメンターに出会うための具体的な行動まで紹介します。
この記事の結論
メンタリングとは、経験のある人(メンター)が、自分の経験や人脈をもとに、相手の成長やキャリアを長い目で支える関係のことです。答えを本人から引き出すコーチングと違い、メンターは自分の経験を分かち合います。メンターは一人に絞らず、テーマごとに複数いてかまいません。
- メンターは経験を分かち合い、仕事と心の両面から成長を支える人生の先輩
- コーチは本人の答えを引き出し、メンターは自分の経験を手渡すのが違い
- 完璧な一人を探すより、テーマごとに少し先を行く人を何人か見つける
目次 Contents
「相談できるメンターがいるといいよ」。そう言われても、そんな人がどこにいるのかわからない。職場の先輩には聞きづらいし、尊敬する人に声をかけるのは気が引ける。そんなふうに感じている人は少なくありません。
メンターがいないのは、あなたに魅力がないからでも、運が悪いからでもありません。多くの場合、メンターは「見つけるもの」ではなく、小さなやりとりの中で「育っていく関係」だからです。
この記事では、メンタリングの意味とメンターの役割、コーチとの違いを整理します。そのうえで、良いメンターと出会うために、今日からできる行動を紹介します。
メンタリングとは? 一言でいうと
メンタリングとは、経験のある人が、自分の経験や知恵をもとに、相手の成長を長い目で支える関係のことです。支える側をメンター、支えられる側をメンティーと呼びます。
語源は、古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』に登場する人物「メントール」です。英雄オデュッセウスは戦いに旅立つ前に、家のことを友人のメントールに託しました。物語の中では、女神アテナがメントールの姿を借りて、残された息子テレマコスを導きます。この名前がのちに、「信頼できる助言者」を意味する言葉になりました。
職場では、新人や若手に先輩社員をつける「メンター制度」として知られています。ただ、メンタリングは会社の制度だけのものではありません。趣味の先輩、学生時代の恩師、少し先に同じ道を歩いた知人。生き方の手本を見せてくれる人は、誰でもメンターになりえます。
メンターが果たす2つの役割
組織心理学者のキャシー・クラムは、職場のメンター関係を観察し、メンターの役割を大きく2つに分けました(Kram, 1985)。
| 役割 | 中身の例 | メンティーにとっての意味 |
|---|---|---|
| キャリアを支える役割 | 仕事のコツを教える、挑戦の機会を回す、人を紹介する、失敗から守る | 一人では届かない機会や情報に手が届く |
| 心を支える役割 | 手本を見せる、存在を認める、悩みを聞く、友人として関わる | 「自分はここにいていい」という感覚と、目指す姿が得られる |
おもしろいのは、どちらか一方だけでもメンター関係は成り立つ、という点です。仕事の機会はくれないけれど、話すと前を向ける人。逆に、厳しいけれど成長の場を次々に回してくれる人。どちらも、あなたにとってのメンターです。
メンターとコーチの違い
メンターとコーチは、どちらも成長を支える存在ですが、支え方が違います。
| メンター | コーチ | |
|---|---|---|
| 支えの源 | 自分の経験・知恵・人脈 | 問いと対話の技術 |
| 関わり方 | 経験を分かち合い、助言する | 本人が答えを見つけるのを支える |
| 分野 | 多くは同じ分野の先輩 | 分野が違っても関われる |
| 関係 | 長期的で、形はゆるやか | 期間や目的を決めて契約することが多い |
| 対価 | 無償のことが多い | 有償のことが多い |
いちばん大きな違いは、答えのありかです。メンターは「私の場合はこうだった」と、自分の経験を手渡します。コーチは「あなたはどうしたい?」と、あなたの中の答えを一緒に探します。
どちらが上ということはありません。進みたい道がはっきりしていて、その先を歩いた人の知恵がほしいならメンター。道そのものに迷っているなら、コーチとの対話が役に立つかもしれません。コーチングの考え方はコーチングとは?意味・効果・受けて変わることで紹介しています。支援の種類の違いはコーチングとティーチング・コンサルの違いでも整理しています。
メンターは、一人でなくていい
「人生の師」と呼べる一人に出会えたら、それはすてきなことです。でも、その一人を探し続けて、誰にも頼れないままでいるのはもったいないことです。
クラムらはのちに、人の成長を支えるのは一人のメンターではなく、複数の人のつながりだという見方を示しました(Higgins & Kram, 2001)。仕事の技術はこの人、家庭との両立はあの人、気持ちが落ちたときはまた別の人。テーマごとに頼れる人がいれば、それで十分に心強い支えになります。
会ったことのない人から学ぶ
直接会えない人も、ある意味でメンターになりえます。尊敬する人の本やインタビューから、考え方や選択の仕方を学ぶことはできるからです。
ただし、表に出ている情報は、その人の一部にすぎません。成功した部分だけを見て、自分を責める材料にしないよう気をつけてください。憧れの人のやり方を自分に取り入れるコツは、モデリングとは?憧れの人から学ぶ方法で紹介しています。
良いメンターに出会うための5つの行動
メンターとの出会いは、偶然に見えて、実は小さな行動の積み重ねから生まれることがほとんどです。
1. 何を学びたいのかを言葉にする
「メンターがほしい」だけでは、誰に何を頼めばいいのかが決まりません。「子育てしながら管理職を続ける方法」「独立する前に準備したこと」など、テーマを具体的にします。
2. 「少し先」を歩く人に目を向ける
業界の大御所である必要はありません。2〜3年先を歩いている人のほうが、悩みが近く、話も具体的です。相手にとっても、自分の経験が役に立つ実感を得やすい相手になります。
3. 小さな質問から始める
いきなり「メンターになってください」と頼むと、相手は責任の重さに身構えます。「〇〇のとき、どう決めましたか」と、具体的な質問をひとつ持って話を聞きに行く。そのくらいの軽さが、関係の入口になります。
4. 試した結果を報告する
話を聞いたら、実際に試してみて、結果を短く伝えます。「教えていただいた方法で、こうなりました」。助言が役に立ったと知ることは、メンターにとって何よりうれしいことです。この往復が、関係を一度きりで終わらせない鍵になります。
5. 自分が渡せるものも考える
メンタリングは、一方通行である必要はありません。若い世代が先輩に新しい技術や感覚を教える「リバースメンタリング」という取り組みもあります。あなたの得意なことや新しい視点は、相手にとっての学びになるかもしれません。
良いメンターに見られるサイン
出会った相手が、頼ってよい人かどうか。次のようなサインが一つでもあれば、関係を育てる価値があります。
- 助言する前に、こちらの状況や考えをまず聞いてくれる
- 成功談だけでなく、自分の失敗や迷いも話してくれる
- 助言と違う選択をしても、不機嫌にならず尊重してくれる
- 必要に応じて、自分より詳しい人を紹介してくれる
反対に、自分の武勇伝ばかりで質問を聞かない人や、従わないと距離を置く人は、メンターとしては注意が必要です。
メンタリングを受けるときに気をつけたいこと
相手の正解を、自分の正解にしない
メンターの経験は、その人の時代、環境、性格の中で通用したものです。同じことをしても、あなたが同じ結果を得られるとは限りません。
助言を聞いたら、「私の場合はどうだろう」と一度自分に問い返してください。メンターの価値観と自分の価値観の違いに気づくことも、大切な学びです。自分の大切なものを確かめたいときは、価値観の見つけ方|大切なものを言葉にするワークが手がかりになります。
関係は、変わっていくもの
クラムは、メンター関係が始まり、深まり、やがて離れ、別の形に結び直されていく過程も描いています。あなたが成長すれば、メンターに頼る場面は減っていきます。それは関係の失敗ではなく、成功の証です。
一方で、相手があなたの選択を支配しようとする、見下す発言がくり返される、といった関係なら、距離をとってかまいません。尊敬する気持ちと、自分を大切にすることは両立します。
「教えてください」の一言から、関係は始まる
メンターは、ある日突然あらわれる特別な人ではありません。あなたが質問し、相手が答え、あなたが試して報告する。その小さな往復の先に、ふと「この人は私のメンターだ」と気づく日が来ます。
完璧な一人を待たなくて大丈夫です。今日、学びたいことを一つ決めて、少し先を歩く誰かに聞いてみる。その一歩が、あなたの道のりを一人きりのものではなくしてくれます。
自分の仕事や生き方の方向を考えたいときは、天職の見つけ方|好き・得意・価値観から探すもあわせて読んでみてください。
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あなたへの問い
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よくある質問
メンターとコーチは、どちらを探すべきですか?
目的によります。進みたい道の先を歩いている人から経験や助言を得たいならメンター、自分の考えを整理して答えを見つけたいならコーチが向いています。両方を持つ人も多く、どちらか一方に決める必要はありません。
メンターになってほしい人に、どう頼めばいいですか?
いきなり「メンターになってください」と頼むより、具体的な質問をひとつ持って話を聞きに行くほうが、相手も応じやすくなります。話を聞いたら、試した結果を報告する。そのやりとりを重ねるうちに、自然とメンターと呼べる関係が育っていきます。
社内のメンター制度で、相性が合わないときはどうすればいいですか?
制度の担当者に相談して、相手を変えてもらえるかを確かめてみてください。変えられない場合でも、相談するテーマを絞ったり、社外に別の相談相手を持ったりする方法があります。合わない関係を無理に続けるより、支えを分散させるほうが健全です。
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References
- Kram, K. E. (1985). Mentoring at Work: Developmental Relationships in Organizational Life. Scott, Foresman.
- Higgins, M. C., & Kram, K. E. (2001). Reconceptualizing mentoring at work: A developmental network perspective. Academy of Management Review, 26(2), 264–288.
- Allen, T. D., Eby, L. T., Poteet, M. L., Lentz, E., & Lima, L. (2004). Career benefits associated with mentoring for protégés: A meta-analysis. Journal of Applied Psychology, 89(1), 127–136.
- Eby, L. T., Allen, T. D., Evans, S. C., Ng, T., & DuBois, D. L. (2008). Does mentoring matter? A multidisciplinary meta-analysis comparing mentored and non-mentored individuals. Journal of Vocational Behavior, 72(2), 254–267.
- ホメロス『オデュッセイア』