No.05 On Coachingコーチングを知る
学習の4段階とは?「できない」から始まる成長
学習の4段階とは、新しいことを身につけるときに人がたどる「無意識的無能・意識的無能・意識的有能・無意識的有能」の4つの段階のこと。いちばんつらい「できないと気づく時期」の乗り越え方や、第5段階と呼ばれる考え方まで紹介します。
この記事の結論
学習の4段階とは、新しいことを身につけるとき、人が「知らないのでできない」「できないと気づく」「意識すればできる」「意識しなくてもできる」の順にたどるという考え方です。「できない」と強く感じる時期は、能力がない証拠ではなく、成長の途中にある自然な段階です。
- 人は、知らない→できないと気づく→意識すればできる→自然にできる、と進む
- いちばんつらいのは「できない」と気づく第2段階。でもそこが成長の入口
- 自然にできるようになると上達が止まりやすい。ときどき意識に戻すのがコツ
目次 Contents
新しいことを始めたばかりのころ、思っていたよりずっとできなくて、落ちこんだことはありませんか。転職先で仕事を覚える、楽器を始める、英語を学び直す。最初のわくわくが、いつのまにか「自分には向いていないのかも」に変わっていく。
その気持ちは、多くの人が通る道です。そして、「できない」と感じることそのものが、実は成長の一部だとしたらどうでしょう。
この記事では、新しいことを身につけるときに人がたどる「学習の4段階」を紹介します。いちばんつらい時期の乗り越え方や、身についたあとに気をつけたいことまで、順番に見ていきます。
学習の4段階とは? 一言でいうと
学習の4段階とは、新しいことを身につけるまでに、人は4つの段階をたどるという考え方です。「知らない」から始まり、「自然にできる」にたどり着きます。「能力の4段階」「学習の4ステップ」などとも呼ばれます。
1970年代にアメリカの研修会社で、ノエル・バーチが広めたモデルとされています。似た考え方は、1969年に教育者マーティン・ブロードウェルも書いています(Broadwell, 1969)。
コーチングやNLP、企業研修などで広く使われています。ただし、実験で確かめられた理論というより、学びの過程をわかりやすく表した経験則です。自分の現在地を知るための地図として使ってください。
4つの段階を、英会話の例でたどる
4つの段階を、英会話を学び始めた人を例に見てみます。
| 段階 | 状態 | 英会話の例 | よくある気持ち |
|---|---|---|---|
| 1. 無意識的無能 | できないことに気づいていない | 「旅行くらいなら何とかなる」と思っている | 気楽、根拠のない自信 |
| 2. 意識的無能 | できないことに気づいている | 実際に話そうとして、言葉が出てこない | 焦り、恥ずかしさ、やめたい |
| 3. 意識的有能 | 意識すればできる | 文を頭で組み立てれば話せるが、疲れる | 手応えと、もどかしさ |
| 4. 無意識的有能 | 意識しなくてもできる | 考えなくても口から英語が出てくる | 自然、楽 |
1. 無意識的無能:知らないので、できないことにも気づかない
最初の段階では、自分に何が足りないのかが見えていません。外から見て簡単そうに思えるのは、その難しさを知らないからです。
この段階は、悪いことではありません。何も知らないからこそ、気軽に一歩目を踏み出せるのです。
2. 意識的無能:できないことに気づく
実際にやってみて、はじめて「思っていたより難しい」と気づく段階です。旅行先で店員に話しかけようとして、簡単な一言が出てこない。自分の力と目標との距離が、はっきり見えるようになります。
3. 意識的有能:意識すれば、できる
練習を重ねるうちに、意識すればできるようになります。ただ、まだ頭をフル回転させないとうまくいきません。文を組み立てながら話すので、会話のテンポについていくだけで、ぐったり疲れてしまいます。
4. 無意識的有能:意識しなくても、できる
さらにくり返すと、考えなくても自然にできるようになります。言いたいことが、そのまま口から出てくる。かつて意識していた手順は、いつのまにか体にしみこんでいます。
いちばんつらいのは「意識的無能」の時期
4つの段階の中で、多くの人がやめたくなるのは、第2段階の「意識的無能」です。できないと気づくことは、前に進んだ証拠なのに、気分としては後退したように感じるからです。
「最初のほうができていた気がする」のはなぜ
第1段階では、自分の力をよく知らないぶん、自己評価が高くなりがちです。実際、ある分野の力が低い人ほど、自分の力を高く見積もりやすいという研究があります(Kruger & Dunning, 1999)。ただし、この結果の一部は統計的な見かけの効果ではないか、という批判もあります。詳しくはダニング=クルーガー効果とは?自己評価のずれをどうぞ。
学び始めて力がつくと、自分に足りないものも見えるようになります。すると、自己評価は一時的に下がります。力が落ちたのではなく、見る目が育ったのです。
この時期を乗り越える3つの工夫
- 目標を小さく分ける:「英語を話せるようになる」ではなく、「注文を一言で言える」から始める
- 比べる相手を変える:上手な人ではなく、1か月前の自分と比べる
- 記録を残す:できるようになったことを書きとめると、進歩が目に見える
できないことに向き合うのは、居心地の悪いことです。慣れた領域の外に出るときの心の動きは、コンフォートゾーンとは?抜け出し方と成長の関係で詳しく紹介しています。能力は伸ばせるものだと考える姿勢については、マインドセットとは?しなやかな心の持ち方も参考になります(Dweck, 2006)。
「意識すればできる」から「自然にできる」へ
第3段階から第4段階へ進むために必要なのは、主にくり返しです。最初は一つひとつ意識していた手順も、何度も行ううちに、まとまった一つの動きになっていきます。
くり返しを続けるには、意志の力に頼りすぎない工夫が役に立ちます。毎日決まった時間に5分だけ練習する、というように、生活の中に組みこんでしまうのです。続けるコツは習慣化のコツ|小さな変化が人生を変える理由で紹介しています。
自然にできるようになった後の落とし穴
自動化すると、上達が止まりやすい
第4段階は、ゴールのように見えます。でも、ここにも落とし穴があります。自然にできるようになると、それ以上は意識しなくなるため、上達が止まりやすいのです。
熟達の研究で知られるアンダース・エリクソンらは、こう指摘しました(Ericsson ら, 1993)。ただ同じことをくり返すだけでは、技能は一定の水準で止まりがちだ、と。上達を続けるには、苦手な部分をあえて意識的に練習することが必要だとしています。つまり、ときどき第3段階に戻ることが、さらなる成長につながるのです。
「第5段階」という考え方
自然にできることは、人に説明するのが難しくなります。体にしみこんだ手順を、自分でも言葉にできなくなるからです。新人に仕事を教えるとき、「なんとなく、こうするんだよ」としか言えなかった経験はありませんか。
そこで、4つの段階の先に、「自然にできることを、意識して説明し、教えられる段階」を置く考え方もあります。呼び方は人によってさまざまで、決まった定義があるわけではありません。ただ、自分のやり方を言葉にし直すことは、他人のためだけでなく、自分の技能を見直す機会にもなります。経験を言葉にする方法は、経験学習モデルとは?経験を成長に変える4ステップで紹介しています。
教える側が忘れがちなこと
第4段階にいる人が誰かに教えるとき、気をつけたいことがあります。自分がかつて第2段階で苦しんだことを、すっかり忘れてしまいやすいのです。
「こんなの簡単でしょう」「見ればわかるよ」。悪気のない一言が、第2段階にいる人をさらに追いつめることがあります。教える立場になったら、相手が今どの段階にいるかを想像してみてください。気づきが必要な人には、やさしく現状を伝える。焦っている人には、進歩を認める。練習中の人には、くり返せる場を用意する。段階によって、必要な支えは違います。
今の自分の段階を確かめてみる
一つのことでも、場面によって段階が違うことがあります。たとえば、英語のメールは第3段階でも、電話は第2段階かもしれません。細かく分けるほど、次に何をすればいいかが見えやすくなります。
「できない」と感じたら、一段上がった合図
学習の4段階が教えてくれるのは、「できない」と感じる時期は、成長の途中にある自然な段階だということです。むしろ、その感覚は、自分の力と目標の距離が見えるところまで来た印です。
人と比べて落ちこみそうになったら、思い出してください。相手は、あなたより少し先の段階にいるだけかもしれません。同じ道の上を、あなたも歩いています。
今日、何かを「できない」と感じたら、それを責める代わりに、「第2段階に来た」と心の中で言ってみてください。地図の上で自分の位置がわかれば、次の一歩も、少し選びやすくなります。
A question for you
あなたへの問い
今、あなたが「できない」と感じていることは、どの段階にありますか?
このメモは、あなたのブラウザの中だけに保存されます。誰にも送信されません。
よくある質問
学習の4段階は、誰が考えたものですか?
1970年代にアメリカの研修会社ゴードン・トレーニング・インターナショナルで、ノエル・バーチが広めたモデルとされています。それより前の1969年にも、教育者のマーティン・ブロードウェルが似た考え方を書いています。心理学者マズローの考えだと紹介されることもありますが、その根拠ははっきりしません。
学習の4段階は、研究で確かめられた理論ですか?
実験で検証された理論というより、学びの過程をわかりやすく表した経験則です。ただ、技能が身につくにつれて意識的な処理から自動的な処理へ移っていくことは、運動学習の研究でも古くから示されています。自分の現在地を知る目安として使うのがおすすめです。
第2段階(意識的無能)で、やめたくなってしまいます。
その時期にやめたくなるのは自然なことです。できないことに気づけたのは、前に進んだ証拠でもあります。目標を小さく分ける、過去の自分と比べる、記録をつけるといった方法で、少しずつ「意識すればできる」段階へ移っていきましょう。
もう一歩深めたい人へ
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- Broadwell, M. M. (1969). Teaching for learning (XVI). The Gospel Guardian.
- Fitts, P. M., & Posner, M. I. (1967). Human Performance. Brooks/Cole.
- Ericsson, K. A., Krampe, R. T., & Tesch-Römer, C. (1993). The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance. Psychological Review, 100(3), 363–406.
- Kruger, J., & Dunning, D. (1999). Unskilled and unaware of it: How difficulties in recognizing one's own incompetence lead to inflated self-assessments. Journal of Personality and Social Psychology, 77(6), 1121–1134.
- Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success. Random House.