No.04 Draw the Future未来を描く
チャンクダウンとは?上げ下げで考えを整理する技術
チャンクダウンとは、大きくあいまいな目標や悩みを、具体的で扱える大きさに分ける考え方です。チャンクアップ・チャンクラテラルとの違いを一つの例で整理し、目標設定と悩みの整理、会話での使い方、やりすぎの落とし穴まで紹介します。
この記事の結論
チャンクダウンとは、大きくあいまいな目標や悩みを「具体的には?」と問いながら、行動できる大きさまで分けていくことです。反対に「何のために?」と目的へさかのぼるのがチャンクアップ、「ほかには?」と同じ目的の別の手段を探すのがチャンクラテラルです。
- 下げる=具体化、上げる=目的を問う、横にずらす=別の例を探す
- 行き詰まったら下げ、意味を見失ったら上げる。行き来することが要
- 人とのかみ合わなさは、話している「かたまりの大きさ」のずれのことも
目次 Contents
「もっと自分らしく生きたい」「将来が不安」。そう思っているのに、何から手をつければいいのかわからない。考えれば考えるほど、頭の中で同じところをぐるぐる回ってしまう。そんなもどかしさを抱えている人は多いはずです。
反対に、目の前の作業に追われるうちに、何のために頑張っているのかがわからなくなることもあります。細かいことは片づいているのに、どこにも進んでいない気がする。
どちらも、あなたの能力が足りないせいではありません。考えている「かたまり」の大きさが、いまの状況に合っていないだけかもしれません。
この記事では、NLPやコーチングで使われる「チャンクダウン」を中心に、考えのかたまりを上げ下げする技術を紹介します。目標を最初の一歩まで分ける方法と、もやもやした悩みを整理する方法の、両方に使える内容です。
チャンクダウンとは? 一言でいうと
チャンクダウンとは、大きくてあいまいな物事を、「具体的には?」と問いながら、扱える大きさまで分けていくことです。チャンク(chunk)は英語で「かたまり」を意味します。
たとえば「健康になりたい」は、大きなかたまりです。このままでは、今日何をすればいいかがわかりません。「具体的には?」と問うと、「体力をつけたい」「よく眠りたい」などに分かれます。さらに下げると、「平日の夜、20分歩く」まで具体的になります。ここまで来れば、今日から動けます。
NLP(神経言語プログラミング。優れた心理療法家の観察から生まれたコミュニケーションと自己変容の手法)では、こうしてかたまりの大きさを変えることを「チャンキング」と呼びます。具体と抽象の度合いのことを、抽象度と呼ぶこともあります。
上げる・下げる・横にずらす:3つの動き
チャンキングには、3つの方向があります。同じ「健康になりたい」を例に、一つの図のように並べてみます。
| 動き | 問い | 「健康になりたい」の例 |
|---|---|---|
| チャンクアップ(上げる) | 何のために? それは何の一部? | 家族と長く、元気に過ごしたい |
| 出発点 | 健康になりたい | |
| チャンクダウン(下げる) | 具体的には? たとえば? | 平日の夜に20分歩く |
| チャンクラテラル(横にずらす) | ほかに同じ目的を満たすものは? | 自転車で通勤する、階段を使う |
チャンクアップ:目的へさかのぼる
チャンクアップは、「何のために?」と問いながら、より大きな目的や意味へさかのぼることです。「健康になりたい」の上には、「家族と長く元気に過ごしたい」がありました。さらに上げると、「大切な人と、いい時間を重ねたい」に行き着くかもしれません。
上げていくと、目標の奥にある価値観に触れます。やる気が出ないとき、続ける意味を見失ったときに役立つ動きです。
チャンクダウン:行動まで降りる
チャンクダウンは、「具体的には?」「たとえば?」と問いながら、行動できる大きさまで降りていくことです。抽象的な目標を、いつ、どこで、何をするかに変えていきます。
チャンクラテラル:別の道を探す
チャンクラテラルは、一度上げてから、別の方向に下げることです。「健康のために歩く」がどうしても続かないなら、「家族と長く元気に過ごす」まで上げます。そこから、「週末に家族で自転車に乗る」のように別の手段へ下げ直します。
ひとつの方法に行き詰まったとき、目的を変えずに道を変えられる。これがチャンクラテラルの強みです。
それぞれの動きで使える問い
問いの言い回しを少し変えるだけで、考えが動きやすくなることがあります。手もとに置いておくと便利な問いをまとめました。
- 上げる:「それが叶うと、何が得られる?」「それは、もっと大きな何の一部?」「そもそも、なぜそれが大切?」
- 下げる:「具体的には、何をする?」「いつ、どこで、誰と?」「最初の一歩は?」「それができたと、何でわかる?」
- 横にずらす:「同じ目的を満たす、別のやり方は?」「似たことを、前にうまくやれたときは?」「ほかの人ならどうする?」
どの問いにも、正しい答えはありません。浮かんだ答えをそのまま書きとめて、しっくりくるものを選んでいけば十分です。
なぜ「上げ下げ」で頭が整理されるのか
チャンキングそのものは、NLPの実践から生まれた考え方で、技法としての効果が研究で確かめられているわけではありません。ただ、物事をどの大きさで捉えるかが行動を左右することは、心理学でも研究されてきました。
心理学者のヴァラカーとウェグナーは、同じ行動でも、人はさまざまな大きさで捉えていると考えました(Vallacher & Wegner, 1987)。「キーボードを打っている」とも、「報告書を書いている」とも、「チームの役に立っている」とも言えます。
この理論によると、物事が順調なとき、人は大きな意味で行動を捉えがちです。うまくいかなくなると、より具体的な捉え方に降りてきます。行き詰まったら下げ、意味を見失ったら上げるという使い分けは、この心の自然な動きを、意識して使うものです。
もうひとつ、時間の距離も関係します。遠い未来のことほど抽象的に、近いことほど具体的に考えやすいという研究があります(Trope & Liberman, 2010)。「いつか自分らしく生きたい」が抽象的なままなのは、それが遠い話だからです。チャンクダウンは、遠くにある目標を、今日の手もとまで引き寄せる作業でもあります。
目標を「最初の一歩」まで分解する
チャンクダウンがいちばん力を発揮するのは、目標を行動に変えるときです。手順はシンプルで、「具体的には?」をくり返すだけです。
止めどきの目安は、「今日、15分ほどで手をつけられる大きさ」です。ここまで下げると、何をすればいいかで迷わなくなります。先延ばしをしがちな人には、特に効く考え方です。くわしくは先延ばし癖の直し方|心理学でわかる原因と対策もどうぞ。
ただし、下げる前に一度上げておくのがコツです。目的を確かめずに分解を始めると、本当は必要のない作業まで細かく計画してしまうからです。
目標の立て方そのものを見直したい人は、目標設定の方法|ワクワクするゴールの立て方もあわせて読んでみてください。
もやもやした悩みを整理する
チャンキングは、悩みの整理にも使えます。悩みが重く感じられるのは、大きすぎるかたまりのまま抱えているからかもしれません。
漠然とした不安は、下げて小さくする
「将来が不安」は、大きなかたまりです。「具体的には、何が不安?」と問うと、「お金」「仕事」「健康」などに分かれます。「お金の何が?」「老後の生活費が足りるか」と進むと、調べられること、相談できることが見えてきます。
正体のわからない不安は、実際より大きく感じられます。名前のついた小さな不安は、ひとつずつ扱えます。頭の中のものを一度すべて書き出したいときは、ブレインダンプとは?頭の中を書き出す方法も役に立ちます。
細部にとらわれたら、上げて視野を広げる
反対に、小さなことに心をとらわれて眠れない夜もあります。上司の一言、送ってしまったメールの言い回し。そんなときは、「この悩みで、本当に守りたいものは何?」と上げてみます。
すると、「信頼されていたい」「失敗したと思われたくない」など、奥にある願いが見えてきます。願いがわかれば、メールの一文にこだわるより、次の打ち合わせで丁寧に対応するほうが近道だと気づけるかもしれません。
会話のかみ合わなさは、チャンクのずれかもしれない
人との話がかみ合わないとき、原因が「かたまりの大きさ」のずれにあることがあります。
たとえば、上司が「もっと主体的に動いてほしい」と言い、部下は何をすればいいのかわからずに困る。上司は大きなかたまりで、部下は具体的な行動のかたまりで考えています。どちらかが間違っているわけではありません。
こんなときは、相手の言葉を一段下げて確かめます。「主体的というのは、たとえばどんな場面で、何をすることですか?」。こうした具体化の質問は、NLPの「メタモデル」とも重なります。くわしくはメタモデルとは?言葉の奥にある本音を聴く質問をどうぞ。
全体像から考えたい人と、細部から積み上げたい人がいるように、得意なかたまりの大きさには個人差があります。自分の思考のクセを知りたい人は、メタプログラムとは?思考のクセから強みを知るも参考になります。
使うときの3つの落とし穴
細かくしすぎて、意味を見失う
分解は、やりすぎると逆効果になります。手順を細かく書きすぎて、計画を立てるだけで疲れてしまう。目の前のタスクをこなすことが目的になり、何のためにやっていたかを忘れてしまう。ときどき上げて、目的を確かめ直してください。
上げすぎて、地に足がつかなくなる
反対に、目的ばかりを考えていると、話が大きくなりすぎます。「世界を良くしたい」は美しい目的ですが、それだけでは月曜の朝にすることが決まりません。上げたら、どこかで下げて、行動につなげます。
人に使うときは、問い詰めにしない
「具体的には?」「何のために?」は、続けて聞かれると責められているように感じることがあります。人に使うときは、相手のペースを見ながら、一つずつ問いかけてください。答えに詰まったら、「まだ言葉にならなくても大丈夫」と待つ余白も大切です。
遠くの山と、足もとの一歩を行き来する
チャンキングは、特別な才能がいる技術ではありません。「何のために?」と「具体的には?」。この2つの問いを、行き来するだけです。
遠くの山ばかり見ていると、足もとがおぼつかなくなります。足もとばかり見ていると、どこへ向かっているのかを見失います。山と足もとを交互に見ながら歩くことで、迷いながらでも前に進めます。
いま頭の中で大きくなっている悩みや目標があるなら、ひとつだけ問いかけてみてください。「それを、今日の15分でできる大きさにすると?」。答えが見つかったら、それがあなたの最初の一歩です。
A question for you
あなたへの問い
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よくある質問
チャンクダウンとチャンクアップは、どちらを先にやればいいですか?
決まった順番はありません。何から手をつければいいかわからないときはチャンクダウン、やる気が出ない、何のためにやっているかわからないときはチャンクアップが向いています。目標を立てるときは、一度上げて目的を確かめてから下げると、ぶれにくくなります。
どこまで細かく分ければいいですか?
目安は、「今日、15分ほどで手をつけられる大きさ」です。それより細かく分けても、計画づくりに時間がかかるだけになりがちです。手が動かないなら、まだ大きすぎるサインなので、もう一段下げてみてください。
チャンクダウンは、心理学の用語ですか?
主にNLPやコーチングで使われる言葉です。「チャンク」という語は、記憶の研究で使われていた言葉を借りたものですが、意味は同じではありません。ただ、物事を抽象的に捉えるか具体的に捉えるかが行動に影響することは、心理学でも研究されています。
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References
- Miller, G. A. (1956). The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information. Psychological Review, 63(2), 81–97.
- Vallacher, R. R., & Wegner, D. M. (1987). What do people think they're doing? Action identification and human behavior. Psychological Review, 94(1), 3–15.
- Trope, Y., & Liberman, N. (2010). Construal-level theory of psychological distance. Psychological Review, 117(2), 440–463.
- O'Connor, J., & Seymour, J. (1990). Introducing NLP: Psychological Skills for Understanding and Influencing People. Thorsons.
- Dilts, R. B., & DeLozier, J. (2000). Encyclopedia of Systemic Neuro-Linguistic Programming and NLP New Coding. NLP University Press.