No.03 Connect人とつながる
ポジションチェンジとは?相手の立場で見る練習
ポジションチェンジとは、自分・相手・第三者の視点を順に体験し、人間関係のもつれを見直すNLPのワークです。第1〜第4ポジションとメタポジションの違い、視点を変えると楽になる理由、椅子を使った一人ワークの手順を紹介します。
この記事の結論
ポジションチェンジとは、自分の視点(第1)、相手の視点(第2)、第三者の視点(第3)を、椅子や立ち位置を変えながら順に体験するワークです。もつれた関係を外から眺め直すことで、感情に飲まれずに、次にとれる行動を見つけやすくなります。
- 視点は「自分・相手・第三者」の3つが基本。第4やメタは流派で定義が違う
- 人は他人の悩みほど賢く考えられる。視点を外に出すとその力が使える
- 相手の視点は想像にすぎない。最後は相手に聞いて確かめるのが大切
目次 Contents
あの人の言い方が、どうしても許せない。何度も頭の中で言い返しているのに、気持ちはいっこうに晴れない。人間関係でもやもやしているとき、私たちの視界は、自分の目から見える景色だけでいっぱいになっています。
「相手の立場になって考えて」と言われても、頭ではわかっているのに、できない。そう感じるのは、あなたの心が狭いからではありません。傷ついたり腹が立ったりしているとき、自分の視点から離れるのは、誰にとっても難しいことです。
ポジションチェンジは、その「離れる」を、体ごと場所を移すことで手伝ってくれる方法です。この記事では、視点の種類と、視点を変えると楽になる理由を整理します。そのうえで、椅子を使って一人でできるワークの手順と、うまくいかないときの考え方を紹介します。
ポジションチェンジとは? 一言でいうと
ポジションチェンジとは、自分・相手・第三者の視点を、場所を移しながら順に体験し、関係を見直すワークのことです。NLP(神経言語プログラミング。優れた心理療法家の観察から生まれたコミュニケーションと自己変容の手法)で使われ、「知覚位置」の考え方がもとになっています。
知覚位置は、NLPの共同創始者ジョン・グリンダーとジュディス・ディロージャーが、1980年代に体系化しました。同じ出来事も、どの位置から見るかで、まったく違って見える。その位置を意識的に移動できるようにしよう、という発想です。
空いた椅子に相手が座っていると想定して話しかける方法は、ゲシュタルト療法の「エンプティ・チェア」にも通じます。ポジションチェンジは、そこに2つの動きを加えたものです。「相手の椅子に座ってみる」と「外から二人を眺める」です。
4つの知覚位置とメタポジション
知覚位置は、ふつう次のように整理されます。
| 位置 | 誰の目で見るか | 主に見えるもの |
|---|---|---|
| 第1ポジション | 自分 | 自分の気持ち、望み、言いたいこと |
| 第2ポジション | 相手 | 相手の事情、感じ方、相手から見たあなた |
| 第3ポジション | 利害のない観察者 | 二人のやりとりの流れ、くり返しのパターン |
| 第4ポジション | 関係全体(「私たち」) | 二人やチームにとって何がよいか |
| メタポジション | 一段上から振り返る自分 | それぞれの位置で気づいたことの全体像 |
基本になるのは、第1から第3までの3つです。第4ポジションは、のちにロバート・ディルツらが加えたもので、二人やチームを一つのまとまりとして感じる視点とされます。
どれか一つが正しい視点、というわけではありません。第1ポジションが弱いと、相手に合わせすぎて自分を見失います。第2ポジションが弱いと、独りよがりになります。第3ポジションが弱いと、同じ衝突をくり返します。大切なのは、どれかに固まらず、行き来できることです。
なぜ視点を変えると、もつれがほどけるのか
ポジションチェンジそのものを厳密に検証した研究は、多くありません。ただ、視点を移すことの効果については、心理学で興味深い研究が積み重ねられています。
人は、他人の悩みのほうが賢く考えられる
友人の恋愛相談には冷静に答えられるのに、自分のことになると、とたんにわからなくなる。心理学者のグロスマンとクロスは、この現象を「ソロモンのパラドックス」と呼びました。
彼らの実験では、人は自分の人間関係の問題より、他人の同じ問題について考えるときのほうが、賢明に考えられました。複数の見方を考える、自分の知識の限界を認める、といった考え方ができたのです。そして、自分の問題を第三者の目で見るよう促すと、この差は消えました(Grossmann & Kross, 2014)。第3ポジションは、他人の相談に乗るときの知恵を、自分に向けるための方法だといえます。
少し離れると、感情に飲まれずに振り返れる
つらい体験を思い出すとき、その場面に入りこむのではなく、少し離れたところから自分を眺める。クロスらは、この振り返り方を研究してきました。こうすると、感情の高ぶりが抑えられやすく、出来事の意味を整理しやすいことが報告されています(Kross & Ayduk, 2011)。
体験の中に入るか、外から眺めるかという違いは、NLPでは「アソシエイト」と「ディソシエイト」と呼ばれます。詳しくはアソシエイトとディソシエイト|感情との距離の取り方で紹介しています。
ただし、相手の気持ちは「想像」にすぎない
一方で、注意しておきたい研究もあります。エピリーらの一連の実験では、相手の立場に立って想像するよう促しても、相手の考えを当てる正確さは上がりませんでした。正確さが上がったのは、相手に直接たずねて、話を聞いたときでした(Eyal, Steffel & Epley, 2018)。
つまり、第2ポジションで感じたことは、あくまで「仮説」です。ポジションチェンジは、相手の心を当てるための方法ではありません。自分の見方をゆるめ、相手に何を聞けばいいかを見つけるための方法です。
椅子を使った一人ワークの手順
ここからは、実際にやってみます。椅子を3つ用意できれば理想的ですが、2つでもかまいません。立ち位置を変えるだけでもできます。
位置を移るたびに、「切り替え」を入れる
椅子を移るとき、立ち上がって体を揺らしたり、深呼吸をしたりするのには理由があります。前の位置の気持ちを、次の位置にもちこまないためです。NLPでは、これを「ブレイクステート」と呼びます。
第2ポジションでは、相手を「正しく」演じなくていい
相手の椅子で浮かんでくる言葉は、あなたの想像です。それでかまいません。「本当は不安だったのかもしれない」「急いでいたのかもしれない」。浮かんだ可能性は、次に相手と話すときの、確かめる問いの材料になります。
最後は、自分の椅子に戻って終える
ワークの目的は、相手を許すことでも、自分が折れることでもありません。自分の椅子に戻ったとき、最初より少し広い視野で、自分の望みを言葉にできれば十分です。次にかけたい一言は、アイメッセージとは?ユーメッセージとの違いと例文の形にすると、相手に届きやすくなります。
うまくいかないときと、注意点
相手の椅子で、何も浮かばない
相手について、知っていることが少ないのかもしれません。それ自体が大事な発見です。「あの人が何を大切にしているのか、自分は知らない」。そう気づけたら、次に話すときに聞いてみればいいのです。
相手の椅子で、腹が立ちすぎる
相手の視点に入ろうとしても、怒りがわいて自分に戻ってしまう。そんなときは、無理に第2ポジションを続けず、観察者の椅子に移ってください。まず外から眺めることで、気持ちが落ち着いてから、もう一度試すこともできます。
深く傷つけられた相手には、入らなくていい
日常で使う、小さなポジションチェンジ
椅子を並べなくても、視点の移動は日常のあちこちで使えます。
言い返す前に、3秒だけ観察者になる
カッとなったら、天井のあたりから二人を見下ろしている自分を想像します。「今、この二人は何をしている?」。3秒あれば、売り言葉に買い言葉を一回減らせることがあります。
自分に、名前で話しかける
落ちこんだとき、「私はだめだ」ではなく、「〇〇(自分の名前)は、今つらいんだね」と心の中で話しかけてみます。自分を名前や二人称で呼ぶと、ストレスのかかる場面で落ち着いて考えやすくなる、という研究があります(Kross ら, 2014)。頭の中の声との付き合い方は、セルフトークとは?心の口ぐせを味方にするで扱っています。
話し合いの前に、「私たち」の視点で考える
パートナーと家事の分担でもめている。チームで意見が割れている。そんなときは、第4ポジションを使ってみます。「私」でも「あなた」でもなく、「私たち」にとって、これからどうなっていたらうれしいかを考えるのです。
勝ち負けの話だった問題が、二人で取り組む課題に見えてくることがあります。相手と安心して話せる関係があると、この問いはさらに投げかけやすくなります。関係の土台づくりは、ラポールとは?信頼関係を築く5つのコツで紹介しています。
計画を、3つの視点で見直す
夢を語る人、現実的に考える人、批評する人。3つの役割を順に演じて計画を磨く方法は、ディズニー戦略とは?夢を形にする3つの視点として知られています。これもポジションチェンジの応用です。自分を客観的に見る力全般については、メタ認知とは?自分を客観視する力の鍛え方が参考になります。
席を移れば、景色は変わる
人間関係がもつれているとき、私たちは自分の椅子に座ったまま、同じ景色を見続けています。相手が悪い、いや自分が悪い。その往復で疲れてしまうのは、見ている景色が一つしかないからかもしれません。
席を移っても、相手が変わるわけではありません。でも、あなたの見ている景色は変わります。景色が変われば、次にかける言葉も、少し変わります。
まずは今夜、気になっている相手を一人思い浮かべて、心の中で、その人の椅子に一度だけ座ってみてください。そして明日、そこで浮かんだ問いを、ひとつ相手に聞いてみてください。想像の答え合わせは、本人との会話の中にしかありません。
A question for you
あなたへの問い
あの人の椅子に座ったら、あなたはどんなふうに見えると思いますか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
第3ポジションとメタポジションは、同じですか?
流派によって扱いが違います。第3ポジションは、自分と相手のやりとりを外から見る観察者の視点です。メタポジションは、それぞれの視点で感じたことも含めて、全体を一段上から振り返る位置として区別されることが多いです。言葉にこだわりすぎず、「外から見る」「全体を振り返る」の2段階があると考えれば十分です。
相手の立場になりきれません。やり方が悪いのでしょうか?
なりきれなくても大丈夫です。完全に他人の気持ちになることは、誰にもできません。「もし自分があの人の立場だったら」くらいの気持ちで、姿勢や口調を少しまねるだけでも、見え方は変わります。
椅子がなくてもできますか?
できます。床に紙を置いて立ち位置を変える、ノートのページを視点ごとに分けて書く、といった方法でもかまいません。体ごと場所を移すと、視点の切り替えがはっきりしやすい、というのが椅子を使う理由です。
傷つけられた相手の視点に入る必要がありますか?
必要はありません。暴力やハラスメントなど、深く傷ついた相手の視点に無理に入ると、つらさが増すことがあります。そうした関係では、第3ポジションから自分を守る方法を考えるだけで十分です。
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References
- DeLozier, J., & Grinder, J. (1987). Turtles All the Way Down: Prerequisites to Personal Genius. Grinder, DeLozier & Associates.
- Dilts, R., & DeLozier, J. (2000). Encyclopedia of Systemic Neuro-Linguistic Programming and NLP New Coding. NLP University Press.
- Grossmann, I., & Kross, E. (2014). Exploring Solomon's paradox: Self-distancing eliminates the self-other asymmetry in wise reasoning about close relationships in younger and older adults. Psychological Science, 25(8), 1571–1580.
- Kross, E., & Ayduk, O. (2011). Making meaning out of negative experiences by self-distancing. Current Directions in Psychological Science, 20(3), 187–191.
- Eyal, T., Steffel, M., & Epley, N. (2018). Perspective mistaking: Accurately understanding the mind of another requires getting perspective, not taking perspective. Journal of Personality and Social Psychology, 114(4), 547–571.
- Kross, E., et al. (2014). Self-talk as a regulatory mechanism: How you do it matters. Journal of Personality and Social Psychology, 106(2), 304–324.
- Perls, F. S., Hefferline, R. F., & Goodman, P. (1951). Gestalt Therapy: Excitement and Growth in the Human Personality. Julian Press.
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」