No.03 Connect人とつながる
ダブルバインドとは?逃げ場のない言葉の正体
ダブルバインド(二重拘束)とは、矛盾する2つのメッセージを同時に受け取り、どちらに従っても責められる状態のこと。ベイトソンの原義、家庭や職場の身近な例、苦しくなるしくみ、メタの視点で抜け出す方法を紹介します。
この記事の結論
ダブルバインド(二重拘束)とは、言葉と態度など、矛盾する2つのメッセージを同時に受け取り、どちらに従っても責められ、その矛盾を指摘することも許されない状態です。抜け出す鍵は、内容から一段上がり、「どちらを選んでも責められる気がする」と関係そのものを言葉にすることです。
- ダブルバインドは、矛盾する指示に挟まれ、矛盾を指摘することも許されない状態
- 苦しいのは、内容と関係という別の層で、反対のことを言われているから
- 一段上がって矛盾そのものを言葉にすると、身動きのとれなさがゆるむ
目次 Contents
「自分の好きにしなさい」と言われて、好きにしたら、ため息をつかれた。「何でも相談して」と言われて相談したら、「そんなことも自分で決められないの」と返された。どうすればよかったのか、いくら考えてもわからない。
こうしたことがくり返されると、人は動けなくなります。何をしても責められる気がして、言葉を選ぶだけで疲れてしまう。あなたが今そんな状態なら、それはあなたの要領が悪いからではありません。逃げ場のない言葉の構造に、はまっているのかもしれません。
この記事では、その構造を表す「ダブルバインド」という言葉を紹介します。もとの意味と身近な例、苦しくなるしくみを整理したうえで、一段上の視点から抜け出す方法を考えます。
ダブルバインドとは? 一言でいうと
ダブルバインドとは、矛盾する2つのメッセージを同時に受け取り、どちらに従っても責められる状態のことです。日本語では「二重拘束」と訳されます。
たとえば、親が言葉では「こっちにおいで」と言いながら、表情や体は相手を拒んでいる。近づけば拒まれ、近づかなければ「来なさいと言ったでしょう」と責められます。どちらを選んでも、正解がありません。
ダブルバインドが苦しいのは、矛盾そのものより、その矛盾を指摘できない点にあります。「言っていることと態度が違う」と言えれば、状況は変わります。それが許されない関係の中でこそ、人は身動きがとれなくなるのです。
ベイトソンが示した、ダブルバインドの条件
ダブルバインドという考え方は、人類学者のグレゴリー・ベイトソンと、その共同研究者たちが1956年の論文で発表しました。彼らは、ダブルバインドが成り立つ条件を、おおむね次のように整理しています。
- 二人以上の人がいる(片方が、もう片方にとって大切な存在であることが多い)
- その経験が、一度きりではなく、くり返される
- 「〜するな、さもないと罰する」という最初の命令がある
- それと矛盾する、もう一段抽象的なレベルの命令がある(態度や声の調子など、言葉以外で伝わることが多い)
- その場から逃げることも禁じられている
- いったんこのパターンを学ぶと、一部の手がかりだけで同じ苦しさが起きるようになる
論文では、こんな場面が紹介されています。入院中の息子を母親が見舞い、息子はうれしくなって母親の肩に腕を回します。母親は体をこわばらせ、息子は腕を引っこめる。すると母親は「もう私を愛していないの?」と言い、さらに、自分の気持ちを怖がってはいけないとたしなめるのです。
身近なダブルバインドの例
ダブルバインドは、特別な家庭だけの話ではありません。強さの違いはあっても、身近な関係の中で起こります。
どの例でも、言葉と態度、あるいは表の指示と裏の期待が食い違っています。そして、その食い違いを話題にすること自体が、どこか許されていない雰囲気があります。
なぜ、こんなに苦しくなるのか
ダブルバインドの苦しさは、2つのメッセージが、違う層で届いていることから生まれます。
コミュニケーション研究のワツラウィックらは、どんな発言にも「内容」と「関係」の2つの層があると考えました。「好きにしなさい」は、内容の層では許可です。でも、ため息や沈黙は、関係の層で「私の期待を裏切るな」と伝えています。言葉の裏で伝わる意味は、メタメッセージとは?言葉の裏で伝わるもので詳しく扱っています。
受け取る側は、内容に従えば関係を損ね、関係に従えば内容に背くことになります。しかも、相手が自分にとって大切な人であるほど、その場を離れることも、矛盾を指摘することも難しくなります。
この状態が続くと、人は相手の顔色を読むことに、多くのエネルギーを使うようになります。何をしても間違いになるので、自分で判断すること自体が怖くなる。「自分はだめだ」と、自分を責めはじめることもあります。でも、問題があるのは、あなたではなく、メッセージの構造のほうです。
抜け出すための4つのステップ
ダブルバインドから抜け出す鍵は、ベイトソンの考え方そのものの中にあります。苦しさの原因が「矛盾を指摘できないこと」なら、出口は、矛盾について話すことです。会話の内容から一段上がって、関係やパターンそのものを話題にする。これをメタの視点と呼びます。
1. 2つのメッセージを分けて見る
頭の中で絡まっているものを、紙の上で2つに分けるだけでも、心は少し落ち着きます。混乱しているのはあなたの頭ではなく、受け取ったメッセージのほうだと確かめられるからです。
2. 「どちらを選んでも責められる」と名前をつける
状況に名前がつくと、そこから一歩外に出られます。自分の考えを一段上から眺める力については、メタ認知とは?自分を客観視する力の鍛え方で紹介しています。
3. 関係について、言葉で確かめる
伝えられる相手なら、矛盾を責めるのではなく、どちらを優先すればいいかを確かめる形で話します。「〜と〜、どちらを優先すればいいですか」。相手を責めずに自分の困りごとを伝える方法は、アサーティブとは?DESC法で上手に伝える方法が参考になります。
4. 伝えられないなら、距離をとる
相手に伝えることが難しい関係もあります。そのときは、物理的・心理的な距離をとること、第三者に相談することも、立派な抜け出し方です。逃げることは負けではありません。逃げ場のない状況では、逃げ場をつくることが、いちばん大切な一歩になることもあります。
NLPでいう「ダブルバインド」は別もの
NLPやミルトンモデルでは、「ダブルバインド」という言葉が、まったく違う意味で使われることがあります。「宿題は、夕飯の前にする? 後にする?」のように、どちらを選んでも望ましい行動につながる問いのことです。「選択の錯覚」とも呼ばれます。
これは、相手を追いつめる苦しい構造ではなく、行動を始めやすくする問いかけの技法です。ただし、相手が本当は「やらない」を選びたいときに使えば、選択肢を奪う誘導にもなりえます。使うなら、相手の自由を尊重する範囲にとどめたいところです。言葉の技法と、その使い方の境界線については、ミルトンモデルとは?心に届くあいまいな言葉で扱っています。
正解がないときは、問いの外に出ていい
どちらを選んでも責められるとき、私たちは「どちらが正解か」を必死で探します。でも、ダブルバインドの中には、最初から正解がありません。探し続けるほど、疲れていきます。
だから、正解を探すのをやめて、問いの外に出てみてください。「この状況、どちらを選んでもだめな気がする」と、まず自分に言ってあげる。それだけで、絡まった糸の端が見えてきます。
あなたが動けなくなっていたのは、弱いからではありません。出口のない部屋の中で、出口を探していたからです。部屋の外に出るドアは、矛盾を言葉にしたところに開きます。ストレスとの付き合い方全般は、ストレス対処法|心と体のしくみから整えるも参考にしてください。
A question for you
あなたへの問い
どちらを選んでも責められる気がして、動けなくなった場面はありますか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
ダブルバインドの身近な例を教えてください。
「わからないことは何でも聞いて」と言う上司に質問すると、「それくらい自分で考えて」と返される。こうしたことがくり返されると、聞いても聞かなくても責められる状態になります。言葉では「いいよ」と言いながら、不機嫌な態度を示されるのも典型的な例です。
ダブルバインドは、統合失調症の原因なのですか?
ダブルバインドは、もともと統合失調症の原因を説明する仮説として提案されました。しかし、その後の研究で、原因とする説は支持されていません。現在では、家族のコミュニケーションのあり方を考えるための概念として受け継がれています。
NLPのダブルバインドとは、違うものですか?
違う使われ方をしています。NLPやミルトンモデルでは、「宿題は夕飯の前と後、どちらにする?」のように、どちらを選んでも望ましい行動につながる問いを「ダブルバインド」と呼ぶことがあります。逃げ場のない苦しい状況を指すベイトソンの原義とは、区別して考える必要があります。
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References
- Bateson, G., Jackson, D. D., Haley, J., & Weakland, J. (1956). Toward a theory of schizophrenia. Behavioral Science, 1(4), 251–264.
- Bateson, G. (1972). Steps to an Ecology of Mind. Chandler Publishing.
- Watzlawick, P., Beavin, J. H., & Jackson, D. D. (1967). Pragmatics of Human Communication. W. W. Norton.
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」