No.02 Tend the Mind心を整える

マインドセットとは?しなやかな心の持ち方

マインドセットとは、物事をどう受け止めるかを決める心の前提のこと。ドゥエックの成長マインドセットと固定マインドセットの違い、研究でわかっている効果と限界、無意識の判断(アティテュード)に気づいて少しずつ変える方法を紹介します。

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この記事の結論

マインドセットとは、出来事をどう受け止め、どう動くかを左右する心の前提のことです。心理学者ドゥエックは、能力は伸ばせると考える「成長マインドセット」と、生まれつき決まっていると考える「固定マインドセット」を区別しました。誰の中にも両方があり、場面ごとに気づいて選び直すことができます。

  • マインドセットは性格ではなく、場面ごとに顔を出す「心の前提」
  • 成長マインドセットの効果は研究で確かめられているが、大きさは控えめ
  • 変えるコツは、固定マインドセットが出る「きっかけ」に気づくこと
目次 Contents
  1. マインドセットとは? 一言でいうと
  2. 成長マインドセットと固定マインドセット
  3. 研究でわかっていること、まだわかっていないこと
  4. マインドセットの奥にある「アティテュード」
  5. マインドセットを少しずつ変える4つのステップ
  6. マインドセットを変えるときの落とし穴
  7. 一度に変わらなくていい。「まだ」の一語から

新しい仕事を任されたとき、「自分には無理かもしれない」と胸がざわつく。人がうまくやっているのを見ると、「あの人はもともと才能があるから」と思ってしまう。そんな自分を変えたくて、「マインドセット」という言葉にたどりついたのかもしれません。

「前向きなマインドセットをもとう」とよく言われます。でも、気持ちを無理に明るくしようとしても、長続きしないものです。落ちこんだ日に「ポジティブに」と言われると、かえって苦しくなることもあります。

変えたいと思っているのは、あなたが自分の可能性をあきらめていないからです。マインドセットは、無理やり上書きするものではありません。自分の中で働いている「前提」に気づき、少しずつ選び直していくものです。

この記事では、マインドセットの意味と、心理学者キャロル・ドゥエックの研究を紹介します。研究でわかっている効果の大きさや、無意識の判断に気づいて切り替える方法まで、順に見ていきます。

マインドセットとは? 一言でいうと

マインドセットとは、**出来事をどう受け止め、どう動くかを左右する「心の前提」**のことです。英語の mindset は「考え方の型」「ものの見方」といった意味で、ビジネスや教育の場でも広く使われています。

前提は、ふだんは目に見えません。でも、同じ出来事への反応の違いとして表れます。

たとえば、上司から資料の直しを頼まれたとします。ある人は「ダメ出しされた」と落ちこみます。別の人は「どこを直せば伝わるか、わかってよかった」と受け取ります。

出来事は同じでも、受け止め方が違えば、そのあとの行動も変わります。落ちこんだ人は次の資料づくりに気が重くなり、受け取った人は早めに相談するようになるかもしれません。マインドセットは、こうした小さな分かれ道の積み重ねに関わっています。

「性格」や「価値観」との違い

マインドセットは、性格のように固まったものではありません。仕事では挑戦できるのに、運動や人間関係になると「どうせ無理」と感じる。そんなふうに、場面によって顔を出すものが変わります。

価値観が「何を大切にするか」だとすれば、マインドセットは「物事をどう解釈するか」に近いものです。自分を縛る思い込み全般については、ビリーフとは?自分を縛る思い込みの外し方で扱っています。

成長マインドセットと固定マインドセット

マインドセットという言葉を広めたのが、スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックです。ドゥエックは、人が自分の能力をどう捉えているかに注目しました。

固定マインドセット成長マインドセット
能力の捉え方生まれつき決まっている学びや工夫で伸ばせる
失敗したとき「やっぱり向いていない」「やり方を変えてみよう」
努力について才能がない証拠に思える伸びるための道のり
人の成功を見て自分が劣っている気がする何をしたのか知りたくなる
意見を言われて否定されたと感じる次に活かせる情報になる

固定マインドセットの人にとって、課題は「自分の能力が試される場」になります。失敗は、能力が足りない証拠に見えてしまいます。だから、失敗しそうなことを避けたくなるのです。

成長マインドセットの人にとって、課題は「伸びるための場」です。今できないことは、「まだできない」だけのこと。ドゥエックは、この「まだ」という一言の力をよく強調しています。

ほめ方ひとつで、挑戦が変わる

ドゥエックらの有名な実験に、子どものほめ方を比べたものがあります(Mueller & Dweck, 1998)。課題を解いた子どもたちの一方を「頭がいいね」と能力でほめ、もう一方を「よくがんばったね」と取り組みでほめました。

その後、子どもたちに次の課題を選ばせると、違いが出ました。能力をほめられた子は、失敗しにくいやさしい課題を選ぶ傾向がありました。取り組みをほめられた子は、学べそうな難しい課題を選ぶ傾向がありました。

「頭がいい」とほめられると、その評価を失うのが怖くなるのかもしれません。この実験は、マインドセットが言葉かけによって揺れ動くことを示しています。自分にかけている言葉も、例外ではありません。

研究でわかっていること、まだわかっていないこと

成長マインドセットは、学校教育などで大きな注目を集めました。ただ、「マインドセットを変えれば人生が変わる」というほど単純な話ではありません。

この結果は、がっかりするものではありません。マインドセットは魔法のスイッチではなく、選択の質を少しずつ変える土台だということです。土台が変わっても、すぐに成果に表れるとは限りません。

もうひとつ大切なのは、誰の中にも両方のマインドセットがあるという点です。ドゥエック自身も、人は「成長型の人」と「固定型の人」に分かれるわけではない、と述べています。「私は成長マインドセットだ」と言い切ることより、固定の声が出る瞬間に気づくことのほうが役に立ちます。

マインドセットの奥にある「アティテュード」

コーチングの現場では、「アティテュード」という言葉も使われます。コーチングとは、対話を通じて、相手が自分で答えを見つけ、行動するのを支える関わり方のことです。アティテュードは、無意識のうちに起きる判断や選択の傾向を指す言葉です。

もともとアティテュード(attitude)は、社会心理学で「態度」と訳される概念です。ある対象を好ましいと感じるか、避けたいと感じるかという評価の傾向を指します(Eagly & Chaiken, 1993)。

ある人の名前を聞いただけで身構える。新しいアプリを見ると、使う前から面倒に感じる。そうした反応がアティテュードです。

判断は、考えるより先に起きている

社会心理学では、本人が意識していない評価の傾向も研究されてきました(Greenwald & Banaji, 1995)。私たちは、じっくり考えて判断しているつもりです。でも実際には、その前に「好き・嫌い」「できる・できない」の反応が起きていることがあります。

「人前で話す」と聞いた瞬間に、胃がきゅっと縮む。そのあとで「準備が足りないから」と理由を考える。順番としては、反応が先で、理由はあとからついてくるのです。マインドセットを変えたいなら、この一瞬の反応に目を向けることが入り口になります。

アティテュードの多くは、過去の体験から作られます。人前で笑われた記憶や、がんばったのに報われなかった経験です。だから、それはあなたの欠点ではなく、かつてのあなたを守ってきた反応でもあります。

マインドセットを少しずつ変える4つのステップ

ここからは、日常でできる切り替え方を紹介します。目指すのは、固定マインドセットを消すことではありません。出てきたときに気づいて、別の受け止め方も選べるようになることです。

1. 固定マインドセットが出る「きっかけ」を知る

固定の声は、決まった場面で出やすいものです。新しいことを始めるとき、誰かに批判されたとき、自分より上手な人を見たとき。まずは、あなたにとってのきっかけを知ることから始めます。

きっかけがわかると、心の準備ができます。「明日は初めての打ち合わせだから、たぶんあの声が出るな」と予想しておくだけでも、声に振り回される度合いは変わります。

2. その声に名前をつける

ドゥエックは、自分の中の固定マインドセットに名前をつけることを勧めています。「心配性のミキ」「完璧主義の先生」など、何でもかまいません。名前をつけると、その声と自分との間に少し距離が生まれます。

「私はダメだ」が「あ、また先生が出てきた」に変わる。それだけで、反応に飲みこまれにくくなります。自分を外から眺めるこの感覚は、メタ認知とは?自分を客観視する力の鍛え方ともつながっています。

3. 言葉に「まだ」を足す

「できない」を「まだできない」に、「向いていない」を「まだ慣れていない」に。たった一語ですが、時間の流れが加わることで、今の状態が「途中経過」に変わります。心の中の口ぐせを整える方法は、セルフトークとは?心の口ぐせを味方にするも参考にしてください。

4. 小さく試して、証拠を集める

考え方だけを変えようとしても、心はなかなかついてきません。いちばん説得力があるのは、「やってみたら、少しできた」という自分自身の体験です。

いきなり大きな挑戦をする必要はありません。会議で一度だけ質問してみる、苦手な作業を10分だけやってみる。そんな小さな「できた」が、新しい前提の証拠になります。こうした手応えは、エフィカシー(自己効力感)とは?高める方法で扱う「自分はできる」という感覚も育てます。

マインドセットを変えるときの落とし穴

「努力すればいい」と取り違える

成長マインドセットは、「とにかく努力しろ」という意味ではありません。同じやり方で努力を続けても、伸びないことはあります。大切なのは、うまくいかないときにやり方を変えたり、人に助けを求めたりすることです。ドゥエックも、努力だけをほめることは成長マインドセットではないと注意しています。

固定マインドセットの自分を責める

「また固定マインドセットになってしまった」と自分を責めると、それ自体が新しい固定の声になります。気づけた時点で、もう一歩進んでいます。失敗が怖い気持ちとの付き合い方は、失敗が怖いあなたへ|失敗をフィードバックに変えるで詳しく扱っています。

すべてを心の持ち方のせいにする

マインドセットは大切ですが、すべてが心の持ち方で決まるわけではありません。失敗が厳しく責められる職場や、学ぶ時間がまったくない暮らしでは、成長の受け止め方を保つのは難しくなります。自分の心だけを問題にせず、環境を整えることも選択肢に入れてください。

一度に変わらなくていい。「まだ」の一語から

マインドセットは、ある日を境にがらりと入れ替わるものではありません。固定の声が出るたびに気づき、別の受け止め方をそっと選び直す。その繰り返しの中で、少しずつ形を変えていきます。

今日、「できない」と言いかけた瞬間があったら、心の中で「まだ」を足してみてください。それだけで、あなたは自分を途中経過として見はじめています。

新しいことに踏み出すときの心の動きをもっと知りたい人は、コンフォートゾーンとは?抜け出し方と成長の関係も読んでみてください。

A question for you

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よくある質問

マインドセットとは、簡単にいうと何ですか?

物事をどう受け止め、どう反応するかを決めている心の前提のことです。同じ失敗でも「やっぱり向いていない」と受け取るか、「やり方を変えよう」と受け取るかは、この前提によって変わります。

固定マインドセットは悪いものですか?

悪いものではありません。苦手なことから自分を守ろうとする、自然な反応でもあります。問題になるのは、それが気づかないうちに挑戦の機会を奪っているときです。責めるより、「今、固定の声が出ているな」と気づくことから始めてください。

マインドセットは大人になってからでも変えられますか?

変えられます。ただ、一度の決意で切り替わるものではありません。場面ごとに少しずつ選び直していくものです。うまくいった小さな経験を積み重ねるほど、新しい受け止め方が自然に出やすくなります。

ポジティブ思考と成長マインドセットは同じですか?

同じではありません。ポジティブ思考は「きっとうまくいく」と考えることですが、成長マインドセットは「今はできなくても、学べば伸びる」と考えることです。うまくいかない現実を認めたうえで、次の手を探すのが成長マインドセットです。

もう一歩深めたい人へ

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  • マインドセット 「やればできる!」の研究

    キャロル・S・ドゥエック(著)/今西康子(訳)/草思社(2016年)

    失敗を恐れて挑戦できない人へ。能力は伸ばせると考える「しなやかマインドセット」の研究を紹介していて、自分や周りの人への声かけを見直すヒントになります。

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    ケリー・マクゴニガル(著)/神崎朗子(訳)/大和書房(2015年)

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References

  • Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success. Random House.
  • Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33–52.
  • Blackwell, L. S., Trzesniewski, K. H., & Dweck, C. S. (2007). Implicit theories of intelligence predict achievement across an adolescent transition: A longitudinal study and an intervention. Child Development, 78(1), 246–263.
  • Sisk, V. F., Burgoyne, A. P., Sun, J., Butler, J. L., & Macnamara, B. N. (2018). To what extent and under which circumstances are growth mind-sets important to academic achievement? Two meta-analyses. Psychological Science, 29(4), 549–571.
  • Yeager, D. S., et al. (2019). A national experiment reveals where a growth mindset improves achievement. Nature, 573, 364–369.
  • Eagly, A. H., & Chaiken, S. (1993). The Psychology of Attitudes. Harcourt Brace Jovanovich.
  • Greenwald, A. G., & Banaji, M. R. (1995). Implicit social cognition: Attitudes, self-esteem, and stereotypes. Psychological Review, 102(1), 4–27.

本当の人生を生きる 編集部

コーチング・NLP・心理学の書籍や研究をもとに、自分を知るための知恵を、やさしい言葉でお届けしています。記事は編集方針に沿って作成し、定期的に見直しています。