No.04 Draw the Future未来を描く
バックキャスティングとは?未来から逆算する思考
バックキャスティングとは、望む未来を先に描き、そこから今やることを逆算する思考法。フォアキャスティングとの違い、未来から考えると見え方が変わる理由、人生設計に使える逆算ワーク、計画が苦しくならないための注意点まで紹介します。
この記事の結論
バックキャスティングとは、望ましい未来の姿を先に描き、そこから時間をさかのぼって「今、何をすべきか」を考える思考法です。現状から積み上げるフォアキャスティングと違い、今の延長では届かない目標を考えるときに向いています。人生設計にも使えます。
- 未来の姿を先に決め、節目をさかのぼって今週の一歩までたどる思考法
- 現状の延長で考えにくい、大きな変化や長期の目標を考えるときに向いている
- 計画は楽観的になりがち。余裕をもたせ、未来像は定期的に描き直す
目次 Contents
「将来どうなりたいの?」と聞かれて、言葉に詰まる。とりあえず目の前のことをこなしているけれど、このまま進んだ先に何があるのか見えない。将来について考えようとすると、不安ばかりが浮かんで、考えるのをやめてしまう。
そう感じるのは、未来をおろそかにしているからではありません。多くの場合、私たちは「今」から未来を予想しようとします。今の自分の延長線上に未来を置くと、どうしても今の制約が先に目に入ってしまうのです。
そこで役に立つのが、バックキャスティングという考え方です。先に未来を描き、そこから時間をさかのぼって今を考えます。順番を逆にするだけで、見えてくるものが変わります。
この記事では、バックキャスティングの意味と、フォアキャスティングとの違いを整理します。そのうえで、個人の人生設計に使える逆算ワークと、計画が苦しくならないための注意点を紹介します。
バックキャスティングとは? 一言でいうと
バックキャスティングとは、望ましい未来の姿を先に描き、そこから時間をさかのぼって「今、何をすべきか」を考える思考法です。「逆算思考」と呼ばれることもあります。
もともとは、エネルギー政策や環境問題の分野で生まれた考え方です。カナダの研究者ジョン・ロビンソンが、1982年の論文で「バックキャスティング」という名前で方法を整理しました(Robinson, 1982)。将来のエネルギー需要を予測するのではなく、望ましいエネルギーの姿を先に決めて、そこへ至る道筋を考える方法です。背景には、1970年代にエネルギー研究者のエイモリー・ロビンスが示した発想がありました。望ましいエネルギーの未来像から、政策を考えるという発想です。
その後、持続可能な社会づくりの分野で広く使われるようになりました。最近は企業の長期計画や、個人のキャリア設計にも応用されています。
フォアキャスティングとの違い
バックキャスティングの反対にあたるのが、フォアキャスティングです。こちらは、今の状況やこれまでの傾向をもとに、未来を予測する考え方です。天気予報(ウェザー・フォアキャスト)と同じ言葉です。
| フォアキャスティング | バックキャスティング | |
|---|---|---|
| 出発点 | 今の状況・これまでの傾向 | 望ましい未来の姿 |
| 問い | このまま進むと、どうなる? | そこに行くには、何が必要? |
| 向いている場面 | 状況が安定していて、改善を重ねたいとき | 大きな変化が必要なとき、長期の目標を考えるとき |
| 弱点 | 今の制約にとらわれ、選択肢が狭まりやすい | 未来像が非現実的だと、計画が空回りしやすい |
スウェーデンの研究者カール・ドレボリは、バックキャスティングが向いている状況を整理しています(Dreborg, 1996)。問題が複雑なとき、大きな変化が求められるとき、そして今の流れそのものが問題の一部になっているときです。
個人に置きかえると、わかりやすくなります。「今の仕事をもう少し効率よくしたい」ならフォアキャスティングで十分です。一方、「働き方そのものを変えたい」なら、今の延長からは答えが出にくい。そんなときこそ、未来から考える出番です。
なぜ未来から考えると、見え方が変わるのか
今から考えると、「できること」しか見えない
今から未来を考えるとき、私たちは知らず知らずのうちに、今の能力や環境を前提にしています。「今の収入では無理」「この年齢では遅い」。そうした制約を先に置くと、思い描ける未来は、今の自分で手が届く範囲に縮んでしまいます。
未来から考えると、順番が変わります。先に「こうありたい」を描き、そのあとで「では何が必要か」を考える。制約は、乗り越える対象として後から出てきます。
「もう起きたこと」にすると、理由が見えやすくなる
心理学には、未来を「すでに起きたこと」として考えると、その理由を思いつきやすくなるという研究があります。
ある実験では、参加者に未来の出来事を想像してもらいました。「起きるかもしれない」と想像したグループより、「すでに起きた」と想像したグループのほうが、その出来事が起きた理由を多く挙げられました(Mitchell ら, 1989)。
この知見は、ビジネスの世界でも応用されています。心理学者ゲイリー・クラインは、プロジェクトが「すでに大失敗した」と想像し、その理由を挙げてもらう「プレモーテム(事前の検死)」という方法を提案しました(Klein, 2007)。
バックキャスティングも、同じしくみを使っていると考えられます。未来に立って「ここまで、どうやって来たのか」をふり返ると、必要な道のりが具体的に見えてきます。
人生設計に使う逆算ワーク
ここからは、バックキャスティングを個人の人生設計に使う方法を紹介します。大切なのは、未来の姿を「肩書き」や「数字」だけでなく、「どんな一日を過ごしているか」という形で描くことです。
未来は「肩書き」より「状態」で描く
「独立している」「年収を上げている」といった目標は、わかりやすい反面、それ自体が目的になりやすいものです。「自分で予定を決めて、昼間に散歩できている」のように状態で描くと、そこへ至る道はひとつではないことに気づけます。
独立しなくても、今の会社で働き方を変えるという道があるかもしれません。どんな状態を望んでいるのかがはっきりすると、選択肢がかえって広がります。何を大切にしたいかを確かめたい人は、人生の輪(バランスホイール)で今の暮らしを見渡してから取りかかるのもおすすめです。
節目は、大きな塊から小さく分ける
さかのぼるときは、いきなり細かい計画を立てようとしないことです。10年後から5年後、5年後から1年後へと、大きな塊を少しずつ小さく分けていきます。この分け方のコツは、チャンクダウンとは?考えを整理する技術でくわしく紹介しています。
未来の姿が浮かばないときは
「10年後の一日」と言われても、何も浮かばない人もいます。それは、あなたに夢がないからではありません。遠すぎる未来は、誰にとっても描きにくいものです。そんなときは、次のような入口を試してみてください。
- 期間を縮める:10年後ではなく、3年後や1年後から始める
- 「嫌な未来」から描く:「このままだと、こうなっていそうで嫌だ」を書き、その反対を考える
- 気分から描く:何をしているかより、「どんな気分で目覚めていたいか」を先に決める
- 憧れの暮らしを借りる:いいなと思う人の一日を書き出し、自分に合う部分だけを残す
描いた未来は、あくまで仮のものです。仮置きでも、さかのぼる作業をしてみると、「やっぱりこれは違う」「ここは本当にほしい」という感覚がはっきりしてきます。
逆算が苦しくならないための4つの注意点
1. 計画は、楽観的になると知っておく
人は、作業にかかる時間を短く見積もりがちです。この傾向は「計画の誤謬(ごびゅう)」と呼ばれます。
卒業論文を書く大学生に、いつ終わるかを予想してもらった研究があります。予想した日までに書き終えたのは、3割ほどでした(Buehler ら, 1994)。逆算した計画にも、同じことが起こります。節目の時期には、余裕をもたせておきましょう。
2. 未来像を、固定しない
描いた未来は、今のあなたが思い描ける範囲の未来です。経験を重ねれば、望むものが変わるのは自然なことです。3か月や半年に一度、未来の一日を描き直してください。描き直すたびに、本当に大切なものが少しずつ浮かび上がってきます。
3. 「〜しなければ」に変わったら、立ち止まる
逆算した計画が、いつのまにか自分を追い立てるノルマになることがあります。計画を見るたびに気が重くなるなら、未来像の中に、誰かの期待が混ざっていないかを確かめてください。
4. 未来のために、今を犠牲にしすぎない
逆算の計画は、「目標を達成するまでは楽しみをがまんする」という形になりがちです。でも、10年後に描いた「望む一日」の要素は、今日すでに少しなら味わえることがあります。
「自然の中で過ごしたい」なら、週末に1時間だけ公園を歩く。未来の一日のかけらを、今の暮らしに少しずつ混ぜておくと、計画は「がまんの道のり」ではなくなります。そして、その未来が本当に自分の望むものかどうかを、今のうちに確かめることもできます。
描いた未来に、プレモーテムを組み合わせるのも有効です。「3年後、この計画がうまくいかなかったとしたら、理由は何だろう?」と考えておくと、つまずきやすい点に前もって備えられます。
フォアキャスティングと組み合わせて使う
バックキャスティングとフォアキャスティングは、どちらか一方を選ぶものではありません。未来から逆算して方向を決め、今から積み上げて足もとを固める。両方を往復するのが、いちばん実用的な使い方です。
時間の長さで、使い分けの目安を整理するとこうなります。
| 時間の長さ | 主に使う考え方 | 考えること |
|---|---|---|
| 5〜10年 | バックキャスティング | どんな状態で、どんな毎日を過ごしていたいか |
| 1〜3年 | 両方 | 未来像に近づくための節目と、今の力で届く範囲のすり合わせ |
| 今月・今週 | フォアキャスティング | 今の時間と体力で、実際に何ができるか |
遠くの目印と、足もとの地面。その両方を見ながら歩くイメージです。遠くだけを見ていると足もとでつまずき、足もとだけを見ていると、気づけば違う方向に進んでいます。
目標そのものをどう立てるかに迷う人は、目標設定の方法|ワクワクするゴールの立て方も参考になります。今の延長にない大きな目標を考えたい人には、現状の外側のゴールとは?本気の目標設定という考え方もあります。
未来は、今日の一歩から近づいてくる
バックキャスティングは、未来を正確に予言するための方法ではありません。望む方向をはっきりさせ、今日の一歩をその方向に向けるための方法です。
10年後の一日を描いても、その通りになるとは限りません。それでも、未来から今をふり返ったとき、「今週はこれをやってみよう」と思える一歩が見つかれば、それで十分です。その一歩が、描いた未来と今のあなたをつなぐ最初の線になります。
まずは、10年後のある朝の様子を、ひとつだけ書いてみてください。未来の場面を描くのが苦手な人は、ビジュアライゼーションとは?未来を思い描く技術のワークから始めるのもおすすめです。
A question for you
あなたへの問い
10年後のあなたが「この道でよかった」と思える一日は?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
バックキャスティングとフォアキャスティングは、どちらがいいのですか?
目的によって使い分けるものです。今のやり方を少しずつ良くしたいなら、現状から積み上げるフォアキャスティングが向いています。今の延長では届かない変化を考えたいなら、未来から逆算するバックキャスティングが向いています。実際には、両方を組み合わせて使うのがおすすめです。
未来の姿が描けません。それでも使えますか?
使えます。はっきりした夢がなくても、「こういう毎日は嫌だ」「こんな気分で過ごしたい」といった手がかりから始められます。描いた未来は仮のもので、あとから何度でも描き直してかまいません。
逆算して立てた計画どおりに進みません。
計画どおりに進まないのは自然なことです。人は、作業にかかる時間を短く見積もりがちだと研究でも知られています。計画は守るためではなく、方向を確かめるための地図と考え、3か月ごとなどに見直してください。
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References
- Robinson, J. B. (1982). Energy backcasting: A proposed method of policy analysis. Energy Policy, 10(4), 337–344.
- Dreborg, K. H. (1996). Essence of backcasting. Futures, 28(9), 813–828.
- Mitchell, D. J., Russo, J. E., & Pennington, N. (1989). Back to the future: Temporal perspective in the explanation of events. Journal of Behavioral Decision Making, 2(1), 25–38.
- Klein, G. (2007). Performing a project premortem. Harvard Business Review, 85(9), 18–19.
- Buehler, R., Griffin, D., & Ross, M. (1994). Exploring the "planning fallacy": Why people underestimate their task completion times. Journal of Personality and Social Psychology, 67(3), 366–381.