No.04 Draw the Future未来を描く
現状の外側のゴールとは?本気の目標設定
現状の外側のゴールとは、今の自分ややり方の延長では届かない目標のこと。なぜそこにゴールを置くと見える世界が変わるのか、設定の条件とワーク、怖さや抵抗を感じたときの扱い方、研究から見た注意点まで紹介します。
この記事の結論
現状の外側のゴールとは、今の自分の考え方や習慣、環境をそのまま続けても届かない場所に置く目標のことです。心からやりたいことを、今のやり方では届かない高さに置くと、これまで見えていなかった情報や選択肢に気づきやすくなる、とコーチングでは考えます。
- 今の延長線上では届かない、心からやりたいことをゴールに置く
- ゴールが変わると、注意を向ける先が変わり、見える選択肢も変わる
- 怖さは変化のサイン。ただし本当の危険を知らせる声は聞き分ける
目次 Contents
目標を立てるとき、つい「今の自分にできそうなこと」から考えてしまう。去年より売上を1割伸ばす。今より少し給料のいい会社に移る。それも大切な目標です。でも、書いたあとに、どこか心が動かない感じが残る。
「現状の外側のゴール」という言葉に興味をもったあなたは、今の延長ではない何かを求めているのかもしれません。このままの毎日が続くことに、物足りなさや違和感を覚えている。それは、あなたの中に、まだ使われていない力があるという合図でもあります。
この記事では、現状の外側のゴールとは何か、なぜそこにゴールを置くと見える世界が変わるのかを整理します。ゴールを設定するワークと、怖さや抵抗を感じたときの扱い方、研究から見た注意点もまとめました。
現状の外側のゴールとは? 一言でいうと
現状の外側のゴールとは、今の自分の考え方や習慣、環境をそのまま続けても届かない場所に置く目標のことです。
ここでいう「現状」は、今の収入や肩書きだけを指すのではありません。ふだんの考え方、付き合う人、毎日の習慣、「自分はこういう人間だ」というセルフイメージまで含みます。それらを今のまま続けた先にある未来が、「現状の内側」です。
源流は、アメリカの教育者ルー・タイスらの自己啓発プログラムにあります。日本では、「認知科学」をうたうコーチングの流派で広まりました。学術的な用語ではなく、コーチングの現場で使われてきた実践的な考え方です。
「現状の延長の目標」との違い
| 現状の延長の目標 | 現状の外側のゴール | |
|---|---|---|
| 例 | 今の部署で、来年は係長になる | 自分の専門で、業界の働き方を変える仕組みをつくる |
| 考え方 | 今できることを少し伸ばす | 今のやり方では届かないところから考える |
| 道筋 | 最初から見えている | 最初は見えない。進みながら見えてくる |
| 感じ方 | 安心だが、心はあまり動かない | ワクワクと同時に、怖さや戸惑いもある |
現状の延長の目標が悪いわけではありません。ただ、それだけでは、今の自分の枠の中で選択肢を探し続けることになります。
なぜ現状の外側にゴールを置くのか
コーチングで現状の外側のゴールが重視されるのは、ゴールによって「見えるもの」が変わると考えるからです。
人は、自分に関係のあるものしか見ていない
心理学者のシモンズとチャブリスは、有名な実験を行いました(Simons & Chabris, 1999)。参加者は、バスケットボールのパスの回数を数えるよう指示されます。その途中、ゴリラの着ぐるみを着た人が画面を横切りますが、かなりの割合の人がそれに気づきませんでした。
この現象は「非注意性盲目」と呼ばれます。人は、注意を向けているものに関係のない情報を、目の前にあっても見落とすことがあるのです。
コーチングでは、この「見えていない部分」をスコトーマ(心の盲点)と呼びます。**ゴールが今の延長にあると、今の自分に関係のある情報しか目に入りません。**ゴールを現状の外側に置くと、注意を向ける先が変わります。すると、これまで見落としていた情報や人、機会に気づきやすくなる、と考えるのです。スコトーマについては、スコトーマとは?心の盲点に気づく方法で詳しく紹介しています。
「やりたい」ゴールが、エネルギーを生む
現状の外側のゴールでは、「心からやりたいこと」であることが何より大切だとされます。人に言われた目標や、世間で良いとされる目標では、今のやり方を変えるほどのエネルギーは生まれにくいからです。
心理学の研究でも、自分の価値観や興味と一致した目標ほど、努力が続きやすいことが示されています(Sheldon & Elliot, 1999)。現状の外側に置くほど、道のりは長く、困難も多くなります。だからこそ、「やりたい」気持ちが支えになるのです。
達成できる目標では、自分は変わらない?
『自分の変え方』PRでは、今の延長線上にある目標は、達成しても本質的な変化は起きないと説明されています。今のやり方では届かない場所にゴールを置いてはじめて、「自分はこういう人間だ」という信念の書き換えが起きる、というのです。
よくある誤解に、「ゴールは達成しなければならない。だから、達成できる数字を置くべきだ」というものがあります。同書の見方は逆です。達成できる目標では、慣れ親しんだ範囲は変わりません。自分が変わらなければたどり着けない高いゴールに、最後まで執着し切る。そのこと自体が人を成長させる、と著者は考えます。
これはコーチングの立場からの見解で、実験で確かめられた法則ではありません。あとで見るように、大きすぎるゴールが裏目に出る場合もあります。「達成できるかどうか」だけで目標を小さくしすぎていないかを、見直す視点として受け取ってください。
現状の外側のゴールの3つの条件
ゴールを考えるときは、次の3つを確かめてみてください。あわせて、ゴールを置く分野の広さにも目を向けます。
1. 心からやりたいこと
「〜すべき」「〜しないと困る」ではなく、誰にも頼まれていなくてもやりたいことかどうか。想像したとき、体が少し前のめりになる感じがあるかを確かめます。
2. 今のやり方では届かないこと
今の努力をそのまま続けて届くなら、それは現状の内側です。「どうやれば達成できるのか、今はわからない」くらいがちょうどいい、とされます。道筋が見えないことは、ゴールが現状の外側にある証拠でもあります。
3. 具体的に思い描けること
遠いゴールでも、達成したときの場面は具体的に思い描けることが大切です。どこにいて、誰と、何をしているのか。場面が具体的になるほど、そこに向かう手がかりが見えやすくなります。
人生のいくつかの分野で考える
もう一つ大切なのは、ゴールを仕事だけに置かないことです。仕事、家族、健康、学び、地域、趣味。人生のいくつかの分野それぞれに、現状の外側のゴールを考えることがすすめられています。
仕事のゴールだけが大きいと、ほかの分野が置き去りになりやすくなります。反対に、いくつかの分野にゴールがあると、一つがうまくいかない時期も、ほかの分野が支えになります。分野ごとの満足度を見渡したい人は、人生の輪(バランスホイール)で人生を見渡すも役に立ちます。
怖さや抵抗を感じたときの扱い方
現状の外側のゴールを描くと、ワクワクと同時に、怖さや不安がわいてくることがあります。「こんなの無理に決まっている」「自分には大それている」。この反応は、自然なものです。
怖さは、現状に引き戻す力のサイン
人の心と体には、今の状態を保とうとする働きがあります。体温や血圧を一定に保つしくみは「ホメオスタシス」と呼ばれます。コーチングでは、この考え方を心にも当てはめ、慣れ親しんだ状態に戻ろうとする力として説明します。
現状の外側のゴールは、この慣れた状態から外れるものです。だから、怖さや抵抗が生まれるのは、ゴールがちゃんと現状の外側にあるからだ、とも捉えられます。詳しくは、ホメオスタシスとは?変われないのは脳の仕組みや、コンフォートゾーンとは?抜け出し方と成長の関係で紹介しています。
「できる」という感覚を少しずつ育てる
怖さをやわらげるのに役立つのが、「自分ならできる」という感覚です。コーチングでは、ゴールを達成する自分の能力への自己評価を「エフィカシー」と呼びます。心理学の「自己効力感」に近い考え方です。
エフィカシーは、小さな「できた」の積み重ねで育ちます。大きなゴールを、今週できる小さな行動に分け、一つずつやってみる。その手応えが、「もしかしたら届くかもしれない」という感覚を支えます。詳しくはエフィカシー(自己効力感)とは?高める方法をどうぞ。
周りの否定的な声との付き合い方
現状の外側のゴールを人に話すと、「無理だよ」「現実を見なよ」と言われることがあります。相手に悪気がないことも多いのですが、その言葉で心がしぼんでしまうこともあります。
ゴールが固まるまでは、話す相手を選ぶのも一つの方法です。応援してくれる人や、同じように挑戦している人に話すと、ゴールを育てやすくなります。夢を否定する人との付き合い方は、ドリームキラーとは?夢を否定する人との付き合い方で紹介しています。
本当の危険を知らせる声は聞き分ける
ただし、すべての怖さを「現状に引き戻す力」として片づけるのは危険です。中には、健康や生活、大切な人との関係が損なわれることを知らせる、まっとうな警告もあります。
怖さを感じたら、「これは慣れない変化への抵抗か、それとも本当に失うものへの警告か」と問いかけてみてください。後者なら、ゴールの形や進め方を調整する必要があります。目標が自分や周りにどう影響するかを確かめる方法は、エコロジーチェックとは?その目標は本当に自分のため?で紹介しています。
研究から見た注意点
現状の外側のゴールは、心を動かす力をもつ一方で、使い方を誤ると逆効果になることもあります。研究からわかっている注意点を見ておきます。
大きすぎる目標が、裏目に出ることもある
組織の研究者シトキンらは、「ストレッチ・ゴール(一見、不可能に思える目標)」について考察しました(Sitkin ら, 2011)。それによると、ストレッチ・ゴールが力を発揮しやすいのは、最近うまくいっていて、時間やお金などの余裕がある組織でした。反対に、余裕がなく苦しい状況では、かえって混乱や消耗を招きやすいと指摘しています。
個人にも、似たことが言えるかもしれません。心身が疲れているときや、生活に余裕がないときに、無理に大きなゴールを掲げると、自分を追いつめることになりかねません。
目標が、ほかの大切なものを見えなくすることも
目標に意識が集中しすぎると、目標に関係のないことが見えにくくなります。研究者たちは、目標を強く設定しすぎることの副作用を指摘しています。視野が狭くなる、ルールを軽んじやすくなる、といった問題です(Ordóñez ら, 2009)。
スコトーマを外すために置いたゴールが、別のスコトーマを生むこともある、ということです。ゴールを追いかける途中でも、ときどき立ち止まり、健康や人間関係、自分の価値観を置き去りにしていないかを確かめてください。
なお、目標設定の研究では、具体的で難しい目標のほうが成果が上がりやすいことが知られています(Locke & Latham, 2002)。ただしそれは、本人が本気で取り組み、進み具合がわかり、必要な力がある場合です。遠いゴールと、日々の具体的な行動を組み合わせることが、現実的な進め方になります。目標を行動に落としこむ方法は、目標設定の方法|ワクワクするゴールの立て方を参考にしてください。
届くかどうかより、心が動くかどうかから
現状の外側のゴールは、「達成できるか」で選ぶものではありません。「心が動くか」で選ぶものです。最初は道筋が見えなくても、ゴールを置いたその日から、あなたが目を向ける先は少しずつ変わっていきます。
怖さを感じても、それはあなたが本気で何かを望んでいる証拠です。急いで大きく動く必要はありません。小さな一歩を重ねながら、ゴールに向かう自分に慣れていけばいいのです。
今日、ワークで描いたゴールの場面を、もう一度思い浮かべてみてください。そして、そこに向かうために、今週できる小さなことを一つだけ選んでみてください。
A question for you
あなたへの問い
今のやり方を全部手放していいとしたら、何を目指してみたいですか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
現状の外側のゴールは、達成できなくてもいいのですか?
コーチングでは、ゴールは達成するためだけでなく、今の自分の見方や行動を変えるために置くものと考えます。ただ、達成をまったく考えないと、日々の行動につながりにくくなります。遠くのゴールと、そこへ向かう具体的な行動目標を組み合わせるのがおすすめです。
大きすぎるゴールを立てると、かえってやる気がなくなりませんか?
その可能性はあります。研究でも、あまりに遠い目標が、資源や支えのない状況では逆効果になりうると指摘されています。ゴールの大きさに圧倒されるときは、それを少しずつ近づく行動に分け、手応えを感じられる工夫をしてください。
現状の外側のゴールは、一つだけ決めればいいですか?
仕事だけに偏らないよう、家族、健康、学び、趣味など、人生のいくつかの分野で考えることがすすめられています。一つの分野だけに大きなゴールを置くと、ほかの大切なものが置き去りになることがあるからです。
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References
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist, 57(9), 705–717.
- Simons, D. J., & Chabris, C. F. (1999). Gorillas in our midst: Sustained inattentional blindness for dynamic events. Perception, 28(9), 1059–1074.
- Sitkin, S. B., See, K. E., Miller, C. C., Lawless, M. W., & Carton, A. M. (2011). The paradox of stretch goals: Organizations in pursuit of the seemingly impossible. Academy of Management Review, 36(3), 544–566.
- Ordóñez, L. D., Schweitzer, M. E., Galinsky, A. D., & Bazerman, M. H. (2009). Goals gone wild: The systematic side effects of overprescribing goal setting. Academy of Management Perspectives, 23(1), 6–16.
- Sheldon, K. M., & Elliot, A. J. (1999). Goal striving, need satisfaction, and longitudinal well-being: The self-concordance model. Journal of Personality and Social Psychology, 76(3), 482–497.
- 『自分の変え方』第3章 p.182-183