No.04 Draw the Future未来を描く
優先順位のつけ方アイゼンハワーマトリクス入門
優先順位のつけ方を、緊急度と重要度で仕事を分けるアイゼンハワーマトリクスで紹介。急ぎの用事に引っぱられる心理、「重要」を自分の価値観で定義し直す方法、大事なことに時間をとる4つのコツ、使うときの落とし穴まで。
この記事の結論
優先順位のつけ方の基本は、やることを「緊急かどうか」と「重要かどうか」で4つに分けるアイゼンハワーマトリクスです。そのうえで、「重要」を他人の基準ではなく、自分の価値観で定義し直すこと。急ぎではないけれど大切なことに、先に時間を確保するのがポイントです。
- 人は、見返りが大きい仕事より「締め切りの近い仕事」を選びがちとわかっている
- マトリクスの肝は、緊急ではないが重要な「第2領域」に先に時間をとること
- 「重要」は自分の価値観で決める。全部はできないと認めるところから始まる
目次 Contents
朝からメールに返信し、頼まれごとを片づけ、気づけば夕方。忙しく動いていたはずなのに、本当にやりたかったことには手がつかないまま一日が終わる。そんな日が続くと、「自分は何のために忙しくしているんだろう」と、むなしさを感じることがあります。
このページを開いたあなたは、やることの多さに押しつぶされそうでも、大事なことを大事にしたいと願う人のはずです。
うまく優先順位をつけられないのは、要領が悪いからではありません。人の心には、急ぎの用事に引っぱられやすい性質があります。そして、「何が重要か」を決める基準が、自分の中ではっきりしていないことも多いのです。
この記事では、定番の方法であるアイゼンハワーマトリクスを紹介します。そのうえで、時間管理の技術にとどまらず、「重要」を自分の価値観で定義し直し、人生の優先順位を整える視点まで掘り下げます。
優先順位がつけられないのは、なぜ?
急ぎのものに、心が引っぱられる
人は、重要なことより、急ぎのことを選びやすい傾向があります。シカゴ大学などの研究者たちは、これを「単なる緊急性効果」と名づけました(Zhu ら, 2018)。
実験では、参加者に2つの作業のどちらかを選んでもらいました。一方は報酬が大きく、もう一方は報酬が小さいけれど、締め切りが迫っているように見せたものです。すると、多くの人が報酬の小さい「急ぎの作業」を選びました。手間は同じなのに、です。
締め切りが近いものは、それだけで大事に見えてしまう。日々の忙しさに流されるのは、意志が弱いからではなく、人の心のくせでもあるのです。
全部が大事に見える
やることリストを眺めると、どれも大切に見えて手が止まる。これは、「何をもって大事とするか」という基準がはっきりしていないときに起こります。基準がないまま比べようとすると、目の前のものすべてが同じ重さに見えてしまいます。
他人の基準で動いている
頼まれたことを断れない。人の期待に応えることを優先してしまう。そうしているうちに、自分の予定は他人の用事で埋まっていきます。自分にとって何が大事かより、誰かにとって何が大事かで動いているのかもしれません。
アイゼンハワーマトリクスとは?
アイゼンハワーマトリクスとは、やることを「緊急かどうか」と「重要かどうか」の2つの軸で、4つの領域に分ける方法です。「時間管理のマトリクス」とも呼ばれます。
名前の由来は、アメリカの第34代大統領ドワイト・D・アイゼンハワーです。彼は1954年の演説で、ある大学の元学長の言葉として、こう語りました。「私には2種類の問題がある。緊急なものと、重要なものだ。緊急なものは重要ではなく、重要なものは決して緊急ではない」。
この考え方を4つの領域の図にして広めたのが、スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』(1989年)です。
| 領域 | 中身 | 例 | 基本の対応 |
|---|---|---|---|
| 第1領域:緊急かつ重要 | 締め切りのある大事なこと、危機 | 明日が締め切りの企画書、体調不良 | すぐ取り組む |
| 第2領域:緊急ではないが重要 | 準備、学び、健康、人間関係 | 運動、勉強、家族との会話、将来の計画 | 予定に入れて、先に時間をとる |
| 第3領域:緊急だが重要ではない | 他人からの割り込み、多くの雑務 | 急ぎではない電話、形だけの会議 | 減らす、まとめる、人に任せる |
| 第4領域:緊急でも重要でもない | 惰性でしていること | 目的のないネットサーフィン | 自分で選んでいるかを確かめる |
マトリクスの肝は「第2領域」
このマトリクスで、いちばん大切なのは第2領域です。急ぎではないけれど重要なことは、誰も締め切りを設けてくれないため、自分で時間を確保しない限り、永遠に後回しになります。
健康診断、大切な人との対話、将来のための学び。どれも、今日やらなくても困りません。けれど、何年も放っておくと、ある日「緊急かつ重要」な問題として姿を現します。体を壊してから健康の大切さに気づく、というように。
コヴィーは、第2領域に時間を使うほど、第1領域の危機が減っていくと説明しました。準備ができていれば、慌てる場面そのものが少なくなるからです。
「重要」を、自分の価値観で定義し直す
アイゼンハワーマトリクスを使おうとして、多くの人がつまずくのが「重要かどうか」の判断です。緊急かどうかは締め切りを見ればわかりますが、重要かどうかは、何を基準にするかで答えが変わります。
その「重要」は、誰にとっての重要?
会社にとって重要なこと。家族にとって重要なこと。世間的に重要とされていること。そして、あなた自身にとって重要なこと。これらは、いつも一致するとは限りません。
他人にとっての重要だけで予定を埋めていると、忙しいのに満たされない状態が続きます。
コヴィーらの『7つの習慣 最優先事項』PRは、この状態を「時計」と「コンパス」の対比で描いています。時計は予定や効率、つまりどれだけ速くこなすかを表します。コンパスは、自分が大切にする原則や使命、つまりどこへ向かうかを表します。同書では、時計を見て急ぐ前に、内なるコンパスで方角を確かめるよう勧めています。
マトリクスの「重要」の欄には、あなたが大切にしている価値観を照らし合わせてみてください。価値観がまだはっきりしない人は、価値観の見つけ方|大切なものを言葉にするワークが手がかりになります。
全部はできない、と認める
作家のオリバー・バークマンは、80歳まで生きたとしても、人生はおよそ4000週間しかないと指摘しました(Burkeman, 2021)。やりたいこと、やるべきことのすべてを片づける日は、おそらく来ません。
だからこそ、優先順位をつけることは、「何をやらないか」を選ぶことでもあります。すべてをこなそうとするのをやめたとき、本当に大切なことに時間を使う余地が生まれます。
『エッセンシャル思考』PRは、言葉の成り立ちからこの点を指摘しています。英語の priority は、もともと「一番最初のもの」を指す単数形の言葉でした。著者のグレッグ・マキューンは、最優先事項をいくつも抱えるのは、何も優先していないのと同じだと説明しています。
同書はまた、人は選ばなければならないと強調します。何を切り捨てるかをはっきりさせないまま「全部やる」を続けると、結果的にすべてを失いかねない、という見方です。これをトレードオフ(何かを得るために何かを手放すこと)と呼んでいます。
「全部を両立できるはず」と思うほど、選ばなかったことへの後ろめたさが残ります。手放すものを自分で決めることは、あきらめではなく、選んだものを守るための判断です。
仕事の優先順位は、まず相手とすり合わせる
職場では、自分の価値観だけで順番を決められない場面も多いものです。上司から次々に仕事を頼まれ、どれも「急ぎで」と言われる。そんなときは、一人で抱えこまずに確かめるのが近道です。
「AとBを頼まれていますが、今日中に両方は難しそうです。どちらを先にしましょうか」。判断を相手に返すことは、怠けではありません。仕事の「重要」は、チームの目的によって決まるからです。
一方、仕事の外の時間や、仕事の中でも自分で裁量をもてる部分については、あなた自身の価値観で「重要」を決めてかまいません。この二つを分けて考えると、職場の都合と自分の大切なことが混ざって苦しくなるのを防げます。
「重要」を見分ける3つの問い
迷ったときは、次の問いを自分に投げかけてみてください。
- 1年後の自分は、これをやったことを喜ぶだろうか?
- これは、私が大切にしている価値観のどれにつながっている?
- これをやらなかったら、誰が、どれくらい困る?
1つめの問いは、目先の気持ちから距離をとるため。2つめは、自分の基準で測るため。3つめは、思いこみの「やらなければ」を確かめるための問いです。
アイゼンハワーマトリクスで優先順位をつける手順
書き出す段階で頭がいっぱいになる人は、ブレインダンプとは?頭の中を書き出す方法のやり方を先に試してみるのもおすすめです。
第2領域の時間をつくる5つのコツ
1. 大事なことを、先に予定に入れる
コヴィーらは、瓶に大きな石と小石と砂を入れるたとえを紹介しています(Covey ら, 1994)。砂や小石を先に入れると、大きな石は入りません。大きな石を先に入れれば、すき間に小石や砂も入ります。第2領域の「大きな石」は、空いた時間ではなく、先に予定に入れておきましょう。
2. 毎日少しずつ、くり返す
第2領域のことは、一度にまとめてやるより、毎日少しずつ続けるほうがうまくいきます。運動も学びも、積み重ねで意味をもつものだからです。小さく続けるコツは、習慣化のコツで紹介しています。
3. 割り込みを、まとめて処理する
メールやチャットに、届くたびに返信していると、まとまった時間はなかなか生まれません。返信は1日2〜3回と時間を決める、通知を切る時間帯をつくる。第3領域を「まとめる」だけで、第2領域のための時間が生まれます。
4. 断る言葉を、用意しておく
頼まれごとを断れないと、予定は他人の第3領域で埋まっていきます。「今週は難しいですが、来週の水曜ならできます」。代わりの案を添えると、相手との関係を保ちながら、自分の時間も守れます。
5. 週に一度、15分だけ見直す
マトリクスは、一度つくって終わりではありません。週の終わりか始めに15分だけ、先週の時間の使い方をふり返ります。第2領域にどれくらい時間を使えたか。来週の「大きな石」は何か。
ふり返ると、毎週同じ第3領域の用事に時間をとられている、といったパターンが見えてきます。パターンがわかれば、仕組みで減らす工夫ができます。
マトリクスを使うときの落とし穴
仕分けに時間をかけすぎる
どの領域に入るか迷うものは、だいたいどちらでもかまいません。仕分けは5分以内に済ませ、残りの時間を行動に使いましょう。完璧に分類することより、第2領域のひとつに手をつけることのほうが大切です。
他人の「緊急」を、そのまま自分の緊急にする
「至急お願いします」と言われると、それだけで第1領域に入れたくなります。でも、相手にとっての急ぎが、あなたにとっても重要とは限りません。本当に今日中に必要なのか、いつまでなら間に合うのかを一度確かめるだけで、慌てずにすむ仕事は意外に多いものです。
休むことを「重要ではない」と決めつける
ぼんやりする時間や、好きなことをする時間は、第4領域に入れられがちです。でも、心と体を休めることは、あなたにとって重要な場合が多いはずです。休息を意図して選んでいるなら、それは立派な第2領域です。
やるべきことがわかっても、手がつかない
優先順位がはっきりしたのに、どうしても取りかかれないことがあります。それは、やり方がわからない、失敗が怖い、といった別の理由が隠れているサインかもしれません。その場合は、先延ばし癖の直し方|心理学でわかる原因と対策も参考にしてください。
暮らし全体のどこに時間を使いたいかを見直したい人は、人生の輪(バランスホイール)のワークも役に立ちます。
全部はできない。だから、選んだことを大切にする
優先順位をつけることは、やることを効率よく片づけるための技術です。と同時に、自分の人生で何を大切にするかを選ぶことでもあります。
すべてに応えようとしなくていいのです。今週、ひとつだけ。急ぎではないけれど、あなたにとって大切なことのために、予定表に30分の枠を書き込んでみてください。
その30分は、誰からも急かされない時間です。だからこそ、あなたが自分の人生の舵を、自分の手で握っている時間でもあります。
A question for you
あなたへの問い
急ぎではないけれど、本当は大切にしたいことは何ですか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
緊急かつ重要なことばかりで、ほかに手が回りません。
多くの場合、緊急かつ重要な仕事の一部は、以前は緊急ではなかったものです。準備や見直しを後回しにした結果、締め切り間際に慌てることになります。週に一度、30分だけでも「急ぎではないけれど大事なこと」に先に手をつけると、慌てる場面が少しずつ減っていきます。
第4領域(緊急でも重要でもないこと)は、全部やめるべきですか?
やめるべきとは限りません。ぼんやりする時間や趣味は、休息や気分転換として、あなたにとって重要な場合があります。大切なのは、それを自分で選んでいるかどうかです。気づいたら何時間もたっていた、というものだけを減らせば十分です。
プライベートの優先順位にも使えますか?
使えます。むしろ、健康や家族との時間、学びなど、締め切りのない大切なことほど、プライベートでは後回しになりがちです。暮らし全体を見渡して、どこに時間を使いたいかを考えるきっかけになります。
優先順位が毎日変わってしまいます。
仕事の性質によっては、自然なことです。毎日の細かな順位は柔軟に変えつつ、「今週、これだけは守る」という大きな柱を1〜2個決めておくと、振り回されにくくなります。
もう一歩深めたい人へ
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完訳7つの習慣 人格主義の回復
スティーブン・R・コヴィー(著)/フランクリン・コヴィー・ジャパン(訳)/キングベアー出版(2013年)
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References
- Eisenhower, D. D. (1954). Address at the Second Assembly of the World Council of Churches, Evanston, Illinois, August 19, 1954.
- Covey, S. R. (1989). The 7 Habits of Highly Effective People. Free Press.
- Covey, S. R., Merrill, A. R., & Merrill, R. R. (1994). First Things First. Simon & Schuster.
- 『7つの習慣 最優先事項』第1章・第4章 p.32, 54, 70
- 『エッセンシャル思考』第1章 p.35、第4章 p.75-76
- Zhu, M., Yang, Y., & Hsee, C. K. (2018). The mere urgency effect. Journal of Consumer Research, 45(3), 673–690.
- Burkeman, O. (2021). Four Thousand Weeks: Time Management for Mortals. Farrar, Straus and Giroux.