No.04 Draw the Future未来を描く
ビジュアライゼーションとは?未来を思い描く技術
ビジュアライゼーションとは、望む未来を五感で思い描く技術。理想を夢見るだけでは行動が減るという研究と、「過程」を思い描くと成果につながった研究を紹介し、臨場感を高めるコツと未来の自分に会いに行くワークを示します。
この記事の結論
ビジュアライゼーションとは、望む未来や大切な場面を、五感を使って心の中でありありと思い描く技術です。研究では、理想の結果を夢見るだけだと行動が減ることがあり、そこに至る過程や障害まで思い描くほうが行動につながりやすいとされています。
- 理想の結果だけを夢見ると、満足してしまい行動のエネルギーが下がることがある
- 成果につながりやすいのは、いつ・どこで・どう動くかという「過程」のイメージ
- 臨場感は五感と視点の切り替えで高まる。障害とその対処まで描いておく
目次 Contents
目を閉じて、理想の未来を思い描いてみる。夢が叶った瞬間の景色や、そのときの気持ちを味わってみる。ビジュアライゼーションに興味をもったあなたは、今の毎日の先に、もう少し違う景色を見たいのかもしれません。
一方で、「イメージするだけで本当に変わるの?」という疑いもあるはずです。その疑いは、とても健全です。実は心理学の研究では、思い描き方によって、行動が増えることもあれば減ることもあるとわかってきました。
未来を思い描くことは、夢見がちな現実逃避ではありません。使い方を知れば、迷ったときに方向を確かめ、不安な場面に備えるための、身近な道具になります。
この記事では、ビジュアライゼーションの意味と、研究でわかっている「効く思い描き方」を紹介します。臨場感を高めるコツと、未来の自分に会いに行くワークもまとめました。
ビジュアライゼーションとは? 一言でいうと
ビジュアライゼーションとは、望む未来や大切な場面を、五感を使って心の中でありありと思い描く技術です。「視覚化」と訳されますが、映像だけでなく、音や体の感覚、そのときの気持ちまで含めて思い描くのが特徴です。
スポーツ選手が試合前に動きを頭の中でなぞる「イメージトレーニング」も、その一種です。コーチングでは、目標を達成したときの様子や、そこへ向かう途中の場面を思い描くために使われます。
似た言葉との関係
ビジュアライゼーションのまわりには、よく似た言葉がいくつかあります。NLP(神経言語プログラミング。優れた心理療法家の観察から生まれたコミュニケーションと自己変容の手法)の用語も混ざっているので、違いを整理しておきます。
| 言葉 | 意味 | 使われる場面 |
|---|---|---|
| イメージトレーニング | 動作や場面を頭の中で練習すること | スポーツ、演奏、発表の準備 |
| 臨場感 | その場にいるかのような、生々しい感覚 | イメージの「質」を表す言葉 |
| フューチャーペーシング | 未来の場面を想像し、変化がそこで働くか確かめること | NLPのセッションの締めくくり |
| メンタル・シミュレーション | 出来事を心の中で模擬的に体験すること | 心理学の研究で使われる言葉 |
思い描くだけで叶う? 研究が示す意外な結果
「強く願えば叶う」という考え方は、自己啓発の世界で人気があります。ところが、研究の結果は、その単純な期待とは少し違うものでした。
ニューヨーク大学の心理学者ガブリエル・エッティンゲンは、減量プログラムに参加した女性たちを追跡しました。すると、減量に成功した自分を楽しく空想していた人ほど、1年後の減量幅が小さかったのです(Oettingen & Wadden, 1991)。
その後の実験でも、理想の未来を思い描いた直後は、体のエネルギーを示す指標(血圧)が下がっていました(Kappes & Oettingen, 2011)。理想の結果を夢見るだけだと、心がすでに満たされたように感じて、動くための力が下がることがあると考えられています。
ただし、これは「未来を思い描くのはやめたほうがいい」という意味ではありません。問題は、思い描くかどうかではなく、何をどう思い描くかにあります。
効果を分けるのは「結果」より「過程」のイメージ
試験勉強の「過程」を思い描いた学生たち
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学者シェリー・テイラーらは、中間試験を控えた大学生で実験をしました(Pham & Taylor, 1999)。
あるグループには、良い成績をとって喜んでいる「結果」を思い描いてもらいました。別のグループには、いつ、どこで、どんなふうに勉強するかという「過程」を思い描いてもらいました。
過程を思い描いたグループは、勉強時間が増え、試験の成績もよく、不安も少なかったと報告されています。結果だけを思い描いたグループには、そうした効果は見られませんでした。
願いと障害を、両方思い描く
エッティンゲンは、望む未来を思い描いたあとに、それを妨げそうな現実の障害も思い描く方法を研究しました。「メンタル・コントラスティング」と呼ばれる方法です。
理想と現実を並べて見ることで、「何をすればいいか」がはっきりし、行動に移しやすくなると考えられています。彼女はこれを「WOOP」という手順にまとめました(Oettingen, 2014)。願い(Wish)・成果(Outcome)・障害(Obstacle)・計画(Plan)の頭文字です。
体の練習の代わりにはならないが、助けにはなる
頭の中で動作を練習する「メンタルプラクティス」の研究をまとめた分析もあります。頭の中の練習にも効果は見られましたが、実際の練習よりは小さく、考える要素の多い課題でより効果が大きいという結果でした(Driskell ら, 1994)。
まとめると、ビジュアライゼーションは魔法ではありません。けれど、行動の過程を具体的にし、本番に備えるための道具としては、十分に頼りになるのです。
臨場感を高める4つのコツ
イメージがぼんやりしていると、心はあまり動きません。臨場感を高めるために、次の4つを意識してみてください。ただし、最初から映画のように鮮明である必要はありません。この点は、記事の後半でくわしく触れます。
1. 五感をひとつずつ足していく
まず、見えるものを描きます。部屋の明るさ、窓の外の景色、机の上にあるもの。次に、聞こえる音。それから、肌の感覚や、においや、味。一度に全部を思い描こうとせず、ひとつずつ足していくと、場面が立ち上がってきます。
2. 「自分の目」と「外からの目」を使い分ける
イメージには、自分の目から見る視点と、少し離れたところから自分を見る視点があります。ある研究では、選挙の前夜に投票する自分を「外から見る視点」で思い描いた人のほうが、翌日実際に投票した割合が高かったと報告されています(Libby ら, 2007)。
自分の目から見ると、気持ちを味わいやすくなります。外から見ると、「自分はこういうことをする人だ」と捉えやすくなります。二つの視点の違いは、アソシエイトとディソシエイトでもくわしく紹介しています。
3. 日付と場所を決める
「いつか、どこかで」では、場面になりません。「2年後の4月、平日の朝7時、自宅の台所で」。日付と場所を決めるだけで、イメージは急に具体的になります。
4. 明るさや大きさを調整してみる
NLPでは、イメージの明るさ・大きさ・距離などを「サブモダリティ」と呼び、それを変えると感じ方が変わると説明します。研究による裏づけは十分ではありませんが、イメージを少し明るく近づけたら気持ちが高まった、と感じる人もいます。試すなら、遊び心で十分です。くわしくはサブモダリティとは?記憶の「質感」を変えるをどうぞ。
未来の自分に会いに行くワーク
ここからは、研究の知見を組み合わせたワークを紹介します。理想の結果を眺めるだけで終わらせず、未来の自分から「過程」と「障害」の話を聞いてくるのがポイントです。
未来の自分を身近に感じることには、意味がありそうです。年をとった自分の顔の画像を見た人は、老後のための貯蓄を多めに選んだという研究があります(Hershfield ら, 2011)。未来の自分が他人ではなく「自分」として感じられると、今の選択が変わるのです。
ここで出てきた答えは、予言ではありません。あなたの中にすでにある知恵や願いが、未来の自分という形を借りて出てきたものです。最初の一歩が大きすぎると感じたら、さらに小さく分けてかまいません。未来から逆算して計画を立てたい人は、バックキャスティングとは?未来から逆算する思考が次の手がかりになります。
フューチャーペーシング:未来の場面で予行演習する
NLPには、「フューチャーペーシング」という手法があります。新しく身につけた考え方や行動が、未来の具体的な場面でちゃんと働くかを、心の中で確かめる方法です。
たとえば、「上司に意見を言えるようになりたい」なら、来週の会議の場面を思い描きます。そこで実際に口を開く自分を想像して、うまくいかなそうな瞬間を探します。「部長が腕を組んだ瞬間に、言葉が止まりそうだ」。そこが見つかれば、前もって対策を考えられます。
予行演習をしてみて、どうしても気が進まない感覚が残るなら、その目標が本当に自分のためのものかを見直すときかもしれません。エコロジーチェックとは?その目標は本当に自分のため?も参考にしてください。
うまく思い描けないときのヒント
映像が浮かばなくても大丈夫
人によって、心の中に映像を浮かべる力には大きな差があります。ほとんど映像を思い浮かべられない人がいることも、研究で報告されています(Zeman ら, 2015)。その状態は「アファンタジア」と呼ばれます。
映像が浮かびにくい人は、場面を文章で書き出してみてください。「朝7時、台所でコーヒーを淹れている。窓から光が入っている」。言葉や、体の感覚、音を手がかりにしても、ワークは十分に成り立ちます。
「イメージトレーニングは、映画のように鮮明に思い浮かべないと効果がない」。そう思いこんでいる人も少なくありません。『NLPの実践手法がわかる本』PRでは、これをよくある誤解として取り上げています。初めのうちは鮮明に見えなくて当たり前で、ぼやけた不完全なイメージで問題ない、という説明です。
むしろ、「はっきり見なければ」と力むほど、ワークは苦しくなり、続かなくなるとされています。ぼんやりした輪郭に、音や体の感じを少しずつ足していく。そのくらいの気楽さで続けるほうが、結果的に場面は立ち上がりやすくなります。
不安なイメージばかり浮かぶとき
未来を思い描こうとすると、うまくいかない場面ばかり浮かぶ人もいます。それは、あなたが慎重で、先のことを真剣に考えている証拠でもあります。
そんなときは、浮かんだ不安を消そうとせず、メモに書き出します。そして「その場面で、自分にできることはある?」と問いかけてください。不安なイメージは、メンタル・コントラスティングでいう「障害」の材料になります。
未来を夢見るより、未来の一日を歩いてみる
ビジュアライゼーションは、未来を夢見てうっとりするための技術ではありません。思い描いた未来の一日を、実際に歩いてみるための技術です。
そこには、まぶしい達成の瞬間だけでなく、地味な練習の日や、壁にぶつかる日も含まれています。その日々まで思い描けたとき、未来は遠い夢から、今日とつながった道に変わります。
まずは、3年後のある朝を、ひとつだけ思い描いてみてください。どこで目を覚まし、最初に何をしているか。その小さな場面の中に、今日からできる一歩のヒントが隠れているはずです。目標そのものを整えたい人は、目標設定の方法もあわせてどうぞ。
A question for you
あなたへの問い
3年後のあなたは、どんな朝を迎えていそうですか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
ビジュアライゼーションとイメージトレーニングは同じですか?
重なる部分が大きい言葉です。イメージトレーニングは主にスポーツで、動作や試合の場面を頭の中で練習することを指します。ビジュアライゼーションはもう少し広く、目標や未来の暮らしを思い描くことまで含めて使われます。
頭の中で映像が浮かびません。それでもできますか?
できます。心の中で映像をほとんど思い浮かべられない人がいることは、研究でも報告されています。その場合は、場面を言葉で書き出したり、そのときの体の感覚や音に注目したりする方法で代わりになります。
ビジュアライゼーションで願いは叶いますか?
思い描くだけで願いが叶う、という研究上の根拠はありません。むしろ、理想の結果を夢見るだけだと、行動が減ることがあると報告されています。行動の計画を立て、不安を減らすための準備として使うのがおすすめです。
どのくらいの頻度でやればいいですか?
決まった頻度はありません。目標に向けて動き出すときや、大事な場面の前に、5〜10分ほど行うのが使いやすいでしょう。毎日長くやるより、具体的な行動につなげることを意識してください。
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References
- Taylor, S. E., Pham, L. B., Rivkin, I. D., & Armor, D. A. (1998). Harnessing the imagination: Mental simulation, self-regulation, and coping. American Psychologist, 53(4), 429–439.
- Pham, L. B., & Taylor, S. E. (1999). From thought to action: Effects of process- versus outcome-based mental simulations on performance. Personality and Social Psychology Bulletin, 25(2), 250–260.
- Oettingen, G., & Wadden, T. A. (1991). Expectation, fantasy, and weight loss: Is the impact of positive thinking always positive? Cognitive Therapy and Research, 15(2), 159–178.
- Kappes, H. B., & Oettingen, G. (2011). Positive fantasies about idealized futures sap energy. Journal of Experimental Social Psychology, 47(4), 719–729.
- Oettingen, G. (2014). Rethinking Positive Thinking: Inside the New Science of Motivation. Current.
- Driskell, J. E., Copper, C., & Moran, A. (1994). Does mental practice enhance performance? Journal of Applied Psychology, 79(4), 481–492.
- Libby, L. K., Shaeffer, E. M., Eibach, R. P., & Slemmer, J. A. (2007). Picture yourself at the polls: Visual perspective in mental imagery affects self-perception and behavior. Psychological Science, 18(3), 199–203.
- Hershfield, H. E., Goldstein, D. G., Sharpe, W. F., et al. (2011). Increasing saving behavior through age-progressed renderings of the future self. Journal of Marketing Research, 48(SPL), S23–S37.
- Zeman, A., Dewar, M., & Della Sala, S. (2015). Lives without imagery: Congenital aphantasia. Cortex, 73, 378–380.
- 『実務入門 NLPの実践手法がわかる本』第1章 p.84