No.05 On Coachingコーチングを知る
コーチングとティーチング・コンサルの違い
コーチングとティーチング、コンサルティングの違いを「答えを誰が持っているか」の軸で比較。それぞれが向く場面、使い分けの目安、コーチが提案や要望をするときのルールまで紹介し、今の自分に合う支援を選べるようにします。
この記事の結論
ティーチングは知識や手順を教えること、コンサルティングは専門家が問題を診断して解決策を示すこと、コーチングは問いと対話で本人が自分の答えを見つけるのを支えることです。違いの軸は「答えを誰が持っているか」で、どれが優れているかではなく、場面によって使い分けます。
- 違いの軸は「答えを誰が持っているか」。教える・示す・引き出すの違い
- 知識がない段階では教えるほうが親切。コーチングが万能なわけではない
- コーチの提案や要望は許可をとって伝え、断る自由を残すのが基本
目次 Contents
部下や後輩に、つい答えを言ってしまう。「コーチング的に関わって」と言われても、教えたほうが早い場面ばかりに思える。あるいは、自分が支援を受ける側として、コーチとコンサルタントのどちらに頼めばいいのか迷っている。
どちらの立場でも、迷うのはもっともです。「教える」「示す」「引き出す」は、どれも人を助ける方法です。違いがあいまいなまま使うと、相手に合わない助け方をしてしまいます。
この記事では、コーチング・ティーチング・コンサルティングの違いを、ひとつの軸で整理します。それぞれが向く場面と、コーチが提案や要望をするときのルールまで見ていきましょう。
違いは「答えを誰が持っているか」
3つの違いをいちばんシンプルに表すと、答えを持っているのが、教える側か、専門家か、本人かという違いです。
| 答えを持つのは | 関わり方 | 向く場面 | |
|---|---|---|---|
| ティーチング | 教える側 | 知識や手順を伝える | 新しい技術を覚える、ルールを知る |
| コンサルティング | 専門家 | 問題を診断し、解決策を示す | 専門的な分析や判断が必要なとき |
| コーチング | 本人 | 問いと対話で、本人が考え決めるのを支える | 答えが本人の価値観や状況の中にあるとき |
| メンタリング | 経験のある先輩 | 自分の経験を分かち、育成を見守る | キャリアや生き方の手本がほしいとき |
似た関わりとして、メンタリングやカウンセリングもあります。メンタリングはメンタリングとは?メンターとの出会い方で、カウンセリングとの違いはコーチングとカウンセリングの違い|どちらを選ぶ?で詳しく扱っています。
組織心理学者のエドガー・シャインは、人を助ける立場を3つに分けました(Schein, 2009)。情報やサービスを提供する「専門家」と、診断して処方する「医師」。そして、相手が自分で問題を見極めるのを支える「プロセス・コンサルタント」です。コーチングの立ち位置は、この3つ目に近いものです。
ティーチングとは:知識と手順を渡す
ティーチングは、教える側が持っている知識や技術を、相手に伝える関わり方です。学校の授業や、職場で仕事の手順を教える場面がわかりやすい例です。
たとえば、入社したばかりの人に「経費精算のやり方は、どうしたらいいと思う?」と問いかけても、困らせるだけです。正解が決まっていて、相手がまだそれを知らないとき、教えることはいちばん親切な助け方です。
一方で、教えるばかりだと、相手が自分で考える機会が減ります。「わからなければ聞けばいい」が習慣になると、教える人がいない場面で動けなくなることもあります。
コンサルティングとは:専門家が診断し、解決策を示す
コンサルティングは、専門家が問題を分析し、解決策を提案する関わり方です。経営、IT、税務など、専門的な知識が必要な分野でよく使われます。
依頼する側は、専門家の視点と知識を「買う」ことになります。自分たちだけでは見えない問題点や、業界の常識を短期間で得られるのが強みです。
ただ、提案がどれだけ正しくても、それを実行するのは依頼した本人です。納得しないまま受け取った解決策は、実行の段階でつまずきやすくなります。シャインも、相手が自分で問題を理解する過程を飛ばすことの危うさを指摘しています。
コーチングとは:本人が答えを見つけるのを支える
コーチングは、問いと対話を通して、本人が自分で答えを見つけ、行動するのを支える関わり方です。コーチは原則として、答えを教えたり解決策を示したりしません。
なぜ教えないのでしょうか。「転職すべきか」「家族とどう向き合うか」のような問いには、外から与えられる正解がないからです。答えの材料は、本人の価値観や事情、気持ちの中にあります。
コーチングを広めたジョン・ウィットモアは、コーチングを、教えることではなく、本人が学ぶのを助けることだと説明しました(Whitmore, 2017)。自分で見つけた答えは、人からもらった答えよりも、行動につながりやすいと考えられています。コーチングの全体像はコーチングとは?意味・効果・受けて変わることをどうぞ。
どう使い分ける? 場面別の目安
実際の関わりでは、3つをきっちり分けるより、相手と場面に応じて行き来するのが自然です。目安は、相手の知識・経験と、答えのありかです。
- 相手が知識も経験もまだない:まず教える(ティーチング)
- 専門的な分析が必要で、時間も限られている:専門家に頼る(コンサルティング)
- 知識はあるのに動けない、答えが本人の中にありそう:問いかける(コーチング)
リーダーシップ論では、部下の成熟度に応じて関わり方を変える「状況対応型リーダーシップ」が知られています(Hersey & Blanchard, 1969)。指示する段階から、任せる段階へと移っていく考え方です。ただし、この理論の予測は研究で一貫して支持されているわけではありません(Thompson & Vecchio, 2009)。「相手によって関わり方を変える」という発想の手がかりとして受け取るのがよいでしょう。
人を育てる立場の人は、同じ手順を相手の課題で試してみてください。質問の使い分けはオープンクエスチョンとクローズドの使い分けも参考になります。
落とし穴:答えを隠した質問
コーチングを学んだばかりの人が陥りやすいのが、答えを決めたまま質問する形です。「もう少し早めに準備したほうがいいと思わない?」。形は質問でも、中身は指示です。
相手は「正解を当てるゲーム」に付き合わされている、と感じます。こうなると、教えるよりもかえって信頼を損ねます。
伝えたいことがあるなら、隠さずに伝えたほうが誠実です。「私はこう見えている」と自分の考えとして伝え、そのうえで相手の考えを聞く。率直な伝え方はフィードバックとは?成長につながる伝え方で紹介しています。
落とし穴:「コーチングだから」と教える責任を手放す
逆の落とし穴もあります。忙しさや自信のなさから、「自分で考えて」と丸投げしてしまうことです。知識のない相手に問いだけを投げるのは、放置と変わりません。
教えるべきことは教え、本人にしか決められないことは問う。この線引きを意識するだけで、関わりの質はずいぶん変わります。
コーチが「提案」や「要望」をするとき
コーチングでは答えを教えない、と書きました。でも実際のセッションで、コーチが一切意見を言わないわけではありません。大切なのは、伝え方のルールです。
提案は、許可をとってから
コーチが役に立ちそうな情報や視点を持っているときは、「一つ提案してもいいですか」と許可をとってから伝えます。受け取るかどうかを決めるのは、あくまで本人です。
提案が一つだけだと、それに従わなければいけない空気が生まれます。そのため、「たとえばAやB、ほかにもあるかもしれません」と、複数の選択肢として出すコーチもいます。
要望は、断る自由とセットで
コーアクティブ・コーチングでは、コーチが本人に行動を求める「リクエスト」という関わりがあります(Kimsey-House ら, 2018)。「今週、上司に一度だけ本音を伝えてみませんか」。少し背伸びした行動を、あえて投げかけるのです。
このとき本人には、受ける・断る・条件を変えて受ける、という3つの返事が許されています。「本音は無理でも、まず相談したいとだけ伝えます」のように、自分に合う形に変えてかまいません。断る自由があるからこそ、要望は押しつけではなく、挑戦への招待になります。詳しくはコーアクティブ・コーチングとは?特徴と考え方で紹介しています。
教えることも、問うことも、相手を信じる方法
ティーチングとコーチングは、対立するものではありません。教えるのは、相手がまだ知らないことを手渡すため。問うのは、相手の中にすでにあるものを信じるためです。
どちらを選ぶか迷ったら、「答えはどこにあるだろう」と考えてみてください。自分が助けを求める側なら、なおさらです。教わりたいのか、一緒に考えてほしいのか。それを言葉にするだけで、頼る相手と頼み方が、ぐっと選びやすくなります。
A question for you
あなたへの問い
今のあなたに必要なのは、答えですか、それとも問いですか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
コーチングとティーチング、どちらが優れていますか?
優劣はありません。相手に知識や経験がまだないときはティーチングが、答えが本人の価値観や状況の中にあるときはコーチングが向いています。一つの関わりの中で、両方を行き来するのが自然です。
コンサルタントとコーチの違いは何ですか?
コンサルタントは専門知識をもとに問題を分析し、解決策を提案します。コーチは原則として解決策を示さず、本人が考え、決めるのを支えます。結果に対する責任の持ち方も、コンサルタントは提案の質、コーチは対話の質という点で異なります。
コーチングを受けているのに、アドバイスがほしくなったらどうすればいいですか?
そのまま伝えてかまいません。コーチによっては、許可をとったうえで経験や情報を伝えることがあります。また、知識が必要な場面なら、研修や専門家の助けを借りるほうが早いこともあります。
もう一歩深めたい人へ
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- Whitmore, J. (2017). Coaching for Performance (5th ed.). Nicholas Brealey Publishing.
- Schein, E. H. (2009). Helping: How to Offer, Give, and Receive Help. Berrett-Koehler.
- Hersey, P., & Blanchard, K. H. (1969). Life cycle theory of leadership. Training and Development Journal, 23(5), 26–34.
- Thompson, G., & Vecchio, R. P. (2009). Situational leadership theory: A test of three versions. The Leadership Quarterly, 20(5), 837–848.
- Kimsey-House, H., Kimsey-House, K., Sandahl, P., & Whitworth, L. (2018). Co-Active Coaching (4th ed.). Nicholas Brealey Publishing.
- 国際コーチング連盟(ICF)公式サイト