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アイデンティティとは?「私は何者か」を考える

アイデンティティとは、「自分は何者か」についての、時間や場面を超えたまとまりの感覚。エリクソンの発達論とマーシャの4つの状態、揺らいだときの向き合い方、NLPの論理レベルで肩書きではない「在り方」から自分を定義し直す方法を紹介します。

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この記事の結論

アイデンティティとは、「自分は何者か」について、昨日も今日も自分は自分だと感じられる、まとまりの感覚のことです。心理学者エリクソンが広めた概念で、自己同一性とも訳されます。転職や退職などの節目で揺らぐのは自然なことで、肩書きではなく「どう在りたいか」から自分を定義し直すと、揺れに強くなります。

  • アイデンティティは「自分は自分だ」と感じられる、時間をつらぬくまとまり
  • 揺らぐのは異常ではなく、節目ごとに自分を組み直しているサイン
  • 肩書きや役割ではなく「在り方」で自分を語ると、変化の中でも軸が残る
目次 Contents
  1. アイデンティティとは? 意味をひとことで
  2. エリクソンが考えたアイデンティティ
  3. アイデンティティが揺らぐとき
  4. NLPの論理レベルで、「私は何者か」を整理する
  5. 肩書きではなく「在り方」で、自分を定義し直す
  6. 「何者か」は、決めるより、生きながら見えてくる

自己紹介を求められて、「会社員です」「〇〇の担当です」と答えたあと、ふと考えこんでしまう。もし仕事を辞めたら、私は何者なんだろう。子どもが巣立ったら、親としての役割が終わったら、自分には何が残るんだろう。

「私は何者か」。この問いは、若いころだけのものではありません。転職、結婚、出産、退職。人生の節目に立つたびに、静かに戻ってきます。その問いの前で立ち止まっている人もいるかもしれません。

自分が何者かわからなくなるのは、あなたがぶれているからではありません。それまでの自分の説明が、新しい場面に合わなくなっただけです。古い服が小さくなるように、自分を語る言葉も、ときどき仕立て直す必要があります。

この記事では、アイデンティティの意味を、心理学者エリクソンの考えをもとに整理します。揺らいだときの向き合い方も見ていきます。そのうえで、NLPの「論理レベル」という枠組みを使い、肩書きではない「在り方」から自分を定義し直す方法を紹介します。

アイデンティティとは? 意味をひとことで

アイデンティティとは、「自分は何者か」について、昨日も今日も自分は自分だと感じられる、まとまりの感覚のことです。心理学の用語としては「自己同一性」と訳されます。

この言葉を広めたのは、発達心理学者のエリク・エリクソンです。エリクソンは、アイデンティティの感覚には2つの面があると考えました。ひとつは、時間がたっても、場面が変わっても、自分は同じ自分だという感覚。もうひとつは、その自分を、周りの人たちも認めてくれているという感覚です。

日常会話では、「自分らしさ」や「自分が属している集団」という意味で使われることもあります。「日本人としてのアイデンティティ」のような使い方です。この記事では、主に心理学の意味で、個人としての「自分は何者か」の感覚を扱います。

エリクソンが考えたアイデンティティ

青年期の大きな課題

エリクソンは、人の一生を8つの段階に分けて考えました。そして、段階ごとに乗り越えるべき課題があるとしました。そのうち、青年期の課題が「アイデンティティの確立」です。

子どものころは、親や先生が「あなたはこういう子だ」と教えてくれます。けれども青年期になると、自分で「自分は何者か」を問いはじめます。いろいろな役割を試し、迷い、やがて「これが自分だ」と思えるものを選びとっていく。それがうまく進まないと、自分が何者なのかわからない「アイデンティティの拡散」の状態になる、とエリクソンは考えました。

エリクソンは、大人の責任を引き受ける前に、自分を探す猶予の期間を「モラトリアム」と呼びました。迷う時間は、アイデンティティを築くために必要な時間だととらえたのです。

マーシャの4つの状態

エリクソンの考えを、研究で確かめられる形に整理したのが、心理学者のジェームズ・マーシャです(Marcia, 1966)。マーシャは、「探したかどうか」と「選んで引き受けたかどうか」の2つの軸で、アイデンティティを4つの状態に分けました。

状態探した?選んで引き受けた?たとえば
達成探した引き受けたいろいろ試したうえで、今の仕事を自分で選んだ
モラトリアム探している最中まだ何が自分に合うか、迷いながら試している
早期完了探していない引き受けた親が望んだ道を、疑問を持たずに選んだ
拡散探していない引き受けていない何をしたいかわからず、探す気力もわかない

この表で大切なのは、どれかの状態に一生とどまるわけではない、という点です。「早期完了」だった人が、30代で疑問を持ち、「モラトリアム」に入ることもあります。現在では、こうした行き来は大人になってからもくり返されると考えられています。

心理学者のジェフリー・アーネットは、現代の先進国の若者に注目しました(Arnett, 2000)。10代後半から20代にかけて、長い探索の時期を過ごすことが当たり前になっていると論じたのです。20代になっても自分が何者か決まっていないのは、遅れているのではなく、今の時代の自然な姿なのかもしれません。

アイデンティティが揺らぐとき

「クライシス」は、危機であり分かれ道

アイデンティティ・クライシスという言葉も、エリクソンが広めたものです。「自分は何者か」という感覚が大きく揺らぎ、どう生きればいいのかわからなくなる状態を指します。

ただ、エリクソンのいう「クライシス」は、破綻という意味より、発達の「分かれ道」という意味合いが強いものでした。揺らぎは、これまでの自分を組み直し、新しい自分を選びとるための転機にもなります。

大人になってから、アイデンティティが揺らぎやすい場面には、たとえば次のようなものがあります。

  • 転職や異動、失業で、仕事上の役割が変わったとき
  • 子どもが独立し、親としての役割が小さくなったとき
  • 定年退職を迎え、長年の肩書きがなくなったとき
  • 離婚や死別で、パートナーとしての自分を失ったとき
  • 病気やけがで、それまでできていたことができなくなったとき

ひとつの役割に、自分を預けすぎない

心理学者のパトリシア・リンビルは、自分をいくつもの側面でとらえている人に注目しました(Linville, 1987)。そうした人ほど、ひとつの領域でつらいことが起きても、気分が落ちこみにくかったと報告したのです。仕事だけが自分のすべてだと、仕事でつまずいたとき、自分のすべてが揺らいでしまうからです。

ただし、この考えを確かめた研究をまとめた分析では、結果は一貫していませんでした(Rafaeli-Mor & Steinberg, 2002)。側面の数が多ければよい、という単純な話ではないようです。それでも、「仕事の自分」以外の自分を持っておくと心の支えになる。この感覚は、多くの人の実感とも重なるのではないでしょうか。

作家の平野啓一郎は、人は相手や場面ごとに異なる「分人」を持っていて、そのすべてが本当の自分だと論じました。ひとつの分人がつらい状況にあっても、ほかの分人が自分を支えてくれる。そう考えると、少し息がしやすくなります。

揺らぎの中で「本当の自分はどれなのか」と迷ったときは、本当の自分とは?見失ったときに立ち返る場所も手がかりにしてみてください。

NLPの論理レベルで、「私は何者か」を整理する

「私は何者か」を考えるとき、役立つ枠組みのひとつが、NLP(神経言語プログラミング。優れた心理療法家の観察から生まれたコミュニケーションと自己変容の手法)の「論理レベル」です。NLPのトレーナー、ロバート・ディルツが、人類学者グレゴリー・ベイトソンの考えをヒントにまとめました。

論理レベルでは、人の経験を次のような階層に分けて考えます。

レベル問いたとえば
環境いつ、どこで、誰と?都内の会社で、チームで働いている
行動何をしている?資料をつくり、会議を進めている
能力どうやって? 何ができる?情報を整理し、わかりやすく伝えられる
信念・価値観なぜ? 何が大切?人が迷わずに動けることが大切だ
アイデンティティ私は何者?私は、道筋を照らす人だ
つながり・目的誰のため? 何のため?関わる人が自分の力を発揮できる世界のため

この枠組みが役に立つのは、レベルの混同に気づけるところです。たとえば、プレゼンで失敗したとき、「私は失敗した」は行動のレベルの話です。それを「私は失敗者だ」と受けとると、アイデンティティのレベルに持ちこんでしまいます。一度の行動を、自分の存在そのものの評価にすり替えているのです。

なお、論理レベルは、科学的に検証されたモデルではありません。階層の分け方も、「上のレベルが下のレベルを方向づける」という考え方も、研究で確かめられたものではありません。そのうえで、自分を整理するための地図として使うと便利です。詳しくはニューロロジカルレベルとは?変化の6階層で紹介しています。

肩書きではなく「在り方」で、自分を定義し直す

論理レベルの表を見ると、肩書きや役割は、主に「環境」や「行動」のレベルにあることがわかります。会社名、職種、「〇〇の母」。どれも大切なものですが、状況が変われば失われることがあります。

一方、「人が迷わずに動けるよう、道筋を照らす人」のような在り方は、どんな仕事や場面にも持ち運べます。会社を辞めても、退職しても、地域の活動や家族との時間の中で、その在り方を生きることはできます。

このワークは、社会学者のクーンとマクパートランドが考案した「20答法」という方法をもとにしています(Kuhn & McPartland, 1954)。「私は誰でしょう」という問いに20通りの答えを書いてもらい、その人が自分をどうとらえているかを調べるものです。

書き出してみると、役割や肩書きばかりが並ぶ人もいれば、性質が多い人もいます。どちらがよいということはありません。大切なのは、肩書きがなくなっても残る文が、いくつあるかに気づくことです。在り方を見つける手がかりは、あなたの価値観にあります。価値観の見つけ方|大切なものを言葉にするワークもあわせて試してみてください。

心理学者のダン・マクアダムスは、アイデンティティを、過去・現在・未来をつなぐ「人生の物語」としてとらえました(McAdams, 2001)。在り方の言葉は、その物語の主人公が何を大切にしてきたかを表すものです。肩書きが変わっても、物語は続いていきます。自分についての物語の書き換え方は、セルフイメージとは?書き換えて自分を変える方法でも紹介しています。

「何者か」は、決めるより、生きながら見えてくる

「私は何者か」という問いに、一言で答えられる人はほとんどいません。答えはひとつに定まるものではなく、生きていく中で、少しずつ形を変えながら見えてくるものです。

揺らいでいる今は、居心地が悪いかもしれません。でもそれは、これまでの自分を土台にして、新しい自分を組み立てている最中だということです。急いで答えを決める必要はありません。

今日、もし自己紹介をする機会があったら、肩書きのあとに一言だけ、在り方を添えてみてください。「〇〇の仕事をしています。人の話を最後まで聞くことを大切にしています」。その一言が、肩書きの奥にいるあなた自身を、少しずつ形にしていきます。自分がわからないと感じるときは、「自分がわからない」ときに試したい7つの問いも手がかりになります。

A question for you

あなたへの問い

肩書きを全部外したとき、あなたは自分をどう紹介しますか?

このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。

よくある質問

アイデンティティと自己同一性は、同じ意味ですか?

同じ意味です。英語の identity を心理学の用語として訳したものが「自己同一性」です。日常では、「自分らしさ」や「自分が属している集団」という意味で、アイデンティティという言葉が使われることもあります。

アイデンティティ・クライシスとは何ですか?

「自分は何者か」という感覚が大きく揺らぎ、どう生きればいいのかわからなくなる状態のことです。エリクソンが広めた言葉で、クライシスには「危機」だけでなく「分かれ道」という意味もあります。つらい時期ですが、自分を組み直すきっかけにもなります。

大人になってからも、アイデンティティは揺らぎますか?

揺らぎます。エリクソンは青年期の課題としてアイデンティティを論じましたが、その後の研究では、就職、結婚、子育て、退職などの節目ごとに、問い直しがくり返されると考えられています。揺らぐのは、成長が止まっていない証拠でもあります。

アイデンティティを確立するには、どうすればいいですか?

いろいろな可能性を試して探すことと、そのうえで自分で選んで引き受けることの両方が大切だと考えられています。急いでひとつに決めるより、価値観をふり返り、小さく試しながら、「これが自分だ」と思える在り方を少しずつ選びとっていくのがおすすめです。

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References

  • Erikson, E. H. (1950). Childhood and Society. W. W. Norton.
  • Erikson, E. H. (1968). Identity: Youth and Crisis. W. W. Norton.
  • Marcia, J. E. (1966). Development and validation of ego-identity status. Journal of Personality and Social Psychology, 3(5), 551–558.
  • Arnett, J. J. (2000). Emerging adulthood: A theory of development from the late teens through the twenties. American Psychologist, 55(5), 469–480.
  • Linville, P. W. (1987). Self-complexity as a cognitive buffer against stress-related illness and depression. Journal of Personality and Social Psychology, 52(4), 663–676.
  • Rafaeli-Mor, E., & Steinberg, J. (2002). Self-complexity and well-being: A review and research synthesis. Personality and Social Psychology Review, 6(1), 31–58.
  • Kuhn, M. H., & McPartland, T. S. (1954). An empirical investigation of self-attitudes. American Sociological Review, 19(1), 68–76.
  • McAdams, D. P. (2001). The psychology of life stories. Review of General Psychology, 5(2), 100–122.
  • Dilts, R. (1990). Changing Belief Systems with NLP. Meta Publications.
  • Bateson, G. (1972). Steps to an Ecology of Mind. Chandler Publishing.
  • 平野啓一郎 (2012). 『私とは何か――「個人」から「分人」へ』講談社現代新書.
  • 厚生労働省「まもろうよ こころ」

本当の人生を生きる 編集部

コーチング・NLP・心理学の書籍や研究をもとに、自分を知るための知恵を、やさしい言葉でお届けしています。記事は編集方針に沿って作成し、定期的に見直しています。