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自己実現とは?マズローの欲求段階と本当の望み
自己実現とは、自分がなりうる自分になろうとすること。マズローの欲求5段階をよくある誤解とともに正しく整理し、自己超越、「成功」との違い、自己実現した人の特徴、自分の欲求段階をふり返るワークまで紹介します。
この記事の結論
自己実現とは、心理学者マズローの言葉で、人が自分の可能性を生かし、なりうる自分になろうとすることです。ゴールに到達することではなく、本当の望みに沿って伸びていく過程を指します。外からの評価で測る「成功」とは、基準が異なります。
- 自己実現は「頂上」ではなく、自分の可能性に沿って伸びていく過程のこと
- 欲求5段階は厳密な順番ではなく、ピラミッドの図もマズロー本人の作ではない
- 成功は外の基準、自己実現は内の基準。足りない欲求を知ると本音が見えてくる
目次 Contents
仕事はそれなりにうまくいっている。生活にも大きな不満はない。それなのに、「このままでいいのかな」という声が消えない。自己実現という言葉を調べているあなたは、もしかするとそんな静かな違和感を抱えているのかもしれません。
一方で、「自己実現」と聞くと、少し大げさに感じる人もいるでしょう。夢を叶えた一部の人の話で、自分には遠い。あるいは、意識の高い人が使う言葉のような気がする。
けれど、この言葉を広めた心理学者マズローが描いたのは、特別な成功者の姿ではありませんでした。誰の中にもある「もっと自分らしく伸びたい」という力のことです。違和感があるのは、その力がちゃんと働いている証拠かもしれません。
この記事では、自己実現の意味と、マズローの欲求段階を、よくある誤解を正しながら整理します。そのうえで、「成功」との違いと、自分の欲求を見つめるワークを紹介します。
自己実現とは? 一言でいうと
自己実現とは、人が自分の可能性を生かし、なりうる自分になろうとすることです。英語では self-actualization といいます。
言葉自体は、神経学者のクルト・ゴルトシュタインが先に使っていました。生き物には、自分のもつ力を発揮しようとする傾向がある、という考え方です。これを人の動機の理論として広めたのが、アメリカの心理学者アブラハム・マズローです。
マズローは主著『人間性の心理学』(原題 Motivation and Personality)で、こう書いています。音楽家は音楽をつくり、画家は絵を描き、詩人は詩を書かなければ、心から安らぐことはできない。人は、なりうるものにならなければならない。
ここで大切なのは、「なりうるもの」が人によって違うという点です。誰かが決めた理想像に近づくことではありません。あなたの中にすでにある芽が、伸びたい方向へ伸びていくこと。それが自己実現です。
マズローの欲求5段階を正しく知る
マズローは1943年の論文で、人の基本的な欲求を5つに整理しました。
| 段階 | 欲求 | 中身の例 |
|---|---|---|
| 1 | 生理的欲求 | 食べる、眠る、体を休める |
| 2 | 安全の欲求 | 身の安全、安定した収入、健康 |
| 3 | 所属と愛の欲求 | 家族や仲間とのつながり、愛し愛されること |
| 4 | 承認の欲求 | 人から認められること、自分で自分を認められること |
| 5 | 自己実現の欲求 | 自分の可能性を生かし、なりうる自分になること |
マズローは、1〜4を「欠乏欲求」、5を「成長欲求」として区別しました。欠乏欲求は、足りないと苦しく、満たされると落ち着きます。成長欲求は逆で、満たされるほど、もっと伸びたくなる性質があるとされます。
よくある3つの誤解
欲求段階説は有名なぶん、誤解も広まっています。
ひとつめは、ピラミッドの図です。教科書でおなじみの三角形の図は、マズロー本人が描いたものではありません。のちに経営学の分野で広まった図だと、歴史研究で指摘されています(Bridgman ら, 2019)。
ふたつめは、「下が満たされないと上に進めない」という理解です。マズロー自身、1943年の論文で、順番は固定されたものではないと書いています。複数の欲求は同時に少しずつ満たされていて、人によって順番が入れ替わることもある、と。
みっつめは、自己実現を「最上階に到達すること」と考えることです。成長欲求には終わりがありません。自己実現は到着点というより、ずっと続く伸び方そのものです。
6段階目「自己超越」
マズローは晩年、自己実現のさらに先に「自己超越」を考えるようになりました(Maslow, 1969)。自分の成長だけでなく、自分を超えた何か、たとえば他者や社会、自然や大きな目的のために生きることへ向かう段階です。
この晩年の考え方は、一般的な5段階の図からは抜け落ちがちでした。その点を掘り起こしたのが、心理学者コルトコ=リベラの論文です(Koltko-Rivera, 2006)。人生の目的について考えたい人は、人生の目的の見つけ方|生きる意味に迷ったらもあわせて読んでみてください。
自己実現している人には、どんな特徴がある?
マズローは、リンカーンやアインシュタインなど、自分らしく生きたと考えた人々の伝記や、身近な人を観察しました。そして、彼らに共通する特徴を書き出しています。いくつかを紹介します。
- 現実をありのままに見ようとする
- 自分も他人も、欠点を含めて受け入れている
- 飾らず、自然にふるまう
- 自分のことより、取り組む課題に関心が向いている
- 一人の時間を大切にし、周りの評価に左右されにくい
- 見慣れたものにも、新鮮に感動できる
- 我を忘れるほど満たされる「至高体験」をもつ
- 少数の人と深い関係を結ぶ
ただし、この研究には限界があります。誰を「自己実現した人」とするかは、マズロー自身の判断で選ばれました。科学的な調査というより、優れた観察にもとづく人物スケッチに近いものです。
それでも、このリストは多くの人の心に響いてきました。おもしろいのは、どの特徴にも「何かを手に入れた」という要素がないことです。肩書きや収入ではなく、世界との向き合い方が描かれています。
「成功」と「自己実現」はどう違う?
自己実現を「夢を叶えること」「成功すること」と同じ意味で使う人もいます。重なる部分はありますが、基準がまったく違います。
| 成功 | 自己実現 | |
|---|---|---|
| 基準 | 収入、地位、評価など外の物差し | 自分の可能性を生かせているかという内の物差し |
| 終わり | 達成すると、いったん終わる | 終わりがなく、伸び続ける |
| 比べる相手 | 他人や世間 | 昨日までの自分 |
| 満たされ方 | 手に入れた瞬間がピーク | 取り組んでいる最中に満たされる |
たとえば、念願の昇進を果たしたのに、なぜかむなしさが残った。これは、成功が承認の欲求を満たしても、成長の欲求までは満たさなかった例かもしれません。
反対に、収入にはならない趣味の陶芸に、時間を忘れて打ちこむ人もいます。周りから見れば成功とは呼ばれなくても、その人の中では、確かに何かが伸びています。
成功を目指すことが悪いわけではありません。ただ、「成功すれば満たされるはず」と思っていたのに満たされないとき、その違和感は大切な手がかりになります。外の物差しではなく、自分の物差しで生きたいというサインかもしれないからです。このテーマは自分らしく生きるとは?他人の期待を降りる方法でも扱っています。
ワーク:自分の欲求段階をふり返る
ここからは、マズローの枠組みを使って、今の自分を見つめてみます。点数に正解はありません。
ステップ3で見えてくるのは、今のあなたの「足りなさ」です。睡眠が足りない、安心できる居場所がない、認められていない。そこが満たされないまま自己実現を考えても、心は落ち着きません。まずはそこを整えることも、立派な一歩です。
ステップ4で出てきたものは、あなたの成長欲求の手がかりです。「くだらない」と思う答えほど、大事にしてください。
至高体験を思い出す
マズローは、自己実現と深く結びつく体験として「至高体験」を挙げました。我を忘れるほど満たされ、世界とつながったように感じる瞬間のことです。大げさなものでなくてもかまいません。
この問いで見えてくる「使われていた力」は、あなたの強みや価値観と重なっていることが多いはずです。強みを言葉にしたい人は、強みの見つけ方|資質と才能を言葉にするへ。大切にしたいものを探したい人は、価値観の見つけ方|大切なものを言葉にするワークが手がかりになります。
自己実現に近づくために、今日からできること
マズローは晩年の著作で、自己実現に近づくための日々のふるまいについても書いています(Maslow, 1971)。その考え方を、日常の言葉に置き換えて紹介します。
小さな場面で「成長のほう」を選ぶ
マズローは、人生は安全と成長のどちらを選ぶかの連続だと考えました。いつもの店ではなく、気になっていた店に入る。会議で、思ったことをひとこと言ってみる。大きな決断でなくても、小さな「成長の選択」の積み重ねが、伸びていく方向をつくります。慣れた領域から一歩出る感覚については、コンフォートゾーンとは?抜け出し方と成長の関係も参考になります。
自分の内側の声を聞く
「みんながいいと言うから」ではなく、「私はどう感じるか」を確かめる。マズローは、自分の好き嫌いや感じ方に正直になることを大切にしました。ワインの味を、ラベルを見る前に自分の舌で確かめるようなものです。
没頭できることに、少しだけ時間を割く
自己実現は、大きな転職や独立だけで起きるわけではありません。週に1時間、没頭できることに時間を使う。その時間が、生活全体の手応えを変えることがあります。仕事として形にしたい人は、天職の見つけ方|好き・得意・価値観から探すが次の一歩になります。
「完璧な人」を目指さない
自己実現という言葉は、ときに新しい「べき」に変わります。もっと成長すべき、もっと自分らしくあるべき。そう自分を追い立てはじめたら、少し立ち止まってください。
マズロー自身、自己実現した人にも欠点はあると書いています。頑固なところや、ときに冷たく見えるところもある。完璧な人間はいない、と。自己実現は、欠点のない人になることではありません。欠点を抱えたまま、自分の可能性に正直でいることです。
頂上を目指すより、伸びている芽に気づく
自己実現というと、山の頂上にたどり着くイメージをもちがちです。でもマズローの考えに近いのは、頂上ではなく、伸び続ける植物のような姿です。完成した自分ではなく、今日も少しずつ伸びている自分です。
「このままでいいのかな」という違和感は、あなたの中の芽が、もっと光のほうへ伸びたがっているサインかもしれません。焦って答えを出す必要はありません。
まずは今日、少しでも夢中になれた瞬間を探してみてください。それがどんなに小さくても、あなたがなりうる自分は、すでにそこから顔をのぞかせています。
A question for you
あなたへの問い
時間を忘れて没頭したのは、最近いつ、何をしていたときですか?
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よくある質問
自己実現欲求とは何ですか?
マズローの欲求段階で最も上に置かれた欲求で、自分の能力や可能性を生かし、なりうる自分になりたいという欲求です。お金や地位がほしいという欲求とは違い、満たされるほど、さらに伸びたいという気持ちが続くのが特徴とされます。
下の欲求が満たされないと、自己実現はできないのですか?
マズロー自身、欲求の順番は固定されたものではないと書いています。生活が苦しい中でも、創作や人助けに打ちこむ人はいます。ただ、安全や健康が大きくおびやかされているときは、まずそこを整えることを優先してかまいません。
自己実現と自己超越の違いは何ですか?
自己実現が「自分の可能性を生かすこと」に向かうのに対し、自己超越は、自分を超えた何かのために生きることに向かいます。マズローは晩年、自己実現のさらに先にこの段階を考えるようになりました。
マズローの理論は、今も正しいとされていますか?
欲求に段階があるという大枠は今もよく使われますが、厳密な順番どおりに満たされるという点は、研究で十分に支持されていません。人の動機を考えるための見取り図として使い、絶対の法則とは考えないのがおすすめです。
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References
- Maslow, A. H. (1943). A theory of human motivation. Psychological Review, 50(4), 370–396.
- Maslow, A. H. (1954). Motivation and Personality. Harper & Row.
- Maslow, A. H. (1969). The farther reaches of human nature. Journal of Transpersonal Psychology, 1(1), 1–9.
- Maslow, A. H. (1971). The Farther Reaches of Human Nature. Viking Press.
- Goldstein, K. (1939). The Organism: A Holistic Approach to Biology Derived from Pathological Data in Man. American Book Company.
- Wahba, M. A., & Bridwell, L. G. (1976). Maslow reconsidered: A review of research on the need hierarchy theory. Organizational Behavior and Human Performance, 15(2), 212–240.
- Tay, L., & Diener, E. (2011). Needs and subjective well-being around the world. Journal of Personality and Social Psychology, 101(2), 354–365.
- Koltko-Rivera, M. E. (2006). Rediscovering the later version of Maslow's hierarchy of needs: Self-transcendence and opportunities for theory, research, and unification. Review of General Psychology, 10(4), 302–317.
- Bridgman, T., Cummings, S., & Ballard, J. (2019). Who built Maslow's pyramid? A history of the creation of management studies' most famous symbol and its implications for management education. Academy of Management Learning & Education, 18(1), 81–98.
- Kaufman, S. B. (2020). Transcend: The New Science of Self-Actualization. TarcherPerigee.