No.02 Tend the Mind心を整える

他人と比べてしまうのをやめる方法落ちこまない習慣

他人と比べてしまうのは、脳の自然な働きです。社会的比較の研究をもとに、比べて落ちこむときと励まされるときの違い、SNSで疲れる理由、比べる相手を「過去の自分」と「自分の価値観」に移す習慣を、ワークとともに紹介します。

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この記事の結論

他人と比べてしまうのは、自分の位置を確かめようとする脳の自然な働きで、意志の弱さではありません。やめようと力むより、比べたことに気づき、物差しを「過去の自分」と「自分の価値観」に持ち替えるほうが、落ちこみにくくなります。

  • 比較は、自分の位置を確かめるための自然な心の働き。止めるより扱い方を変える
  • 落ちこむかどうかは、相手との距離・分野・手の届きそうさで変わる
  • 比べる相手を過去の自分に、物差しを自分の価値観に移す習慣が助けになる
目次 Contents
  1. 他人と比べてしまうのは、あなたが弱いからではない
  2. 比較には2つの向きがある:上方比較と下方比較
  3. 比べて落ちこむとき、励まされるとき
  4. SNSで比べて疲れてしまう理由
  5. 比べる相手を「過去の自分」に移す
  6. 物差しを「自分の価値観」に持ち替える
  7. 比べて落ちこんだ瞬間にできること
  8. 比べる目を、自分を知る目に変える

同期が先に昇進した。友人のSNSには、楽しそうな旅行や結婚の報告が並んでいる。それに比べて自分は、と思った瞬間、さっきまで普通だった一日が急に色あせて見える。そんな経験は、きっと一度や二度ではないはずです。

「人は人、自分は自分」。頭ではわかっています。比べても仕方がないことも、知っています。それでも比べてしまうから、つらいのですよね。そして、比べてしまう自分をまた責めてしまう。

最初にお伝えしたいのは、他人と比べてしまうのは、あなたの心が弱いからではないということです。比較は、人がもともともっている心の働きです。だから、「比べないようにしよう」と力むほど、うまくいかなくなります。

この記事では、比較が起きるしくみと、比べて落ちこむときと励まされるときの違いを、心理学の研究をもとに整理します。そのうえで、比べる相手を「過去の自分」に、物差しを「自分の価値観」に持ち替える具体的な習慣を紹介します。

他人と比べてしまうのは、あなたが弱いからではない

人はなぜ、他人と比べてしまうのでしょうか。この問いに最初に理論で答えたのが、社会心理学者のレオン・フェスティンガーです。

フェスティンガーは、人には自分の能力や意見を正しく知りたいという欲求があると考えました(Festinger, 1954)。そして、テストの点数のような客観的な物差しがないとき、人は他人と比べることで自分の位置を確かめる、と述べています。これを「社会的比較」と呼びます。

たとえば、「自分は料理が上手なほうか」には、はっきりした基準がありません。だから友人の手料理を食べて、「自分と同じくらいかな」と測ります。比較は、自分を知るための手段として働いているのです。

フェスティンガーはさらに、人は自分と似た相手と比べやすいとも述べています。同期、同級生、同年代の友人。比べて心がざわつく相手が、たいてい身近な人なのはそのためです。遠い世界の大富豪と比べて落ちこむ人は、あまりいません。

比較は、ほとんど自動的に起きる

比較のやっかいなところは、意識する前に起きてしまう点です。ある実験では、比べても意味がないと明らかな相手とさえ、参加者は自分を比べていました(Gilbert ら, 1995)。そして、時間と心の余裕があるときだけ、「あの比較は意味がなかった」とあとから修正できたのです。

つまり、比べること自体は止められなくても、比べたあとの扱い方は変えられます。この記事のヒントは、すべてこの「比べたあと」に向けたものです。

比較には2つの向きがある:上方比較と下方比較

比較には、大きく分けて2つの向きがあります。

上方比較下方比較
比べる相手自分より上だと感じる人自分より下だと感じる人
よい面目標になる、刺激を受けるほっとする、気持ちが守られる
つらい面劣等感、焦り、嫉妬見下す気持ち、後ろめたさ
起きやすい場面SNS、同期の活躍、きょうだいとの比較落ちこんでいるとき、自信が揺らいだとき

心理学者のウィルズは、下方比較が心を守る働きに注目しました(Wills, 1981)。人は自分がおびやかされていると感じると、より大変な状況の人と比べて、気持ちを立て直そうとするというのです。「あの人よりはまし」と思うことで、一時的に心が守られます。

ただ、下方比較に頼りすぎるのは、おすすめできません。安心するために、自分より下を探し続けることになるからです。それは結局、他人の物差しの上で生きることと変わりません。

一方で、上方比較は落ちこむだけのものでもありません。研究を整理した論文では、上の人と比べることが、かえって自己評価を高める場合もあると報告されています(Collins, 1996)。「あの人と自分は似ている」と感じると、相手の姿に自分の可能性を重ねられるのです。

比べて落ちこむとき、励まされるとき

同じ「すごい人」を見ても、やる気が出る日と、落ちこむ日があります。その違いは、どこから生まれるのでしょうか。研究からは、少なくとも3つの手がかりが見えてきます。

1. 手が届きそうに感じるか

ある実験では、優秀な先輩の話を読んだ学生の反応が比べられました(Lockwood & Kunda, 1997)。自分もいずれそうなれそうだと感じた学生は、やる気が高まりました。一方、もう追いつけないと感じた学生は、かえって自己評価が下がったのです。

比べて苦しくなるのは、相手がすごいからではなく、「自分には届かない」と感じているからかもしれません。

2. その分野が、自分にとって大切か

心理学者のテッサーは、相手との距離と、その分野の大切さに注目しました(Tesser, 1988)。親しい人が、自分にとってどうでもいい分野で活躍すると、人は誇らしく感じやすい。友人がマラソン大会で入賞したら、素直に「すごいね」と言えます。

ところが、親しい人が、自分が大切にしている分野で先を行くと、心がざわつきやすくなります。デザイナーを目指している人が、同期のデザインが評価されたのを見たとき、平気ではいられません。

つまり、心がざわつく比較は、あなたが何を大切にしているかを教えてくれる比較でもあるのです。

3. 嫉妬が「追いつきたい」に向かうか

嫉妬にも種類があります。研究では、相手に近づこうとする前向きな嫉妬と、相手を引きずり下ろしたくなる嫉妬が区別されています(van de Ven ら, 2009)。前者は、努力のエネルギーにつながりやすいとされます。

「あの人みたいになりたい」と思える嫉妬は、行き先を示してくれる感情です。苦しいのは、嫉妬そのものより、「嫉妬する自分はだめだ」と責める気持ちのほうかもしれません。

「私は劣っている」は、誰と何を比べている?

落ちこんでいるとき、私たちは「私は劣っている」「もっとがんばらないと」と、比べる相手を省略した言い方をしがちです。NLPでは、比較の基準が抜け落ちた言葉を「比較の省略」と呼びます(用語辞典:比較の省略)。

基準を言葉にするだけで、比較は少し現実的な大きさに戻ります。

ステップ5で点数が低かったなら、その比較は、あなたが気にしなくていいものかもしれません。点数が高かったなら、そこはあなたの大切な分野です。落ちこみの奥に、「本当はこうなりたい」という願いがあるはずです。それを、このあとのワークで言葉にしていきます。

SNSで比べて疲れてしまう理由

SNSを見たあとに、なんとなく気分が沈む。多くの人が感じているこの疲れには、いくつかの理由が考えられます。

ひとつは、SNSに並ぶのが、人生のいちばんいい瞬間だということです。旅行、昇進、記念日。誰もが、うまくいった場面を選んで投稿します。それと、ありのままの自分の日常を比べれば、分が悪くなるのは当然です。

もうひとつは、比べる回数そのものが増えることです。昔なら年に一度の同窓会で知った近況を、今は毎日、何十人分も目にします。比較が自動的に起きることを考えると、心が休まる暇がありません。

SNSとの付き合い方を少し変える

完全にやめなくても、できることはあります。

  • 見る時間帯を決める:寝る前や起きてすぐは避け、時間を区切って見る
  • 見たあとの気分を確かめる:見終えたあと、気分が上がったか下がったかを一言メモする
  • 沈むアカウントはミュートする:相手を嫌いになったわけではなく、今の自分を守るため
  • 眺めるより、やりとりする:知り合いの投稿にひとことコメントを送る

人の目が気になる気持ちとも重なる部分は、人の目が気になる理由と、気にしすぎない方法で詳しく扱っています。

比べる相手を「過去の自分」に移す

比較そのものを止めるのが難しいなら、比べる相手を変えてみましょう。いちばんおすすめなのは、過去の自分です。

過去の自分と比べることを、心理学では「時間的比較」と呼びます(Albert, 1977)。他人との比較と違って、比べる条件の多くが共通しています。生まれ育った環境も、もって生まれた気質も同じ人と比べるのですから、他人と比べるより公平です。

記憶ではなく、記録と比べる

ただし、ひとつ落とし穴があります。人は、過去の自分を実際より低く見積もりやすいのです。ある研究では、人は昔の自分をけなすことで、今の自分が成長したと感じようとする傾向が見られました(Wilson & Ross, 2001)。

反対に、落ちこんでいるときは、「昔のほうがましだった」と過去を美化することもあります。記憶は、そのときの気分によってゆがみます。

だから、過去の自分と比べるときは、記憶ではなく記録を使ってください。日記、手帳、写真、昔の仕事のメモ。具体的な記録と比べると、自分の変化を等身大で見ることができます。

ステップ5が、この習慣のいちばん大切なところです。今日の記録を残しておけば、1年後に今の自分と公平に比べることができます。記録を習慣にしたい人は、ジャーナリングとは?書く瞑想のやり方と効果も参考にしてください。

物差しを「自分の価値観」に持ち替える

比べる相手を過去の自分に変えても、まだ足りないことがあります。そもそも、何を物差しにして比べるのか、という問題です。

収入、フォロワー数、肩書き。こうした物差しは、数字で比べやすいぶん、気づくと私たちの頭を占領します。でも、それはあなたが選んだ物差しでしょうか。世の中から渡された物差しを、そのまま使っているだけかもしれません。

嫉妬を、価値観に翻訳する

自分の物差しを見つける手がかりは、意外にも嫉妬の中にあります。先ほど見たように、心がざわつく比較は、あなたにとって大切な分野で起きやすいからです。

たとえば、独立した友人がうらやましいとします。でも、本当にほしいのは「独立」でしょうか。よく考えると、「好きな時間に働ける自由」かもしれません。「自分の名前で仕事をしている手応え」かもしれません。同じ嫉妬でも、奥にある願いは人によって違います。

ステップ4で出てきた言葉は、あなたの価値観の候補です。たとえば「自分で決められること」が出てきたなら、今日の昼ごはんを自分で選ぶことも、小さな一歩になります。相手と同じものを手に入れなくても、同じ願いは別の形で満たせることが多いのです。

価値観をさらに深く掘り下げたい人は、価値観の見つけ方|大切なものを言葉にするワークが手がかりになります。

1日の終わりに、自分の物差しで測る

価値観が言葉になったら、それを1日の物差しにしてみてください。夜、「今日は、自分の大切なものに少しでも沿えたか」と問いかけます。

この問いには、他人が登場しません。誰より上か下かではなく、自分の方向に一歩進めたかどうか。それだけを見ます。他人の物差しから降りて、自分の基準で選ぶ感覚については、自分軸で生きるには?他人軸との違いと整え方も参考になります。

比べて落ちこんだ瞬間にできること

ここまで、比較との付き合い方を変える習慣を見てきました。それでも、比べて落ちこむ瞬間は来ます。そんなときに使える、短い手順を紹介します。

土台になっているのは、心理学者クリスティン・ネフが提唱した「セルフ・コンパッション」です(Neff, 2003)。つらいときの自分に、友人にかけるような思いやりを向けることです。ネフは、その中身を3つにまとめました。自分にやさしくすること。苦しみは自分だけのものではないと思い出すこと。そして、つらい気持ちに飲みこまれず、ありのまま気づくことです。

1. 「今、比べているな」と気づく

まずは、比べたことに気づき、心の中で言葉にします。「あ、今比べているな」。それだけで、比較と自分の間に少し距離が生まれます。自分の心の動きに気づく練習は、マインドフルネスとは?初心者のための始め方と効果でも紹介しています。

2. 「同じように悩む人はたくさんいる」と思い出す

比べて落ちこむのは、あなただけではありません。今この瞬間も、多くの人が同じように誰かと自分を比べて、ため息をついています。うらやましく見えるあの人も、きっと誰かと自分を比べています。

3. 友人にかけるように、自分に声をかける

もし友人が「同期に先を越されて、自分がだめに思える」と打ち明けてきたら、何と声をかけますか。その言葉を、そのまま自分に向けてみてください。「ここまでよくやってきたよ」「焦るのは、それだけ真剣だからだよ」。

自分を責める声が強い人は、自己受容とは?ありのままの自分を認める練習もあわせて読んでみてください。

比べる目を、自分を知る目に変える

他人と比べてしまう心は、なくなりません。でも、その心はもともと、自分を知るための働きでした。そう考えると、比較は敵ではなく、使い方しだいで味方にもなります。

心がざわついたら、それはあなたが大切にしている分野のしるしです。うらやましさの奥には、あなたが本当にほしいものがあります。そして、比べる相手を過去の自分に移せば、確かに進んできた道のりが見えてきます。

今日、誰かと自分を比べてしまったら、責める前にひとつだけ問いかけてみてください。「私は、あの人の何がほしかったんだろう」。その答えが、あなたの歩きたい道を、少しだけ照らしてくれるはずです。

A question for you

あなたへの問い

最近うらやましいと感じた人の、何がいちばんほしかったですか?

このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。

よくある質問

他人と比べる癖は、完全になくせますか?

完全になくすのは難しいと考えられています。研究では、比べる意味がない相手とも、人はほぼ自動的に比べてしまうことが示されています。目指すのは「比べない人」になることより、比べたあとに落ちこみ続けない扱い方を身につけることです。

自分より下の人と比べて安心するのは、悪いことですか?

つらいときに一時的に気持ちを支える働きはあります。ただ、それに頼りすぎると、人を見下す気持ちや、安心するための相手探しにつながりやすくなります。安心がほしいときは、過去の自分と比べて進んだ点を探すほうが、長い目で見て心が安定しやすくなります。

SNSを見るのをやめたほうがいいですか?

完全にやめなくても、見る時間を区切るだけで気分が改善したという実験があります。また、ただ眺めるより、知人とやりとりするほうが負担は少ない傾向があります。見たあとに気分が沈むアカウントがあれば、ミュートするのもひとつの方法です。

嫉妬してしまう自分が嫌です。どうすればいいですか?

嫉妬は、あなたが本当はほしいものを教えてくれる感情でもあります。嫉妬する自分を責めるより、「相手の何がうらやましいのか」を具体的に書き出してみてください。そこに、あなたの大切にしたい価値観が隠れていることがよくあります。

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References

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  • 厚生労働省「まもろうよ こころ」

本当の人生を生きる 編集部

コーチング・NLP・心理学の書籍や研究をもとに、自分を知るための知恵を、やさしい言葉でお届けしています。記事は編集方針に沿って作成し、定期的に見直しています。