No.05 On Coachingコーチングを知る
NLPの前提とは?生きやすくなる考え方
NLPの前提とは、「そう考えて行動すると役に立ちやすい」とされる基本的な考え方のこと。「地図は領土ではない」「失敗はない、フィードバックがあるだけ」など主な7つを日常の例で紹介し、誤用しやすい点と科学的な位置づけも整理します。
この記事の結論
NLPの前提とは、NLPで「真実かどうかではなく、そう仮定して行動すると役に立ちやすい」とされる基本的な考え方です。「地図は領土ではない」「失敗はない、フィードバックがあるだけ」などがあります。科学的に証明された法則ではないため、自分を責める気持ちをゆるめる見方の一つとして使うのがおすすめです。
- NLPの前提は「真実」ではなく、役に立つかどうかで選ぶ作業上の仮定
- 地図と領土、フィードバック、肯定的意図などは、自分を責めない見方になる
- 暴力の正当化や、自分を責めすぎる方向に使うのは誤用。痛みは否定しない
同じ失敗をくり返して、また自分を責めてしまう。何度話しても、あの人とはわかりあえない。そんなとき、出来事そのものより、それを見ている「前提」が自分を苦しめていることがあります。
前提とは、ふだん意識しないまま使っている、ものの見方の土台です。眼鏡のようなもので、かけていることを忘れていると、レンズの色が世界の色だと思いこんでしまいます。
この記事では、NLPで大切にされている「前提」と呼ばれる考え方を、日常の場面に置き換えて紹介します。窮屈な見方をかけ替えたいときのヒントとして、気軽に読んでみてください。
NLPの前提とは? 一言でいうと
NLP(神経言語プログラミング。優れた心理療法家の観察から生まれたコミュニケーションと自己変容の手法)には、「前提」と呼ばれる一連の基本的な考え方があります。NLPそのものの成り立ちと評価は、NLPとは?神経言語プログラミングの基本と活かし方で紹介しています。
前提の大きな特徴は、選び方にあります。「真実かどうか」ではなく、「そう仮定すると役に立ちやすいか」で選ばれているのです。優れた心理療法家たちが、人と関わるときに持っていた姿勢を、言葉にしたものとされています。
なぜ「仮定」でいいのでしょうか。私たちはもともと、確かめようのない前提の上で毎日を過ごしています。「人は信用できない」も「きっとなんとかなる」も、証明されたものではありません。どうせ何かを前提にするなら、選択肢が広がるほうを選んでみよう、というのがNLPの発想です。
数や表現は、流派や本によってさまざまです。ここでは、多くの資料に共通して登場し、自分を知ることや生きやすさにつながりやすい7つを選びました。
なお、NLPには、文の中に隠れた思い込みを指す「言語の前提」という別の用語もあります。こちらは用語辞典で説明しています。
生きやすくなる7つの前提
1. 地図は領土ではない
私たちは、現実そのものではなく、経験や言葉でつくった「心の地図」を通して世界を見ています。もとは言語学者コージブスキーの言葉です(Korzybski, 1933)。
たとえば、友人からの返信が遅いとき。「嫌われたかも」という地図を持つ人と、「忙しいのかな」という地図を持つ人。同じ出来事でも、気分はまったく違います。自分の地図に気づくと、「これは事実か、解釈か」と立ち止まれるようになります。心理学の側からの説明はメンタルモデルとは?「地図は領土ではない」の意味をどうぞ。
2. 失敗はない、フィードバックがあるだけ
うまくいかなかった結果は、「自分がだめな証拠」ではなく、「次にどうすればいいかを教えてくれる情報」だという考え方です。
プレゼンで言葉に詰まったなら、「準備の仕方」や「緊張したときの対処」についての情報が手に入った、と受け取る。結果を人格の評価から切り離すと、次に試す気力が残ります。失敗が怖いときの向き合い方は、失敗が怖いあなたへ|失敗をフィードバックに変えるでも紹介しています。
3. すべての行動には、肯定的な意図がある
一見困った行動にも、その人なりの「守りたいもの」や「得たいもの」がある、という考え方です。
夜ふかしをやめられないのは、昼間に持てなかった自分だけの時間を取り戻したいからかもしれません。意図がわかれば、責めるより先に、「同じ願いを、もっと体にやさしい方法で満たせないか」と考えられます。やめられない行動の奥にある得を探る考え方は、二次的利得とは?やめられない行動の隠れた理由で扱っています。
4. 人は、そのとき選べる最善の選択をしている
過去の自分の選択を責めたくなったときに、役立つ前提です。あのときの自分は、あのとき持っていた情報と余裕の中で、精いっぱい選んでいた、と見るのです。
これは、言い訳をすることとは違います。「今なら別の選択肢がある」と認めたうえで、過去の自分をむやみに裁かない姿勢です。自分につらく当たる代わりに、人間なら誰でもつまずくと認めて、自分にやさしく接する。心理学で研究されている「セルフ・コンパッション」にも、似た考え方があります(Neff, 2003)。
5. コミュニケーションの意味は、相手の反応にある
伝えたつもりの内容ではなく、相手がどう受け取ったかが、そのやりとりの「結果」だという考え方です。
「何度も説明したのに」といらだつとき、この前提に立つと、「伝え方を変えてみよう」という選択肢が見えてきます。ただし、相手の反応のすべてを自分の責任として背負う、という意味ではありません。この点は、あとの注意点でもう一度ふれます。
6. 行動と、その人自身は別である
「遅刻した」は行動で、「だらしない人間だ」は人格への評価です。この2つを分けて考えるのが、この前提です。
自分にも他人にも使えます。「私はだめな人間だ」ではなく「今日は準備が足りなかった」。行動なら変えられますが、人格のラベルを貼ると、変える手がかりがなくなってしまいます。
7. 最も柔軟な人が、その場をリードする
一つのやり方に固執せず、多くの選択肢を持っている人ほど、状況に合わせて動けるという考え方です。もとは、サイバネティクスという学問で、「多様な状態をとれる仕組みほど、変化に対応できる」とした考えに由来します(Ashby, 1956)。
話し合いがこじれたとき、言い方を変える、場所を変える、時間をおく。打ち手が多いほど、行き詰まりから抜け出しやすくなります。「うまくいかないなら、何か別のことをする」。この単純な発想が、行動の柔軟性の出発点です。
場面ごとに、思い出したい前提
7つを一度に覚える必要はありません。次の表は、場面ごとに思い出すと役立ちやすい前提の組み合わせです。研究にもとづく対応ではなく、ふり返りのための目安として使ってください。
| こんなとき | 思い出したい前提 |
|---|---|
| 失敗して、自分を責めている | 2. 失敗はない/4. 最善の選択/6. 行動と人は別 |
| 人とわかりあえないと感じる | 1. 地図は領土ではない/5. 意味は相手の反応にある |
| やめたい習慣がやめられない | 3. 肯定的な意図 |
| 同じやり方で行き詰まっている | 7. 最も柔軟な人がリードする |
前提を使うときの注意点
科学的に証明された法則ではない
NLPの前提は、心理療法家の姿勢を言葉にしたもので、実験で確かめられた法則ではありません。NLPの理論や技法の多くは、研究で十分な裏づけが得られていないことも知られています(Witkowski, 2010)。
だからこそ、前提は「信じるもの」ではなく、「必要なときにかけてみる眼鏡」として扱うのが誠実です。かけてみて楽になるなら使い、違和感があれば外せばいいのです。
痛みや被害を否定するために使わない
「失敗はない」を、落ちこんでいる人に言うと、「落ちこむ自分がおかしい」と感じさせてしまうことがあります。悲しみや悔しさは、まず感じていいものです。前提は、気持ちが少し落ち着いてから使うほうが役に立ちます。
また、「すべての行動には肯定的な意図がある」は、暴力やハラスメントを許す理由にはなりません。相手の意図を理解することと、その行為を受け入れることは別です。
自分を責める道具に変えない
「コミュニケーションの意味は相手の反応にある」を真に受けすぎると、相手が不機嫌なのは全部自分のせい、と考えてしまいがちです。相手の反応には、相手自身の体調や事情も影響しています。自分が変えられる範囲で工夫する。それ以上は、背負わなくて大丈夫です。
資料によっては、「誰かにできることは、誰でも学べる」という前提も挙げられています。学ぶ意欲を後押しする言葉ですが、才能や環境の違いを無視して自分を追いつめる材料にするのは、本来の使い方ではありません。
前提をかけ替える、小さなワーク
書き直した文がしっくりこなくても、気にしなくて大丈夫です。大切なのは、「ほかの見方もありうる」と体験することです。物事の枠組みを変える考え方は、リフレーミングとは?見方を変えて心を軽くするでさらに詳しく紹介しています。
窮屈なときは、眼鏡をかけ替えていい
前提は、正しいか間違っているかで選ぶものではありません。今の自分を少し楽にし、次の一歩を踏み出しやすくしてくれるかどうかで選ぶものです。
ずっと同じ眼鏡をかけていると、それが世界そのものに見えてきます。苦しいと感じたら、一度外して、別の眼鏡をかけてみる。それだけで、同じ出来事が少し違う色に見えることがあります。
今日、自分に厳しい言葉をかけそうになったら、7つのうち一つを思い出してみてください。「これは地図かもしれない」。そのひと言が、責める気持ちとあなたの間に、小さなすき間をつくってくれます。
A question for you
あなたへの問い
最近、自分を責めた出来事を、別の前提から眺めるとどう見えますか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
NLPの前提は、いくつありますか?
決まった数はありません。流派や本によって、10前後から十数個までさまざまに挙げられています。「地図は領土ではない」「失敗はない、フィードバックがあるだけ」などは、多くの資料に共通して登場します。
NLPの前提は、科学的に正しいのですか?
科学的に検証された法則ではありません。NLP自身も、前提を「真実」ではなく「そう仮定すると役に立つ考え方」と位置づけています。合うものだけを、物事の見方を広げるヒントとして取り入れるのが現実的です。
「すべての行動には肯定的な意図がある」と言われると、ひどいことをされた自分が悪いように感じます。
そう感じる必要はありません。この前提は、自分や相手の行動の奥にある願いを理解するための見方であって、傷つける行為を許すためのものではありません。安全が脅かされているときは、理解より先に、自分を守ることを優先してください。
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References
- O'Connor, J., & Seymour, J. (1990). Introducing Neuro-Linguistic Programming. Thorsons.
- Dilts, R., & DeLozier, J. (2000). Encyclopedia of Systemic Neuro-Linguistic Programming and NLP New Coding. NLP University Press.
- Korzybski, A. (1933). Science and Sanity. International Non-Aristotelian Library.
- Ashby, W. R. (1956). An Introduction to Cybernetics. Chapman & Hall.
- Neff, K. D. (2003). Self-compassion: An alternative conceptualization of a healthy attitude toward oneself. Self and Identity, 2(2), 85–101.
- Witkowski, T. (2010). Thirty-five years of research on neuro-linguistic programming. NLP research data base. State of the art or pseudoscientific decoration? Polish Psychological Bulletin, 41(2), 58–66.
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」