No.02 Tend the Mind心を整える
デフォルトモードネットワークとは?ぼーっとする効用
デフォルトモードネットワーク(DMN)とは、ぼーっとしているときに活発になる脳の領域のつながりのこと。研究でわかってきた働き、ひらめきと反すう思考という二つの顔、よくある誤解、意図的に「よい余白」をつくる方法を紹介します。
この記事の結論
デフォルトモードネットワーク(DMN)とは、外の課題に集中していないときに活発になる、脳のいくつかの領域のつながりです。自分のことや過去・未来を考えるときに働きます。ひらめきや自分の整理に役立つ一方、嫌なことを考え続ける反すうとも関わるため、ぼーっとする時間の「質」が大切です。
- DMNは、ぼーっとしているときに働く脳の領域のつながり。休んではいない
- 自分や過去・未来、他人の心を考える働きと関わり、ひらめきの土台にもなる
- 同じ考えが回り続けるときは、体を軽く動かす、書き出すなどで流れを変える
目次 Contents
何もしないでぼーっとしていると、なんだか時間を無駄にしている気がする。だから電車の中でも、寝る前の数分でも、ついスマホを手に取ってしまう。そんな毎日を送っている人は多いと思います。
一方で、シャワーを浴びているときや散歩の途中に、ずっと考えていたことの答えがふっと浮かぶこともあります。かと思えば、ぼんやりした瞬間に、昔の失敗を思い出して落ちこむこともある。
ぼーっとしている時間は、いいものなのか、よくないものなのか。その答えに近づく手がかりが、脳科学で「デフォルトモードネットワーク」と呼ばれる働きです。
この記事では、デフォルトモードネットワーク(DMN)について、研究でわかってきたこととよくある誤解を整理します。そのうえで、ひらめきにつながる「よい余白」のつくり方を紹介します。
デフォルトモードネットワークとは? 一言でいうと
デフォルトモードネットワークとは、外の課題に集中していないときに、そろって活発になる脳の領域のつながりのことです。英語の頭文字をとって、DMNとも呼ばれます。
主な領域は、おでこの奥の内側前頭前野、頭のてっぺんの奥の後部帯状皮質や楔前部、耳の上あたりの頭頂葉の一部などです。記憶に関わる海馬のまわりも含まれます。一つの部位ではなく、離れた場所どうしが連動して働く「ネットワーク」です。
見つかったきっかけは「休憩中の脳」
脳の画像研究では、ふつう、何かの課題をしているときの脳と、何もしていないときの脳を比べます。ところが研究者たちは、奇妙なことに気づきました。課題を始めると、かえって活動が下がる領域が、いつも同じように現れるのです。
アメリカの神経科学者マーカス・ライクルらは、2001年の論文で、この領域が安静時に一定の活動を保っていると報告しました。そして、脳の「初期設定の働き(デフォルトモード)」と名づけたのです(Raichle ら, 2001)。
「脳のアイドリング」ではない
デフォルトという言葉から、何もしていない待機状態を想像するかもしれません。でも実際は逆です。ぼーっとしているあいだも、脳はかなりのエネルギーを使って働き続けています。
脳は体重の約2%の重さですが、体全体のエネルギーの約20%を使います。ライクルらは、そのエネルギーの大部分が、課題をしていないときも続く脳の自発的な活動に使われていると指摘しました(Raichle & Mintun, 2006)。何かの課題に取り組むときに上乗せされる分は、ごくわずかだというのです。
日本では「DMNが脳のエネルギーの大半を使う」と紹介されることがあります。ただ、ライクルが述べたのは脳全体の自発的な活動についてで、DMNだけの話ではありません。
ぼーっとしているとき、脳は何をしているのか
では、DMNは何をしているのでしょうか。研究をまとめると、主に「心の内側に向かう思考」と関わっていると考えられています(Buckner ら, 2008; Andrews-Hanna, 2012)。
| 働き | 日常での例 |
|---|---|
| 自分について考える | 「私って、こういうところがあるな」と振り返る |
| 過去を思い出す | 学生時代の出来事が、ふと頭に浮かぶ |
| 未来を想像する | 週末の予定や、数年後の暮らしを思い描く |
| 他人の心を想像する | 「あの人、本当はどう思っていたんだろう」と考える |
どれも、目の前の作業とは関係のない、頭の中だけの営みです。歩きながら、皿を洗いながら、いつのまにか考えが別の場所に飛んでいる。そんな「心のさまよい」が起きているとき、DMNが活発に働いているとされています。
ただし、脳のネットワークの働きは、まだ研究が進んでいる途中です。DMNが一つの役割だけを担っているわけではなく、ほかのネットワークと切り替わったり、協力したりしながら働いています。
ぼーっとする効用:ひらめきと自分の整理
ひらめきは「少し気がそれたとき」に来やすい
心理学者のベアードらは、創造性を測る課題で興味深い実験をしました(Baird ら, 2012)。参加者は、レンガの使い道をできるだけ多く考えるような課題に取り組み、途中で12分の休憩をはさみます。
休憩中、ある人たちには頭を使う難しい作業を、別の人たちには簡単で退屈な作業をしてもらいました。すると、簡単な作業をして心がさまよいやすかった人ほど、休憩後に同じ課題へ戻ったときの成績が伸びたのです。
完全に考えるのをやめるより、軽く手を動かしながら心が自由に飛ぶ時間のほうが、ひらめきにつながりやすい。シャワーや散歩でアイデアが浮かびやすいという実感とも重なります。
自分の物語を整える時間
過去を思い出し、未来を想像し、自分について考える。DMNが関わるこれらの働きは、「自分は何者で、どこへ向かっているのか」を整える作業でもあります。
予定がぎっしり詰まり、すき間時間もスマホで埋まっていると、この整理の時間がとれません。やりたいことがわからない、自分がわからないと感じるとき、足りないのは情報ではなく、余白なのかもしれません。自分を見つめ直す問いは、「自分がわからない」ときに試したい7つの問いでも紹介しています。
「何もしない」は、意外とむずかしい
とはいえ、何もしないのは簡単ではありません。ある実験では、参加者に何も持たずに一人で部屋にいて、6〜15分ほど考えごとをして過ごしてもらいました(Wilson ら, 2014)。
多くの参加者が、この時間を楽しめなかったと答えました。さらに、退屈しのぎに自分で軽い電気ショックを押せるようにしておきました。すると、男性の約3分の2、女性の約4分の1が、少なくとも1回は押したのです。ぼーっとする時間をつくるには、少しの工夫が要るということです。
もう一つの顔:反すう思考とさまよう心
ぼーっとする時間には、別の顔もあります。ハーバード大学のキリングスワースとギルバートは、スマホのアプリを使って、日常の様子を調べました(Killingsworth & Gilbert, 2010)。
ランダムな時刻に「今、何をしているか」「今していることと別のことを考えているか」「今の気分は」を尋ねたところ、心がさまよっていた割合は約47%でした。そして人は、心がさまよっているときのほうが、目の前のことに集中しているときより幸福度が低い傾向がありました。
この調査は相関を見たもので、「さまよったから不幸になった」と言い切ることはできません。気分が沈んでいるから、心がさまよいやすいのかもしれないからです。
ただ、さまよった先が過去の失敗や将来の不安だと、同じ考えがぐるぐる回り続けることがあります。これを「反すう思考」と呼びます。うつ状態の人の反すう思考と、DMNの一部の働きの関係を示す研究も報告されています(Hamilton ら, 2015)。
「よい余白」と「ぐるぐる」の見分け方
同じ「ぼーっとする」でも、心が自由に流れている時間と、同じところを回っている時間は、まったく別のものです。違いを目安としてまとめました。
| よい余白 | ぐるぐる(反すう) | |
|---|---|---|
| 考えの動き | あちこちへ自由に流れる | 同じ場面や問いに戻ってくる |
| 中心になる問い | 「こうしたらどうだろう」 | 「なぜあんなことを」「どうせまた」 |
| 終わったあとの気分 | 少し軽くなる、すっきりする | 重くなる、疲れる |
| 時間の感覚 | あっという間に過ぎる | 長く、抜け出しにくい |
意図的に「よい余白」をつくる方法
軽く手を動かしながら、ぼんやりする
ベアードらの実験が示すように、何もしないより、簡単な作業をしながらのほうが、心は自由に動きやすくなります。散歩、皿洗い、洗濯物をたたむ、シャワーを浴びる。頭を使わない単純な動作が、ちょうどいい足場になります。
スマホを持たない時間を、短く決める
すき間時間をすべて情報で埋めると、心がさまよう余地がなくなります。いきなり長時間でなくてかまいません。「駅まで歩く10分はスマホを出さない」くらいから始めてみてください。
自然の中を歩く
自然の中を90分歩いた人は、都市部を歩いた人に比べて、反すう思考が減ったと答えたという研究があります(Bratman ら, 2015)。この研究では、反すうと関わる脳の一部の活動も下がっていました。近所の公園や川沿いでもかまいません。
ぐるぐるに気づいたら、書き出す
同じ考えが回りはじめたら、頭の中だけで片づけようとせず、紙に書き出してみてください。外に出すと、考えを眺める距離ができます。書き方は、ジャーナリングとは?書く瞑想のやり方と効果や、ブレインダンプとは?頭の中を書き出す方法で紹介しています。
呼吸に注意を戻す練習
瞑想の経験が長い人は、瞑想中のDMNの活動が低かったという報告があります(Brewer ら, 2011)。研究の規模は小さいものの、「さまよったことに気づいて、注意を戻す」練習は、ぐるぐるから抜け出す助けになりえます。始め方はマインドフルネスとは?初心者のための始め方をどうぞ。
DMNについてのよくある誤解
「DMNを休ませれば疲れがとれる」
「脳の疲れはDMNの使いすぎが原因だから、休ませよう」という説明を見かけることがあります。でも、DMNの活動と「脳の疲れ」の関係は、はっきりわかっているわけではありません。DMNは、筋肉のように使えば疲れて、休めば回復する、という単純なものではないのです。
「ぼーっとするのは怠け」
逆に、ぼーっとすることを怠けと考えるのも、研究の知見とは合いません。ぼんやりした時間は、自分を振り返り、未来を描き、ひらめきを生む土台にもなっています。
脳の部位で心を説明しきれるわけではない
脳の画像研究は、どの領域が「一緒に動いているか」を示すものです。「DMNが働いたから、こう感じた」と因果を言い切れるわけではありません。脳科学の言葉は、自分の心を考えるヒントとして、ほどよい距離で使うのがおすすめです。
何もしない時間を、自分に返してあげる
ぼーっとする時間は、何も生み出さない空白ではありません。心がそっと過去と未来を行き来し、ばらばらだった思いをつなぎ直している時間です。
だからといって、無理に「有意義なぼんやり」をしようとしなくてかまいません。ぐるぐる回る日もあれば、ふっと軽くなる日もある。その違いに気づけるだけで、余白の使い方は少しずつ変わっていきます。
今日、どこかで10分だけ、スマホを持たずに歩いてみてください。何も浮かばなくても大丈夫です。その10分は、あなたの頭の中に、新しい考えが入ってくるためのすき間になります。何かに夢中になって時間を忘れる、別の種類の没入については、トランス状態とは?集中と没入の心理学で紹介しています。
A question for you
あなたへの問い
最後に、何もせずにぼんやりできたのはいつでしたか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
DMNとは何の略ですか?
Default Mode Network(デフォルトモードネットワーク)の頭文字です。「デフォルト」は、特別な課題をしていないときの「初期状態」という意味です。外の作業に集中していないとき、脳がいわば初期設定として示す活動のパターン、という意味でこう名づけられました。
ぼーっとすると、脳は休まるのですか?
脳の活動そのものが止まるわけではありません。ぼーっとしているときは、DMNと呼ばれる領域がむしろ活発に働いています。ただ、外からの刺激を処理し続ける状態から離れることで、気持ちが落ち着いたり、考えが整理されたりすると感じる人は多いはずです。
DMNの働きすぎは、よくないのですか?
DMNの活動が高いこと自体が悪いわけではありません。自分を振り返ったり、未来を計画したりするのに欠かせない働きです。ただ、うつ状態での反すう思考とDMNの関係を示す研究もあり、同じ考えが止まらない状態が続くときは、意識して流れを変える工夫が役に立ちます。
瞑想をするとDMNは変わりますか?
瞑想経験の長い人では、瞑想中のDMNの活動が低いという報告があります。ただし研究の規模は小さく、瞑想が誰にどのような変化をもたらすかは、まだはっきりしていません。効果を期待しすぎず、落ち着く時間の一つとして試すのがおすすめです。
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References
- Raichle, M. E., MacLeod, A. M., Snyder, A. Z., Powers, W. J., Gusnard, D. A., & Shulman, G. L. (2001). A default mode of brain function. Proceedings of the National Academy of Sciences, 98(2), 676–682.
- Raichle, M. E., & Mintun, M. A. (2006). Brain work and brain imaging. Annual Review of Neuroscience, 29, 449–476.
- Buckner, R. L., Andrews-Hanna, J. R., & Schacter, D. L. (2008). The brain's default network: Anatomy, function, and relevance to disease. Annals of the New York Academy of Sciences, 1124, 1–38.
- Andrews-Hanna, J. R. (2012). The brain's default network and its adaptive role in internal mentation. The Neuroscientist, 18(3), 251–270.
- Killingsworth, M. A., & Gilbert, D. T. (2010). A wandering mind is an unhappy mind. Science, 330(6006), 932.
- Baird, B., Smallwood, J., Mrazek, M. D., Kam, J. W. Y., Franklin, M. S., & Schooler, J. W. (2012). Inspired by distraction: Mind wandering facilitates creative incubation. Psychological Science, 23(10), 1117–1122.
- Wilson, T. D., Reinhard, D. A., Westgate, E. C., Gilbert, D. T., Ellerbeck, N., Hahn, C., Brown, C. L., & Shaked, A. (2014). Just think: The challenges of the disengaged mind. Science, 345(6192), 75–77.
- Hamilton, J. P., Farmer, M., Fogelman, P., & Gotlib, I. H. (2015). Depressive rumination, the default-mode network, and the dark matter of clinical neuroscience. Biological Psychiatry, 78(4), 224–230.
- Bratman, G. N., Hamilton, J. P., Hahn, K. S., Daily, G. C., & Gross, J. J. (2015). Nature experience reduces rumination and subgenual prefrontal cortex activation. Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(28), 8567–8572.
- Brewer, J. A., Worhunsky, P. D., Gray, J. R., Tang, Y.-Y., Weber, J., & Kober, H. (2011). Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(50), 20254–20259.
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」