No.02 Tend the Mind心を整える

嫌な記憶を書き換えるには?過去との向き合い方

嫌な記憶を書き換えたい、忘れたいと感じたときに。感情の強い出来事ほど残りやすい情動記憶のしくみ、記憶が思い出すたびに変わる理由、セルフケアでできる距離の取り方、NLPの技法の位置づけ、専門家に相談すべき目安を紹介します。

公開 更新 読了 約11分 PR:書籍の紹介に Amazon アソシエイトのリンクを含みます

この記事の結論

起きた出来事そのものは変えられませんが、記憶にまとわりつく感情の強さや意味づけは変わりえます。記憶は思い出すたびに組み立て直されるからです。外から眺める、書いて整理する、今に注意を戻すといった方法で距離を変えられます。生活に支障が出ているときは、専門家に相談してください。

  • 感情が強く動いた出来事ほど記憶に残りやすいのは、脳の自然なしくみ
  • 記憶は固定された録画ではない。感情の強さや意味づけは変わりうる
  • セルフケアには限界がある。生活に支障が出たら、専門家と向き合う
目次 Contents
  1. 嫌な記憶が、何度もよみがえるのはなぜ?
  2. 「記憶を書き換える」とは、どういうことか
  3. セルフケアでできる範囲と、専門家に相談すべき目安
  4. 嫌な記憶との距離を変える4つの方法
  5. NLPの「履歴の変更」と「フォビア・テクニック」
  6. 逆効果になりやすい対処
  7. 過去は変えられなくても、過去との距離は変えられる

お風呂に入っているとき、眠りにつく前、何気なく道を歩いているとき。ずっと前の出来事が、ふいに頭によみがえる。言われた言葉、恥ずかしかった場面、取り返しのつかない失敗。思い出すたびに、胸がぎゅっと縮むような感覚がある。

「もう忘れたいのに」「いつまで引きずっているんだろう」。そうやって、思い出してしまう自分まで責めていないでしょうか。

嫌な記憶が何度もよみがえるのは、あなたの心が弱いからではありません。人の脳は、強く心が動いた出来事を、忘れにくいようにできています。そして記憶は、私たちが思っているより、ずっと柔らかいものです。

この記事では、嫌な記憶がよみがえるしくみと、記憶との距離を変えるためにセルフケアでできることを紹介します。あわせて、一人で抱えずに専門家に相談したほうがいい目安も、はっきりお伝えします。

嫌な記憶が、何度もよみがえるのはなぜ?

感情が強い出来事ほど、記憶に残りやすい

去年の今日、何を食べたかは覚えていなくても、人前で恥をかいた日のことは細部まで覚えている。これには理由があります。

脳の中で感情に関わる扁桃体という部分は、強い感情が動いたとき、記憶をしっかり定着させるよう働きかけると考えられています(McGaugh, 2004)。感情と結びついて強く残る記憶は「情動記憶」と呼ばれます。

危ない目にあった場所や、痛い思いをした出来事を覚えておくことは、生きのびるために役立ってきました。嫌な記憶が残りやすいのは、もともと身を守るためのしくみなのです。

「忘れよう」とするほど、浮かんでくる

心理学者のウェグナーは、参加者に「白いクマのことを考えないでください」と頼む実験をしました(Wegner ら, 1987)。すると、考えないようにしたあとのほうが、かえって白いクマが頭に浮かびやすくなったのです。

嫌な記憶も同じです。「思い出さないようにしよう」と強く意識すると、頭はその記憶を見張り続けることになり、結果的に何度も呼び出してしまいます。

思い出すたびに、記憶は少し形を変える

記憶は、出来事をそのまま保存した録画ではありません。思い出すたびに、断片をつなぎ合わせて組み立て直されるものです。イギリスの心理学者バートレットは、1930年代にすでにこのことを示しました。人は物語を思い出すたびに、内容を自分なりに作り変えていたのです。

ロフタスらの有名な実験では、交通事故の映像を見せたあと、質問の言葉を変えるだけで、車の速度の見積もりが変わりました(Loftus & Palmer, 1974)。「激突したとき」と聞かれた人は、「ぶつかったとき」と聞かれた人より、速度を高く見積もったのです。

動物の研究では、思い出された記憶が、いったん不安定な状態になってから再び保存される「再固定化」という現象も報告されています(Nader ら, 2000)。これを人の治療に役立てる研究も進んでいますが、まだ確立した方法ではありません。

「記憶を書き換える」とは、どういうことか

記憶が柔らかいものだと聞くと、「つらい出来事をなかったことにできるのか」と期待するかもしれません。ここは正確に整理しておきます。

変えられないもの変わりうるもの
実際に起きた出来事思い出したときの感情の強さ
そのとき誰が何をしたか出来事に与えている意味
過去の自分の選択記憶を「どこから」眺めるかという視点
その記憶が今の自分に与える影響

ここでいう「書き換え」とは、事実を変えたり、別の記憶をつくったりすることではありません。出来事はそのままに、記憶にまとわりついている感情の強さや、自分への意味づけを変えていくことです。

たとえば「あの失敗で、私はだめな人間だと証明された」という意味づけが、「あのとき私は、準備の大切さを身をもって知った」に変わる。出来事は同じでも、思い出したときの心の重さは、ずいぶん違ってきます。

セルフケアでできる範囲と、専門家に相談すべき目安

この先で紹介する方法は、日常の中で「ときどき思い出して落ちこむ」程度の記憶に向けたものです。次のような状態があるときは、セルフケアより先に、専門家への相談を考えてください。

  • 出来事が今まさに起きているかのように、くり返しよみがえる
  • 悪夢を何度も見る、眠れない日が続く
  • その出来事を思い出させる場所や人を、強く避けるようになった
  • いつも緊張していて、物音に過剰に驚く
  • こうした状態が1か月以上続き、仕事や生活に支障が出ている
  • 自分を傷つけたい、消えたいと考えることがある
  • お酒や薬に頼らないとやり過ごせない

命の危険を感じるような出来事のあとに、こうした状態が続く場合は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性もあります。PTSDには、トラウマに焦点をあてた認知行動療法やEMDRなど、研究で効果が確かめられた治療があります(WHO, 2013)。

コーチングとカウンセリング、医療の役割の違いは、コーチングとカウンセリングの違い|どちらを選ぶ?で整理しています。

嫌な記憶との距離を変える4つの方法

ここからは、日常の嫌な記憶との距離を変えるための方法です。どれも、記憶を消すのではなく、思い出したときに心が揺さぶられる度合いを小さくすることを目指します。

1. 外から眺める

嫌な記憶を思い出すとき、多くの人は、その場にいたときと同じ自分の目から場面を見ています。そこで、場面の中にいる自分を、少し離れた場所から眺めるように思い描いてみます。

心理学の研究では、つらい出来事を外から眺めるように振り返った人ほど、感情の高ぶりが小さいと報告されています(Kross & Ayduk, 2011)。出来事の意味も、落ち着いて考えやすかったのです。具体的な手順は、アソシエイトとディソシエイト|感情との距離の取り方で紹介しています。

2. 書いて整理する

頭の中だけで思い出すと、記憶は同じところをぐるぐる回りがちです。書き出すと、出来事に順番と言葉が与えられ、少しずつ整理されていきます。

心理学者ペネベーカーらの研究では、つらい体験について、数日間、毎日15分ほど書いてもらいました(Pennebaker & Beall, 1986)。すると、その後の数か月で、大学の保健室を訪れる回数が減ったと報告されています。

ただし、多くの研究をまとめた分析では、効果は小さめで、人や条件によって差がありました(Frattaroli, 2006)。書いた直後は、かえって気分が沈むこともあります。無理のない範囲で試してください。

書く習慣を続けたい人は、ジャーナリングとは?書く瞑想のやり方と効果も参考にしてください。

3. 意味を捉え直す

少し距離がとれてきたら、その出来事に与えている意味を見直します。「あの経験から、何を学んだだろう」「あのときの自分は、何を守ろうとしていたんだろう」と問いかけてみます。

ここで気をつけたいのは、無理に前向きにならないことです。「あの経験があってよかった」と思えなくてもかまいません。「つらかった。それでも、ここまで来た」。そう言えるだけで、記憶の重さは変わります。見方を変える方法は、リフレーミングとは?見方を変えて心を軽くするで詳しく紹介しています。

4. 今この場所に、注意を戻す

ふいに記憶がよみがえったときは、その場で考えこまず、注意を「今」に戻すことを試してみてください。足の裏が床についている感覚、手に触れている物の温度、周りに見えるものを5つ数える。体の感覚は、いつも今この瞬間にあります。

同じ記憶が何度も回ってくるときは、「考えるのは夜8時からの15分だけ」と時間を区切る方法もあります。今に注意を向ける練習は、マインドフルネスとは?初心者のための始め方で始められます。

NLPの「履歴の変更」と「フォビア・テクニック」

記憶の書き換えについて調べると、NLP(神経言語プログラミング。優れた心理療法家の観察から生まれたコミュニケーションと自己変容の手法)の技法がよく出てきます。

「履歴の変更」は、過去のつらい場面に、当時の自分がもっていなかった心の支えを持ちこむ技法です。そうすることで、場面の感じ方を変えようとします。「フォビア・テクニック」は、恐怖をやわらげるための手順です(Bandler, 1985)。映画館の客席からスクリーンを眺める自分を、さらに後ろから見るという形で、二重に距離をとります。

どちらも、視点や映像の質感を変えるという点で、ここまで紹介した方法と重なるところがあります。ただし、NLPの技法の効果を厳密に確かめた研究はほとんどありません。「一回で恐怖症が治る」といった宣伝には、慎重になってください。

特定の物や場面への強い恐怖には、少しずつ慣れていく「曝露療法」など、研究で効果が確かめられた治療があります。トラウマや恐怖症には、NLPの技法を自己流で使うより、専門家の治療を優先してください。記憶の「質感」を扱う考え方は、サブモダリティとは?記憶の「質感」を変えるで紹介しています。

逆効果になりやすい対処

何度も原因を考え続ける

「なぜあんなことをしたのか」「どうすればよかったのか」と、答えの出ない問いを考え続けることを「反すう」と呼びます。反すうは、落ちこみを長引かせ、うつ状態のリスクを高めることが知られています(Nolen-Hoeksema ら, 2008)。考えても答えが出ないときは、いったん手を止めて、体を動かすなど別のことに注意を移してください。

思い出してしまう自分を責める

「まだ引きずっているなんて情けない」。この声は、記憶そのものより、あなたを苦しめているかもしれません。記憶がよみがえるのは、脳が自然に働いている証拠です。思い出したら、「あ、また来たな」と気づくだけで十分です。

お酒や気晴らしで、ふたをし続ける

ときどき気晴らしをするのは、悪いことではありません。でも、思い出さないために毎晩お酒を飲む、予定を詰めこみ続けるといった方法は、長く続けるほど別の問題を生みます。気晴らしでしか耐えられないときは、専門家の力を借りるタイミングです。

ふたをする代わりに、感じきってみる

考え続けるのでも、ふたをするのでもない、第三の向き合い方もあります。

同じ本では、葛藤の感覚を体で感じ、そのルーツを味わって手放す、一人でできるワークも紹介されています。ここでは、日常の軽いもやもやに向けて、安全のための注意を加えた形で紹介します。

手順5で事実と決めつけないのは、前半で見たように、記憶が思い出すたびに組み立て直されるからです。浮かんだ場面は「手がかり」として扱うくらいがちょうどよいでしょう。また、このワークはトラウマ体験に向けたものではありません。先に挙げた目安に当てはまるときは、専門家と一緒に取り組んでください。

過去は変えられなくても、過去との距離は変えられる

起きてしまった出来事は、もう変えられません。でも、その記憶をどこから眺めるか、どんな意味を与えるか、思い出したときにどう過ごすか。それは、今のあなたが選べることです。

記憶との距離は、一度で変わるものではありません。少し近づきすぎたら離れ、落ち着いたらまた少し眺めてみる。そのくり返しの中で、記憶は少しずつ「今の自分を苦しめるもの」から「自分の歴史の一部」へと変わっていきます。

そして、一人で向き合うのがつらいときは、手を借りてください。専門家と一緒に記憶と向き合うことは、弱さではなく、自分を大切にするための選択です。

A question for you

あなたへの問い

その記憶は、今のあなたに何を伝えようとしていますか?

このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。

よくある質問

嫌な記憶を完全に消すことはできますか?

今のところ、特定の記憶だけを消す確かな方法はありません。また、忘れようと強く意識するほど、かえって思い出しやすくなることも知られています。目指すのは消すことではなく、思い出しても心が大きく揺さぶられない状態にしていくことです。

何年も前のことを、いまだに思い出してしまうのはおかしいですか?

おかしなことではありません。感情が強く動いた出来事ほど、長く記憶に残るのは脳の自然な働きです。ただ、思い出すたびに強い苦痛があり、眠れない、避ける場所が増えたなど生活に影響が出ているなら、専門家に相談することをおすすめします。

NLPの「履歴の変更」は効果がありますか?

履歴の変更は、過去の場面に、当時なかった心の支えを持ちこんで感じ方を変えるNLPの技法です。内省のきっかけとして役立つことはありますが、効果を厳密に確かめた研究はほとんどありません。トラウマ体験には使わず、根拠のある治療を受けられる専門家に相談してください。

カウンセリングでは、記憶をどう扱うのですか?

方法はさまざまですが、トラウマ記憶には、トラウマに焦点をあてた認知行動療法やEMDRなど、研究で効果が確かめられてきた治療があります。安全な関係の中で、少しずつ記憶と向き合い、意味づけを見直していくのが一般的です。

もう一歩深めたい人へ

PR・Amazonへのリンクを含みます
  • マインドフル・セルフ・コンパッションワークブック 自分を受け入れ、しなやかに生きるためのガイド

    クリスティン・ネフ、クリストファー・ガーマー(著)/富田拓郎(監訳)ほか/星和書店(2019年)

    セルフ・コンパッションを実際に練習してみたい人へ。短いエクササイズが章ごとに用意されていて、自分のペースで少しずつ取り組めます。

    Amazonで見る
  • 心が思い通りになる技術 NLP:神経言語プログラミング

    原田幸治/春秋社(2013年)

    NLPを「自分の心の扱い方」として学びたい人へ。理論の説明だけでなく、ひとりで試せるワークが多いので、セルフケアにつなげやすい構成です。

    Amazonで見る
  • 人生の秘密 あるがままで幸せになるNRT

    山崎啓支/サンマーク出版(2011年)

    頑張り続けることに疲れ、「このままの自分でいいのだろうか」と感じている人へ。NLPを土台にした著者独自のNRTの考え方で、あるがままの自分を受け入れる道筋を示してくれます。

    Amazonで見る

References

  • McGaugh, J. L. (2004). The amygdala modulates the consolidation of memories of emotionally arousing experiences. Annual Review of Neuroscience, 27, 1–28.
  • Bartlett, F. C. (1932). Remembering: A Study in Experimental and Social Psychology. Cambridge University Press.
  • Loftus, E. F., & Palmer, J. C. (1974). Reconstruction of automobile destruction: An example of the interaction between language and memory. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 13(5), 585–589.
  • Nader, K., Schafe, G. E., & LeDoux, J. E. (2000). Fear memories require protein synthesis in the amygdala for reconsolidation after retrieval. Nature, 406(6797), 722–726.
  • Wegner, D. M., Schneider, D. J., Carter, S. R., & White, T. L. (1987). Paradoxical effects of thought suppression. Journal of Personality and Social Psychology, 53(1), 5–13.
  • Pennebaker, J. W., & Beall, S. K. (1986). Confronting a traumatic event: Toward an understanding of inhibition and disease. Journal of Abnormal Psychology, 95(3), 274–281.
  • Frattaroli, J. (2006). Experimental disclosure and its moderators: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 132(6), 823–865.
  • Nolen-Hoeksema, S., Wisco, B. E., & Lyubomirsky, S. (2008). Rethinking rumination. Perspectives on Psychological Science, 3(5), 400–424.
  • Kross, E., & Ayduk, O. (2011). Making meaning out of negative experiences by self-distancing. Current Directions in Psychological Science, 20(3), 187–191.
  • World Health Organization. (2013). Guidelines for the Management of Conditions Specifically Related to Stress. WHO.
  • Bandler, R. (1985). Using Your Brain—for a Change. Real People Press.
  • 『人生の秘密 あるがままで幸せになるNRT』第6章 p.190-191、第8章 p.239
  • 厚生労働省「まもろうよ こころ」

本当の人生を生きる 編集部

コーチング・NLP・心理学の書籍や研究をもとに、自分を知るための知恵を、やさしい言葉でお届けしています。記事は編集方針に沿って作成し、定期的に見直しています。